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J-NERATION / YOSHIKAZU YAMAGATA
未来を創る才能たち。/山縣良和 6/9
ISSUE 1
INTERVIEW TEXT SHINGO ISOYAMA
山縣良和
WRITTENAFTERWARDS / WRITTEN BY FASHION DESIGNER
共有し、理解すること
「なんだか訳のわからない、怖い人」。彼に出会う前、僕はそう思っていた。しかし、山縣の下で2年間、アシスタントとしてともにイメージを作り続けていく中で、そんな世間のイメージとは違う彼の本当の姿を僕は知ることとなる。一緒に作業をしていたときのことを思い出す。“ここ一番”というとき、ZARDの『負けないで』を流し、自分を鼓舞するようにリズムにノリながら作業する彼のセンチメンタルな一面など、僕が近い距離で過ごしてきたからこそ見えた、表舞台に立つ山縣良和とは違う彼の姿はこのようなものだ。
神田のアトリエ近くのカフェで行ったインタビューに、襟を立てたダブルのジャケットに光沢感のあるパンツという、この2年間で一度も見たことのないようなフォーマルな格好で山縣はやってきた。「年相応の格好をしようと思って(笑)。最近、WRITTEN BYという新しいラインを立ち上げたのだけれど、僕はWRITTEN BYを通してチャーミングで魅力的な大人像を作れたらいいな」。さらに彼は「憧れの大人像」についてこう続ける。「僕は幼少期、憧れの大人像がなかったんだ……。周りが野暮ったいおじさんばかりでカッコ良い大人がいなかったので、大人に対してすごいネガティヴな印象があって」。WRITTEN BYの撮影のため、山縣のルーツである鳥取には二回ほど同行したことがあるが、「僕の性格の暗さは山陰の“陰”に由来している」と彼が語る通り、ファッションとは無縁で閑散としていた。WRITTEN BYにはそんな彼の幼少期の体験が反映されている。
「まだ時差ボケが治っていなくて(笑)」。つい先日までTOKYO FASHION AWARDの受賞デザイナーとしてパリで展示を行ってきた山縣は、そうぼやきながら、パリで感じてきたことについて語り始めた。「僕が泊まったホテルの目の前が、正に新聞社の銃撃戦の現場だったんだけど、その路上は花やメッセージボード、オブジェで埋め尽くされていて。街には賛成か反対の意見しかなくて、それでは一向に交わらない戦いをしてるんじゃないかなって気がしたんだよ。そのときに僕が強く思ったのは、主張と主張の“間”を読むということの必要性。YESかNOかの二択ではなく、空気を読むという選択肢を加えることが国際スタンダードになれば、もうちょっとマシになるんじゃないかな。今こそ客観的な視点を複数持ち、それぞれの立場で物事を考えられる本物の知性が必要なんだと思う」。
大量消費や大量生産などという言葉に形容される、ファッションを消費することへのネガティヴなイメージを払拭していきたいと話す山縣。ファッションの魅力や奥深さを様々な場所で語ってきている彼にとっての贅沢とは、どのようなものなのだろうか? 「行為や時間を共有することが現代の贅沢なんじゃないかな。贅沢つながりでいうと、ヨーロッパではラグジュアリーなものを買う人がどんどん減ってきていると思う。精神的なラグジュアリー感というものが変わってきているのかもしれない。けど、僕の中では、ある種のラグジュアリーというものは必要だと思っている。特定の貴族のために向けたものじゃなく、伝統の継承や技術の提供、残していきたいものを作るという意味でね。そういうクリエイションができる環境が必要だと思うし、僕もそういうモノ作りをしたい」。ゴミコレクションや神様のコレクションなど、ツイストを効かせたクリエイションが注目される山縣だが、何かを共有し理解することが重要だと、彼は日々繰り返し言っていた。「人に嫌われることが何よりも嫌だ」。そんな山縣の“人に嫌われないための処世術”から生まれた考え方なのかもしれない。
ファンタジー的な表現だけでなく、現実に向き合った服作りをすることにより活動の幅を広げた山縣は、今後どのような展開をしていくのだろうか。「若い世代だけにアプローチするだけではアンバランスだと思う。僕はブランドのレイヤー化をイメージしていて、WRITTENAFTERWARDSではもっと全方位に向けてアプローチして、WRITTEN BYはもちろん、今後はWRITTEN BY SOMEONE、WRITTEN BYBY、WRITTEN BOY、WRITTEN BABYとか(笑)、色々なレイヤーを持って、老若男女、さらには人種や国境を越えたところにもファッションの素晴らしさを伝えていきたいと思う」。しかし、これからの創造も、今まで通りネガティヴネスに向き合うことから始まるのではないだろうか。今までの作品のどれもがそのようなプロセスを辿ってきたかを想像すると、見る人にとってはさらに味わい深いものになるかもしれない。
インタビューの翌日、FACETASMデザイナーの落合宏理さんに誘われ、相対性理論のライヴを一緒に観に行くことができた。「僕、音にあまりノル自信ないんだけど……、一緒に来る?」との誘い文句だった山縣も、ライヴが始まるや否や、非常にリラックスしながらやくしまるえつこの歌声に耳を傾けていたのが印象的だった。終演直後「青春だなぁ」とつぶやく彼と、その足で恵比寿の“ココイチ”へと向かった。
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