KIKO MIZUHARA

水原希子 2/2
ISSUE 1
PHOTOGRAPHY RICHARD BURBRIDGE
FASHION EDITOR NICOLA FORMICHETTI
TEXT JUNSUKE YAMASAKI
KIKO MIZUHARA 1


以前勤めていた出版社が手掛けていたガールズ系ブランドのムック本撮影で、少し英語が話せるというだけの理由で僕も通訳がてらLAでの撮影に同行することになる。「ガールズ系ファッションには疎いし、若いモデルちゃんとのコミュニケーションなんて絶対にできない……」というのが渡航前の本音だった。しかし、決して真意をオブラートに包むことのない素直さと、聡明なその“モデルちゃん”に接して「この子は何かが違う」と感じたのが約5年前。そんな彼女とロンドンやパリ、ニューヨークなど、何度となくともに旅をすることになるとは思ってもいなかった。

水原希子は“気遣いをするポイント”に気付くことができる気遣い屋さんではなく、周囲の人の心のケアをできる人だ。例えば、お酒を飲めない人がディナーの席で困っていたら、そっと空になった自分のグラスと、その人のグラスを交換してあげられる。何でもないことかもしれないが、周囲が気付かないくらいのスムーズさでそんなことをさり気なくできる人だ。いかなるときでも決して自分自身が最優先ではないし、置かれた状況を総体的に捉えて行動する。撮影チーム、共演者、自らのマネージャーなど、あらゆるスタッフの置かれている状況にアンテナを貼り巡らしている。野球にたとえていえば、“打てる”キャッチャーのようなタイプなのかもしれない。だからこそ撮影はいつだって円滑に進むし、スタッフたちも「希子ちゃんLOVE!」となるのである。写真家との関係性でいえば、モデルをしているときの彼女は、写真家の真意を撮影現場の誰よりも素早く察知し、ポーズや動きで様々な逆提案を仕掛けていく。冒頭に述べた旅というのは、僕自らがコーディネイトをした撮影やショー出演などでの付き添い的旅なのだが、一世を風靡したスーパーモデルたちを飽きるほど撮ってきたような海外の大御所写真家たちが彼女にレンズを向け、そして、必ずと言っていいほど水原希子の虜になる。そんな光景を何度も目にしてきたし、僕自身、彼女以上のファッションモデルを見たことがない。

日本だけでなく、アジアや欧米でも広く認知されるようになった水原希子。なぜ彼女はこれほどまでに特別な存在になっているのだろうか?  それは彼女が己を追求しているからに他ならない。周囲の雑音は上手にかわし、同業“他者”との不毛な比較をすることもなく、と同時に、一切の活動を自分のためだけに行っているわけではないからであろう。つい先日、色々とキャッチアップするべきこともあり、長電話をしていたときのこと。ふとしたことから日本のファッション界の在り方についての話しが始まった。彼女なりに、彼女のような立場の人がやってこなかったアイディアをいくつも持ち、未来の日本のファッション界に変革と進歩をもたらすべく、とてつもなくクリエイティヴなヴィジョンを語ってくれた。海外のクリエイターたちと撮影することが頻繁にある彼女は、日本にももっと多様なファッション表現を受け入れる土壌を作ると同時に、そうした価値観を生み出すことのできる才能を育てるべきだと話す。未だ24歳の彼女が、すでに彼女よりも若い世代のことをも考えて行動しようとしていることに驚きを隠せなかった。精神年齢はおそらく40歳前後といったところだろうか。これまであまり公に語られる機会はなかったかもしれないが、ファッションや写真、人生観に至るまで、彼女は様々な事柄を脳内で深く掘り下げ、常にスポンジのように吸収を続けながら自分自身の考えを構築してきている。世間一般の同世代の誰よりも多くのインプットをしてきているだろうし、その豊かな経験値とともに、大胆かつ冷静沈着な発想をすることのできる数少ない人間なのだ。レンズの前で笑顔を振りまくだけの単なる生きたマネキンとしてのモデルではなく、本号でインタビューをしたVISVIM中村ヒロキの言葉を借りるなら「中身からデザインする」という彼のデザイン精神と限りなく近い、“中身からデザインされた”真のロールモデルなのだと思う。

ただ、この文章を書き終えようとしている正にこの瞬間、ふと気付いたことがある。僕ら雑誌制作サイドは無意識に彼女を現代日本人女性の代表として捉えていたが、“血”を基準値としたとき、一般的には彼女は「日本人ではない」とされてしまう。ただ、彼女はやはり生粋の日本人だと僕は思う。ご両親の国籍は日本ではないが、育ったのは日本で、今も日本に住み、日本語を母国語として話し、日本人としての侘び寂びや、「和」への造詣も深い。日本人としてのアイデンティティをすべて持ち合わせている彼女だが、“血”が日本人ではないという理由だけで、彼女は日本人ではないのだろうか?  そもそも日本人とは何なのか? 誰こそが日本人だといえるのだろうか? 一つだけ明言できることがある。「“血”がどうのこうの」なんていう論点はこの号には一切関係ないし、必要ない。ここではリチャード・バーブリッジが撮り下ろした水原希子という大和撫子の魅力を、一人でも多くの読者に味わってもらえればそれで良いのだから。


HAIR & MAKEUP KATSUYA KAMO AT KAMO HEAD.
MANICURIST EICHI MATSUNAGA.
PHOTOGRAPHIC ASSISTANT KIM REENBERG.
DIGITAL TECHNICIAN KEVIN KUNSTADT AT CAPTURE THIS.
RETOUCHING TOMOKO INOUE AT IINO GRAPHIC IMAGES.
STUDIO ASSISTANTS KENJI YAMASHIRO, HAN GIL RYUNG, MAMI MURAKAMI AT IINO MEDIAPRO.
STYLING ASSISTANTS YASUHIRO TAKEHISA, KOTARO TAKAHASHI, NAOKI AKIYAMA, RIKI YAMADA, KEISUKE FUJITA, RIEKO SANUI.
HAIR & MAKEUP ASSISTANT TOMOKO SATO.
MODEL KIKO MIZUHARA AT ASIA CROSS.
SPECIAL THANKS TO HITOSHI NAKANE AT IINO MEDIAPRO.