TAO

日本人であることの誇り。
ISSUE 1
PHOTOGRAPHY NORBERT SCHOERNER
FASHION EDITOR SHUN WATANABE
INTERVIEW TEXT NAOKI KOTAKA
TAO 1

JACKET ¥398,000, SHIRT, TROUSERS ¥92,000 BY SAINT LAURENT BY HEDI SLIMANE (YVES SAINT LAURENT)


TAO 2

VEST ¥190,000, TROUSERS ¥135,000, BELT ¥60,000 BY HAIDER ACKERMANN (SANKI SHOJI)


TAO 3

TAO 4

JACKET ¥710,000, SHORTS ¥330,000 BY GIORGIO ARMANI (GIORGIO ARMANI JAPAN)


TAO 5

DRESS BY LOUIS VUITTON (LOUIS VUITTON CLIENT SERVICE)


金髪にしたりカラコンをつけたり、持って生まれた美しさにどうして自信が持てないのかな?」。日本の若者について意見を求めると、まるで10代の頃の自分を反芻するかのようにそう答えた。1985年5月22日、千葉県市川市にTAOは生まれた。思春期の彼女は勉学に励み、部活動に精を出す至って普通の女の子だったという。同年代の他の女子たちに比べると格段に違っていた類い稀なルックスは、当時の彼女にとってはコンプレックスでしかなかった。「どうやったら自分を好きになってあげれるか?」。思春期の若者なら誰もが感じる自分の存在意義を、モデルを目指すことで見つけようとした。

モデルとしてのキャリアをスタートして15年、TAOは名実ともに世界のトップモデルの仲間入りを果たした。しかし、モデルを始めた当初は国内の雑誌やデザイナーからは相手にされることも少なく、声が掛かるのは海外からデザイナーが来日するときばかりだったという。「日本で認めてもらえなかったことが 悲しくて悔しくて、自分はこの国の価値観に選ばれなかったのだと感じていました」海外への憧れ以上に、いつか日本人を見返したいという反骨の想いで彼女は日本を飛び出した。

2006年、パリに単身移住した当時はヨーロッパやアメリカにおいてアジア人モデルは未だ市民権を得ていなかった。アジア人であることが、自分がモデルとして選ばれない要因である事実に納得がいかなかった。「NOといわれると余計にがんばってしまうというか……」と思い出して笑う彼女だが、飛び込みで編集部に顔見せに行ったり、アーティストのマネージメント事務所に行ったり、当時は無鉄砲を憚りもせず貪欲に自身の可能性を模索していた。

その後、数年が経過し彼女に転機が訪れる。フィリップ・リムに見出され、2009年2月のNYファッションウィークにおける彼のショーでオープニングモデル に抜擢され、続くロンドン、ミラノ、パリでも数多くのショーに出演した。こうしてモデルとして大きな躍進を遂げたTAOだったが、当の本人は「注目されているという意識は全くなかった」という。なぜなら、好景気の中国を市場開拓する上でのマーケティング効果を見越してアジア人モデルが評価されている 海外での状況と、未だハイファッション自体がマイノリティである日本での状況では、どうしても自分が“日本人”として世界からも日本からも正当に評価されているとは実感できずにいた。ただし、このブレイクを機に、彼女自身の意識は確実に変わりつつあった。「日本人であることを忘れるようにしたんです 」。日本人だから、アジア人だからという前提をなくし、自分はいいモデルなのかどうかを自分自身に問いかけるようになった。「日本人であることを誇りに、自分で持って生まれたものを言い訳にしたくないなと」。

2013年には映画『ウルヴァリン:SAMURAI』への出演をきっかけに女優としてのキャリアを歩み始めたTAOだが、日本では妬まれることもあったという。 「私を評価してくれる場所は日本の他にあって、それでいいと思うときもあるけれど、やっぱり諦められない」。彼女は自分と日本の関係を「複雑な片思い」だと言って笑う。「自分を100%褒めてあげられない性格が私を前進させてくれるんです」。10代の頃に感じた疎外感の正体は、彼女が自分自身に向けた未だ見ぬ理想の自分への願望そのものだったのかもしれない。「家庭を持ちたいという願望だったり、仕事だけではない一人の女性としての生き方も考え始めています」。現在の目標をそう語るTAOの次なる理想の自分への歩みは、もう既に始まっている。


HAIR & MAKEUP KATSUYA KAMO AT KAMO HEAD.
RETOUCHING TOMOKO INOUE AT GRAPHIC IMAGES.
PHOTOGRAPHIC ASSISTANTS TOM MORAN, RIYO NEMETH.
STUDIO ASSISTANTS KENJI YAMASHIRO, HAN GIL RYUNG AT IINO MEDIAPRO.
STYLING ASSISTANTS KEISUKE FUJITA, RIEKO SANUI.
HAIR & MAKE UP ASSISTANTS KEIKO TADA AT MOD’S HAIR, TOMOKO SATO.
MODEL TAO AT DONNA.
SPECIAL THANKS TO HITOSHI NAKANE AT IINO MEDIAPRO.