彼女のことを初めて知ったのは約2年半前。友人のスタイリストであるアナ・トレヴェリアンが、ニューヨークのショップ兼デジタルプラットフォームとして知られるVFILESが主宰する若手デザイナーの合同ショー、「VFILES MADE FASHION」にてスタイリングを手掛けたと聞いて、STYLE.COMで何気なくランウェイ写真をチェックしていた時のことであった。3人目のデザイナーとしてショーのラストに登場した、 ホラーフィルムにインスパイアされ「FEAR」というスローガンが散りばめられたコレクションは、一夜にして業界にセンセーションを巻き起こした。その少し後、リアーナが着用したことで更なる高まりを見せる。COMME DES GARÇONSのショーに、見覚えのある「FEAR」という文字が描かれたフェイクファーのスカーフを、右肩で背負うように持って登場した現代のポップアイコンの姿はあまりにもアイコニックで、インターネットで拡散され続けるその写真を見た僕は、彼女のデザイナーとしての今後のキャリアを容易に想像できた。
今まで一度も足を止めず、ずっとずっと走り続けてきました。「VFILES MADE FASHION」でショーを行った卒業コレクションが、大学院課程のコレクションを制作している間にどんどん大きなものになり、人生のプランが大きく変わってしまいました。実は元々、自分自身のレーベルを持つことなんて全く考えたことが無くて、大きなファッションメゾンやデザイナーブランドでインターンをしたいと思っていましたが、そうするには既に遅すぎる状況でした。なので、立ち上げ当初から無理矢理スタートしたという感じなのです。そのような、言わば傷だらけの状態からレーベルの体裁を整えていくのは、決して簡単なことではありませんでした。学校にいる間はもっとシンプルでした。何ヵ月にも渡ってアイディアを膨らませ、10体ほどのコレクション制作に集中する時間が十分に与えられていました。それが今は同じ時間で二つのコレクションを制作しなければなりません。そうしている内にいつの間にか自らのリズムを失い、物事が上手くいかなくなってしまいました。ショールームの日程が近付くに連れ疑念に囚われるようになり、「スケジュール通りにこの不細工な作品を完成させてしまうべきか、それとも満足がいくまでやり直すべきか?」と常に考えていました。そして遂に、前々回の2015-16年秋冬シーズンに、ショールームのスケジュールを全てキャンセルして、 コレクション制作を続けることを決めたのです。もうその時は、売上のことなど全く気にしていませんでした。自分にとって本当に大事なことは、胸を張って見せることができるものを作ることなのだと気付いたんです。勿論そのキャンセルにより、バイヤーからの信頼を失い、今後の売上に大きく影響するかもしれないということは理解していました。でも驚くべきことに、全てのバイヤーが戻ってきてくれ、売上も倍増しました。皆が励ましてくれて、私が下した決断にも尊敬の意を示してくれました。そのように、2015-16年秋冬コレクションの発表が遅れてしまったので、同時に生産も遅れ、その結果2016年春夏コレクションを制作する時間が無くなってしまいました。その時既に他のデザイナー達は2016-17年秋冬コレクションを制作しているタイミングだったので、2016年春夏シーズンをスキップして、2016-17年秋冬シーズンの制作に入りました。なので、実はただ半年間休むことにした、ということではないんです。今は少しずつスケジュールに追い付いてきていますが、未だに大変です。もし以前と同じ状況になった時は、間違いなく同じ決断をすると思います。良いコレクションを作ること、それが私の最も大切なことなんです。
今回の2016-17年秋冬コレクションは、5月にヘルシンキで行われた「MATCH MADE IN HEL」で発表されました。2014-15年秋冬シーズンに「VFILES MADE FASHION」に参加して以来2回目のショーだったと思いますが、久々のランウェイショーはどうでしたか?
「BAD EDUCATION」と題された2015年春夏コレクションは、学校を追い出された少女のストーリーで、「SCHOOL KILLS」「SCHOOL RUINED MY LIFE」といった刺激的なメッセージが並んでいました。でもそれは決してあなた自身の学校生活に基づいた実話ではなく、実際は100名の内で数人しか卒業できないといわれる名門校を卒業していますよね。自身とこの少女、それぞれの学校生活と、両者の関係についてお聞かせ下さい。
これはある意味では私自身の実話で、実際の学校生活を反映しています。御存知の通り、アントワープ王立芸術アカデミーはその厳しさでも悪名高い学校です。毎年クラスの半分の生徒がいなくなり、卒業できるのは一握りの生徒のみです。先生は皆とても厳しくて、生徒の多くは苦しんでいます。私の場合、先程お話した通り、「VFILES MADE FASHION」でショーをした直後から、リアーナに着用してもらったりしたことは本当に嬉しかったのですが、同時に多くのオーダーを受けてしまい大変なことになりました。大学院課程の卒業コレクションを制作中だったにも関わらず、レーベルのビジネス面を進めていかなければならない状況で、学期中にオーダーの生産のためにソウルに戻ったりもしていました。当初は「滅多にないチャンス」だということで、先生は例外的に扱ってくれていましたが、授業の半分以上に参加できずにいたある日、ファッション学科の校長であるウォルター・ヴァン・ベイレンドンクから長い長いメールを受信しました。そこには「あなたは今までで最悪の生徒だ」と書かれていました。これはもう卒業できないなと思いましたね。それでも何とか一ヵ月で卒業コレクションを完成させ、それこそが2015年春夏シーズンの「BAD EDUCATION」なのです。「SCHOOL RUINED MY LIFE」といったメッセージは、そのような経験を逆手に取ったものです。ウォルターをはじめとした先生達は皆、過度にそのようなメッセージに反応することはなく、逆に気に入ってくれたのが幸いでした。
今までのコレクションで用いてきた様々な言葉は、コレクションで伝えたいストーリーを端的に表しているキーワードです。そういったスローガンを毎回必ず捻り出そうとしているわけではなく、ドローイングやグラフィックと共に自然に浮かんでくる言葉という感じです。でも2014-15年秋冬シーズンの「FEAR EATS THE SOUL」コレクションの場合は、はっきりとストリートウェア的な美学を用いたいというアイディアがあったので、力強いロゴとフォントが絶対的に必要でした。元々は大学課程の卒業コレクションとして制作していたものだったので、セールス面は全く気にしていなかったのですが、沢山の人達からの良いフィードバックを頂いたことで、「皆は私のデザインのどこを気に入ったのだろう?」「私のスペシャルな部分ってどこなのだろう?」と考えるようになりました。新しい実験を取り入れながらも、その気持ちを今でも忘れないようにしているので、それもスローガンの存在に影響しているのかもしれませんね。