WALTER VAN BEIRENDONCK

アントワープの巨匠は今、静かに囁く。 2/3
ISSUE 6
INTERVIEW TEXT YASUYUKI ASANO
WALTER VAN BEIRENDONCKだけでなく、ブランド名も幾つか移り変わってきましたが、それぞれの違いを教えて下さい。

その時代、当時の可能性、そして何よりバジェットがそれぞれ異なりました。ブランド開始当初、そして現在も使用しているブランドWALTER VAN BEIRENDONCKは、私自身による完全なインデペンデント・レーベルです。90年代のWORLD BY WALTER VAN BEIRENDONCKは、より若い人達に向けたセカンドライン的なもの。同じく90年代に発表していたW.&L.T.は、ドイツのジーンズブランドMUSTANGがスポンサーで、大規模なショーやPRを行うことが出来、世界中で広く販売されていました。MUSTANGとの契約終了後5年間は、WALTER VAN BEIRENDONCKという名前での活動が制限されていたので、AESTHETICTERRORISTSという名の下に匿名で活動していました。ただ、2001年のアメリカ同時多発テロ事件以降はそのレーベルをストップし、WALTER VAN BEIRENDONCKの名前で再スタートしました。他にもベルギーのJBCという会社と共に、
ZULUPAPUWAという子供服ブランドも手掛けていて、今年で13年になります。


もし今、またブランド名を変えるとしたら、何と名付けますか?

シンプルに「WALTER」、もしくは文字ではなく、自身のアイコンであるウォルター・マンのマークのみで活動したいですね。





そういえば、ウォルター・マンは毎回コレクションに登場していますよね。何故自分自身をアイコンとして、積極的に露出させるのでしょうか?

ある日、完全に裸で、ペニスをも丸出しにした自身をキャラクターにしたウォルター・マンを生み出しました。裸である理由は、コレクションは私の心からそのまま飛び出してくるとてもパーソナルなものなので、何も身に纏っていない裸の自分をアイコンとすることが、私自身の姿勢を端的に表現していると感じたからです。何も隠すことなく、検閲することもなく、ありのままの自分を全て捧げるという意味です。また、セックスもラヴと同じくらい人生において大切なことだと思うので、ペニスはそれを象徴しています。皆、そのウォルター・マンに非常にポジティヴな反応をしてくれたので、次第にサブ・レーベルのような、コレクションにおける重要なコミュニケーションツールとして存在し続けるようになったのです。


ちょうどヌードやセックスの話になりましたので、次はジェンダーに関してお聞きします。これまで主にメンズウェアをデザインされてきましたが、ウィメンズではなくメンズの魅力はどういったところでしょうか?

これまでメンズのファッションウィークでコレクションを発表してきました。というのも、メンズウェアはより制限が多いので、その限界を押し広げる実験的なアプローチに魅力を感じているからです。ただ、ウィメンズやユニセックス、また子供服などもデザインしてきましたし、1986-87年秋冬シーズンのファーストコレクション「BAD BABY BOYS」の時から、性別やジェンダーだけでなく、様々な肌の色、体格、人種のモデルを通してコレクションを発表してきました。


デザイナーとして成し遂げてきたものは非常に大きいですが、教育者として若いデザイナー達を育ててきたことによる業界への貢献も計り知れないものがあります。アカデミーの教育者としてのキャリアも30年に及び、ベルンハルト・ウィルヘルム、クリス・ヴァン・アッシュ、デムナ・ヴァザリアをはじめ数多くのデザイナー達を世に送り出し、またラフ・シモンズやクレイグ・グリーンはあなたのインターンを務めていた経歴があります。ファッションを教えること、若いデザイナーのメンターになることなど、それらを通じてどのような点が面白いと感じますか?

若いデザイナーに教えるということは勿論大好きですし、30年のキャリアを経て、教育は私に向いていると敢えて言いたいです。私が持っている強いファンタジー性と共に、文字通りアカデミーのトップとして数多くの学生達が自身のアイディアを引き出せるよう、時には導き、時には刺激を与えることで、
非常に良い影響を与えてきたと自負しています。そのように彼らの世界を広げ、新しい発見の手助けをすることは非常に面白いですね。ただ正直に言うと、教育は毎日非常に大きなエネルギーを必要とする大変な作業です。


そのように労力を費やしてきた数多くの生徒達について、何か具体的に印象に残っているエピソードがあれば教えて下さい。

過去30年に渡り、誇りに思っている生徒達は沢山いますので、例を挙げるのは難しいです。伝えたいのは、先程挙げられた有名なデザイナー達だけでなく、ひっそりと無名な存在でありながら、非常に成功している者達も実は世界中にいるということです。


そのように成功を収めたデザイナー達に、学校で先ず真っ先に教えてきたことは何でしょうか?

信じること。我慢強くいること。そして人々にリスペクトを持ち、集中し、正しい方向に向かって努力することです。


以前、ファッションにおける教育方針について、
「デザイナーは在学中にビジネスを学ぶのではなく、クリエイティヴィティを育むことにフォーカスすべきだ」と発言されています。正にその通りだとは思うのですが、同時に、フレッシュなクリエーションを愛する者の一人として、多くの若手デザイナー達が経済的な理由でレーベルを止めざるを得ない状況を目にするのは非常に悲しいです。才能溢れる若手デザイナー達をサポートするために、今、私達が出来ることは何なのでしょうか?

今のファッション業界は、そのような素晴らしい若手デザイナー達の作品をコピーすることや、彼らを奴隷のように働かせることを直ちに止めるべきです。また馬鹿げたファッションを拡散するために使うとんでもない額の予算を、インデペンデントなデザイナー達への投資に使ったりして、もっと彼らのことを大切に扱うべきです。どうして商業的な大企業は、デザインをコピーするばかりで、若い才能を自社デザイナーとして育てようとしないのかが不思議でなりません。彼らこそがファッションの未来なのに。業界内だけではなく、一部の消費者やセレブリティ達にも目を向けるべきです。本物のファッションを買う経済力がありながら、彼らは何故、過大評価されているロゴ入りキャップやコラボレーションアイテムにばかり熱中して、それらを買うことが出来るという経済力やステータスを見せびらかしてばかりいるのでしょうか。そこに自身の意見やスタイル、そしてエレガンスというものは一切存在していません。




WALTER VAN BEIRENDONCK 2018年春夏コレクションより。
PHOTOGRAPHY by RONALD STOOPS