MAGAZINE
GALLERY
MASAAKI IKUNO
ISSUE 7
PHOTOGRAPHY RICARDO WATANABE
FASHION EDITOR & TEXT RISA YAMAGUCHI
MASAKO IKUNO
私の祖母であり育野雅章のパートナー、雅子。世田谷区経堂の自宅にて撮影。
DRESS ¥74,000 BY
UNDERCOVER
(
UNDERCOVER
) SUNGLASSES ¥54,000 BY
MYKITA + AMBUSH®
(
MYKITA JAPAN
)
MASAAKI & MASAKO
1961年8月、稲村ヶ崎の海岸にて。祖父は当時22歳。
KAI ISHIYAMA
造形作家である石山篤のアトリエにて。祖父とは長年に渡る親友であったが、現在彼が入院中の為、息子である海さんがモデルに。
COAT ¥1,900,000 BY
VISVIM
(
VISVIM
)
RIEKO ISHIYAMA
石山篤の妻、理恵子。写っている作品達は勿論全て、石山篤が製作。
TOP ¥65,000, TROUSERS ¥90,000 BY
ISSEY MIYAKE
(
ISSEY MIYAKE INC.)
MARIKO WATANABE
フォトグラファーとして協力してくれた渡邊リカルドの妻、万里子。ファッションブランド、YACCOMARICARDを展開するYM FASHION研究所のCEOでもある。
DRESS ¥38,000, SHIRT ¥66,000, HAT*, SNEAKERS* BY
YOHJI YAMAMOTO
(
YOHJI YAMAMOTO PRESS ROOM
) SUNGLASSES MODEL’S OWN
SEI WATANABE
渡邊リカルドと万里子の娘、青。 YACCOMARICARDのチーフ ディレクターとして活躍。
MEN’S COAT ¥471,500 BY
ANN DEMEULEMEESTER
(
LIFT ÉTAGE
)
RICARDO WATANABE
今回の撮影をしてくれたフォトグラファー の渡邊リカルド。「自宅にあるピアノを 演奏するからその様子を撮って欲しい」 と言われ、その様子も撮影。
JACKET ¥219,900 BY
TAKAHIROMIYASHITATHESOLOIST.
(
GROCERYSTORE.
)
KAZUMASA MIYATAKE
豪徳寺にあるレストラン「PICON BER」のマスター、宮武一昌。祖父が開業当初より何度も足を運んだ馴染みの店である。
BLOUSON ¥76,000 BY
N.HOOLYWOOD
(
MISTER HOLLYWOOD
)
KIYOKO DUMANJU & BIN MUTOH
祖父とは大学生時代の同級生であった武藤敏(右)。現在はパリに住んでおり、一時帰国中の彼に「PICON BER」で会うことが出来た。また祖父が若い頃、パリに行った時に武藤さんの紹介で知り合い、モナコ公国海洋博物館館長だった故フランソワ・ドゥマンジュのパートナー、貴代子。
MASAKO & MARIKO
今回の撮影前日、「PICON BER」 にて雑談中の二人。
TOP* BY
KENZO
(
KENZO PARIS JAPAN
)
HAYATO TAKABUCHI
サンク・アール現社長の高渕勇人。 今シーズンのKENZOのテーマが坂本龍一だったので、YMOの増殖人形と共に。YMOが1980年に発売したアルバム『増殖』の模型をサンク・アールが製作した経緯がある為、一緒に撮影。
TOP ¥51,000 BY
KENZO
(
KENZO PARIS JAPAN
)
MASAHIKO KOHSHITA
サンク・アール事務所の一階にある小道具屋「DSTORAGE」の店長、香下真彦。
BLOUSON ¥65,000 BY
WTAPS
(
GIP-STORE
)
JUN HONDA
同じく「DSTORAGE」 のスタッフ、本田純。
DRESS ¥137,000 BY
OFF-WHITE ℅ VIRGIL ABLOH™
(
EASTLAND
)
DANZO IKUNO
育野雅章の息子、団蔵。私の叔父でもあり、現在はサンク・アールの経理担当として働いている。
1964年12月、新宿アートフェスティバルにて、ジャズの演奏と共にインスタレーション作品を発表中の一コマ。当時24歳の祖父(写真右)。
RISA YAMAGUCHI
生前、祖父の社長室であった部屋にて私自身も被写体として撮影に参加。数年振りに訪れたこの部屋は今もなおその面影は残しつつ、現在は会議室として使用されていた。
DRESS ¥63,000 BY
WMV
(
VISVIM
)
サンク・アール立ち上げメンバーの一人、佐藤保の作品達。現在は流木彫刻の第一人者として活動している。
東京・新宿にあったモダンジャズ喫茶「VOO-DOO」に集っていた仲間達がこの日は場所を湘南に移し、イベントを開催。たまたま通りかかった写真家が撮影し、それが後に『アサヒグラフ』に掲載される。上半身裸でガタイの良い男性は三島由紀夫。隣でしゃがんでいるのが祖父と祖母。
出会えた喜びなのか、もう戻れない悲しみなのか。
次のテーマは何にしようか」と次号に向けての話し合いをする中で、「もっとパーソナルな何かを組み込んだ雑誌作りをしてもいいのではないか?」という結論に至ったのがおよそ数ヵ月前。編集者という仕事を生かして、大好きな祖父と何か一緒に仕事をすることが密かな目標だった私は、すぐにこの企画が頭に思い浮かんだ。私の人生に沢山の刺激や感動を与えてくれた祖父、育野雅章にまつわるストーリーにしようと。72歳でこの世を去ってしまった彼だが、未だに実感が湧かず、世田谷区経堂にある家に行けばすぐに会えるのではないかと錯覚してしまうほどだ。
ヒッピーで「超」が付く程の貧乏時代を経験し、大酒飲みでヘヴィスモーカー。その武勇伝は数知れないが、中には、飲んだ帰りに乗車したタクシーの運転手と仲良くなりそのまま一緒に飲みに行き、運転手を連れて徒歩で家に帰って来たこともあったというエピソードも。武蔵野美術大学油絵科出身の祖父は、兄が東宝撮影所で働いていたこともあり、学生時代から現場に出入りしていたという。卒業後は画家の島田澄也に師事し、全盛期だった黒澤明監督の映画で造形を担当していたそうだ。そこで出会った五人の仲間達と「島田工房」改め、現会社である「サンク・アール」を立ち上げた。
紆余曲折ありながら、三代目社長に就任してからもエネルギッシュでポジティヴ思考なそのマインドは変わらず、本当に周りから愛されていた人だった。お金が無くても楽しめる人で、所謂、世間一般の“お祖父ちゃん像”とは異なり、バカみたいなことにも存分に付き合ってくれて、沢山のサプライズや、私では思い付かない面白い遊びも提案してくれた。手先が器用な人だったので、当時流行っていたピカチュウの耳をイメージしたヘアセットをしてもらい、深夜までカラオケを楽しんだり、私が買い物に連れ回しても丁寧に服のアドバイスをしてくれたり、私にとって友達以上に特別な唯一無二な存在だった。馴染めなかった中学校の話や将来の話など、何でも相談する中で、年齢、性別、職種など一切関係無く、誰に対しても一人の人間として接するその姿勢に、幼心ながらも尊敬の念を抱いていた。
「ただ一つ心残りだったのは、会社をリタイアした後、自分の原点でもある造形作りや版画に没頭出来なかったことだと思う」。パートナーであった祖母がそう呟く。社長業に徹する為、当時愛用していた筆や絵の具などは全部捨てるという徹底ぶりだった。やりたいことが出来なかった分、引退後はとにかく大きい造形物を作りたかったと話していたそうだ。晩年、闘病中は「弱い姿を誰にも見せたくない」と入院中の面会は親族以外は拒否し、遺書には死に顔を隠す為にひょっとこのお面を被せて欲しいと記されていた。皆に笑っていて欲しいという思いも込められたユニークな祖父らしいアイディアだったが、その心遣いはより一層参列者達を悲しませた。2012年7月19日の早朝、姉からの電話で訃報を知った私は急いでタクシーに乗り、祖父の元へと向かったことを今でも鮮明に覚えている。
そんな愛すべく祖父にまつわる“物語”を撮影したいと思い立ち、この企画を実現するにあたって最初に相談をしたのが、祖父と大学時代からの親友であったフォトグラファーの(渡邊)リカルドさん。私の家系は親戚が少なく、何かのお祝いがあるとこの撮影企画に出演してくれた人達のほとんど全員が集まるのが恒例だった。皆とは血が繋がっていると思っていたが、そんなことはなかったのだと大人になって知ったくらいだ。今回の企画趣旨を伝えると二つ返事で「いいよ」と承諾してくれたリカルドさんや、突然の撮影に協力してくれた皆さんに感謝したい。
久しぶりに祖父と会話出来たような、不思議な感覚を味わいながら二日間に及ぶ撮影は無事に終了した。撮影が行われたのは東京に数年振りの大寒波が訪れ、大雪に見舞われたその週末。残雪も多く地面は凍っていたが、眩しい程に良く晴れ、不思議と寒さも感じない穏やかな日だった。まるで晴れ男だった祖父が味方してくれたかのように。ー
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