KIKO KOSTADINOV

機能美に包まれた、真のニューメンズウェア。
INTERVIEW TEXT YASUYUKI ASANO
「KIKO KOSTADINOV」という名前を初めて目にしたのは、ロンドンのとあるショップでゲストブックにふと目を落とした時であった。日本人である僕にとってあまりにもキャッチーな名前だったので、思わずショップスタッフにその人物についてあれこれ聞いてみると、セントラル・セント・マーチンズでファッションを学んでいる将来有望な学生だという。それから少しして実際に本人と会うことになるのだが、謙虚で、ファッションに真摯な姿勢で取り組む好青年であった彼がその時着ていたのが、別々のピースを組み合わせて再構築させたSTUSSYのフーディであった。

アメリカ人アーティストであるリチャード・セラとローレンス・ウェイナーの本『DISPLACEMENT』にインスパイアされ、彼自身の手で一点一点リメイクされた、一見ブートレグのようで実はオフィシャルなコラボレーション。そのSTUSSYとのカプセルコレクションは、昨年35周年を迎えた歴史的ストリートウェアブランドに新たな息吹をもたらし、人々にそのロゴが持つ魅力をアップデートするだけでなく、まだ学生であったキコ自身の名を一躍有名にすることになる。ニック・ナイトが主宰するファッションサイト、SHOWSTUDIOでオンライン販売された僅か数点のアイテムが、口コミやインスタグラムを通して徐々に話題を呼び始め、続いてファッションウィーク期間中にロンドンのブティック、MACHINE-Aで同アイテムが販売される頃には、それらがストリートスタイルスナップを埋め尽くし、世界中から問い合わせが殺到するほどのバズとなっていた。

その後、DOVER STREET MARKETのNY店と銀座店でも販売され、回を重ねる毎に新たな手法が持ち込まれ進化するコラボレーション。その完成度に感銘を受けると同時に、僕の心ではどこか「カプセルコレクションではない、彼のシグネチャーブランドとしてのフルコレクションを早く見たい」という想いがひょっこりと芽生え始めていた。僕自身、彼が手掛けたSTUSSYのピースを誰よりも着倒したと自負するほど気に入っているし、90Sロゴカルチャーのリバイバルから、DIY的アルチザンな流れをブリッジした見事なコラボレーションであったことに疑う余地はないのだが、彼が人々に「STUSSYのリメイクをしているデザイナー」とのみ認識されることに少し違和感を持ち始めていたのも確かであった。

そんな中、今年2月に行われたセントラル・セント・マーチンズ(以下CSM)のMA卒業ショーにおいて、正式に彼自身の名を冠したコレクションが遂に発表され、続いて6月には「LONDON COLLECTIONS MEN SS17」期間中に単独でのショーも行われた。機能的ディテールを携えた現代のワークウェアやユニフォームをベースに、ミニマル且つコンテンポラリーに洗練されながらも、どこか手作業による独特のアート性を感じさせるこれらのコレクションで、彼は自身のレーベルの正式なスタートを高らかに宣言した。たった数年の間に4回のSTUSSYカプセルコレクション、学生時代の2回のショー、そしてファッションウィークでのデビューまでをこなし、並々ならぬスピード感と溢れ出るクリエイティヴィティでデザイナーとしての道を駆け上がってきた彼。今、キコ・コスタディノフに注目したい。


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ブルガリア出身ですが、今はロンドンを拠点に活動していますよね。ロンドンに来た理由と、現在に至るまでの経緯を教えて下さい。

16歳の時に両親とロンドンに引っ越してきたんだ。正直、当初はロンドンで過ごすことにも勉強することにも全く興味が無かったんだけど、まだ幼かった僕にはそれしか選択肢がなくて。ロンドンに来てからは、ひとまずITについて3年ほど勉強したんだけど、ある時「これは僕がやりたいことではないな」と気が付いたんだ。そこで以前からずっと服や色々なものをコラージュすることが好きだったこともあり、自然と知り合いのCSMにいる学生の手伝いをするようになって、最終的に正式に入学することになったんだ。


「以前からずっと服には興味があった」とのことですが、デザイナーになろうと思った何か決定的な出来事はあったのでしょうか?

「僕のこれからの人生はファッションだ」っていうような瞬間があったというよりは、ハイファッションというものを理解していくゆっくりとしたプロセスの中で、いつの間にか決まったんだ。服そのものへの興味が、ファッションに導いてくれたという感じだね。


CSMでは、BAコースだけでなくMAコースまで修了し、それぞれ卒業コレクションも発表しましたよね。一見、二つのコレクションはかなり異なっていたように見えましたが、各課程で何を学びましたか?

BAは服そのものにフォーカスしていた訳ではなく、プロダクトとして服を捉えたり、より実験的でコンセプト主導型だったね。一方、MAはよりパーソナルなもので、デザイナーとしての自分自身を探索するプロセス。自分が本当に好きなものは何か、そして何故好きなのか。より成熟した教育環境で自分と見つめ合い、服としてアウトプットできたと思うよ。


デザイナーとしての最初のブレイクスルーは、在学中に発表したSTUSSYとのカプセルコレクションだったと思います。世界を代表するストリートウェアブランドと、ファッションの名門CSMの学生という、この不思議なコラボレーションはどのようにして実現したのでしょうか?

元々は、当時アシスタントをしていたスタイリスト、スティーブン・マンが手掛けるファッションストーリーのために、幾つかスウェットシャツをリメイクしたことが始まりで。それを見たSTUSSY UKのマイケル・コッペルマンが凄く気に入ってくれて、正式に依頼を受け、カプセルコレクションを制作することになったんだ。子供の頃にSTUSSYを着ていたわけでもなかったから、ブランドに関する知識は限られたものだったね。でも、だからこそより自由な感性でリメイクができたんだと思う。


カプセルコレクションは、SHOWSTUDIOで販売した6ピースから始まり、MACHINE-A、DOVER STREET MARKETのNY店と銀座店での販売へと続いていきました。それぞれの目的やコンセプトはどのようなものだったのでしょうか?

CSM在学中に行ったものだったから、基本的には全て学費をカバーするためのものだったんだ。STUSSYは勿論、どのショップも凄くサポートしてくれたよ。同時に、その時に興味のあったテクニックをSTUSSYのピースを通して実験し、成長させることが出来、MAの卒業コレクションに繋がる素晴らしいプラットフォームになったと思うね。


シグネチャーレーベル、KIKO KOSTADINOVでの美学を教えて下さい。

今はファーストシーズンを終えたばかりだから、完全にレーベルをカテゴライズするにはまだまだ早過ぎる段階だと思う。ユニフォームや機能的なディテールは勿論好きだし、階級に関係のない装い方に興味があるのは事実だけどね。今後の目標は、カッティングに注力してより自分らしく仕上げられるよう、各ピースにより時間を割いていくこと。ベーシックなブロックパターンにヴィジュアル的な装飾を施していくというようなアイディアは、僕のレーベルの範囲ではないからね。


6月のコレクション「00022017」を発表した直後、DOVER STREET MARKETにて商品のリリースがありましたが、それは既存のファッションサイクルへのチャレンジといった意図もあったのでしょうか?

実は6月に発表したものを販売したのではなくて、2月に発表した「00012016」をアップグレードしたものだったんだ。6月に発表した「00022017」に関しては、DOVER STREET MARKET GINZAで先行発売した後、来年1月にはフルアイテムが発売開始される予定。だからまだ基本的にはファッションのサイクルに従っているといえるんだけど、より短いサイクルで商品化していくような、違った要素をコレクションに加えていく可能性は大いにあるね。


今までのキコの特徴は、DIY的ハンドメイドによる独自のアート性だったと思うのですが、よりミニマルさや洗練さを追求したこれらのコレクションでもその点は変わらないのでしょうか? もしそうだとすれば、今後レディ・トゥ・ウェアとしてのレーベルが成長していくに連れて、そのハンドメイド美学をどのように貫いていこうと考えていますか?

確かにDIYやハンドメイド独特のテクニックは大好きだけど、それはファッションビジネスを始めるための方法ではないし、DIYブランドとカテゴライズされるようなものを目指しているわけではないんだ。だからこそハイレベルなディテールとカッティングを備えた、ミニマルで凛としたプロダクトにフォーカスしてる。そのようなプロダクトで構成されるコレクションは今の若手デザイナーにはほとんど見られないし、その欠けている要素を実現してみたいと思ったんだ。今の僕が立っている状況で、最もエキサイティング且つチャレンジングなのは、クールでありながらしっかりと生産できるコレクションを発表すること。それに伴ってフィットやカッティングに拘ることが凄く重要な要素となり、それらを分析することで誰かに生産を任せるときにも十分にデザインに対する理解が得られ、結果的に僕自身が作ったものと同じものを実現することができる。一点物を制作することは、今の僕がやっても逆にチャレンジングではないし、 面白くもないと思う。


多くの若手デザイナーがコレクションでの表現にフォーカスするあまり、生産体制については後回しになっていますよね。その結果、ロンドンのデザイナーに関して、デザインはとてもユニークだけど実際に生産されたプロダクトのクオリティは良くない、というイメージを持ってしまっている人々も多いと思います。だからこそキコの姿勢はとても共感できるのですが、卒業後間もないにも関わらず、すぐにそのような生産体制を確保できた理由は何でしょうか?

答えは極めてシンプルで、コレクション後にパターンとアイディアを複製できるように、より一層ハードに働いてしっかりと準備をするっていうことだね。DOVER STREET MARKETへの生産を終えたことで、更にインターンや裁縫師と密接に働きながらクオリティを管理できるようになったよ。


そのようにしてチームや生産体制も確立されつつある今、将来的にはどのくらいの規模までレーベルを成長させたいと考えていますか?

プロジェクトやコラボレーション毎に目指す規模感は全く違ってくるけれど、今は焦りたくないんだ。まず確立したいのは、コレクションにハイレベルなデザインとストーリーが存在し、商品としてショップに到着した後は人々が実際に購入して、満足してくれるということだね。


今年発表したコレクションを含め、基本的なデザインのプロセスを教えて下さい。また、どういったところからインスピレーションを得ますか?

過去数年、デザインプロセスは決まっていつも手作業のリサーチから始まって、インスピレーションは自らが撮る写真、自らが買う服、映画、アートエキシビション……。図書館に通って、クールなイメージを探してページを延々とめくるような作業はもう止めたんだ。今の僕のコレクションは今の僕の生活を反映しているべきで、その生活が少しずつ変化している今、インスピレーションも変化しているよ。


具体的にはどのような服、映画、アートですか?

買うのは主にユニフォームだね。上半身と下半身のバランス、そのトータルルックに凄く興味があるんだ。映画は色々と観るけど、ロベール・ブレッソンとデヴィッド・クローネンバーグの作品にいつも戻ってくるね。アーティストならシアスター・ゲイツ、ジュヌヴィエーヴ・アス、ジュリアン・シャリエール、ヤニス・クネリス、トレイ・ソーントン。


現在最もよく一緒に仕事をする人は誰ですか?

スタイリストのスティーブン・マンとは密接な関係でよく仕事をしているよ。6年ほど前に彼のアシスタントとして働き始めて、少しずつ彼のプロジェクトを手伝うようになり、今ではよく一緒に仕事をしている。スティーブンがインスピレーションということではなくて、僕達はファッションにおける野心や目標、視点がとても似ているから、一緒に何かをするのがすごくスムーズなんだ。


自身のインスタグラムには、清掃業者やゴミ収集業者、ファーストフード店員、また素敵に装ったお年寄りの方々まで、路上で見掛ける様々な人々の写真が投稿されています。そのような人々からインスピレーションを受けているということでしょうか?

実はそれらの写真は、常に色々なものを意識的に見なければいけないということを自身に思い起こさせるための、いわば練習みたいなものなんだ。インターネット上の写真や誰かが描いたペインティングよりも、周りに実在している人々の方がより影響を与えてくれると思うんだよね。


このジェンダレスな時代に、興味があるのは何故メンズウェアなのでしょうか?

何故なら自分のために服をデザインしているからだよ。現段階では、女性のためにデザインすることにはあまり興味が無いね。


そういえばキコの普段のスタイルも、よくストリートスタイルフォトグラファーにも撮影されていますし、コレクションと同様に、人々の注目を集めてきましたよね。自身の装いは、デザイナーにとっても重要なものだと思いますか?

メンズウェアデザインを手掛ける一人の男性として、自身のアイディアを実際に着るということは凄く重要だと考えているよ。僕のデザインはとてもパーソナルなところがあって、最終決断は常に「自分自身が着たいと思うかどうか」なんだ。自分がデザインしたピースを実際に着ることは、自分でも凄くエキサイティングなことだし、より精度を高めるためのテストにもなる。


卒業後、どこかのブランドでデザイナー職に就くという選択肢もあったと思います。それでもインデペンデントデザイナーとして、自らのレーベルを正式に立ち上げる道を選びましたよね。その決断の理由は何だったのでしょうか?

幾つかのオファーは確かにあったよ。それらの仕事に就く可能性も十分にあったけど、それを意識的に拒否して自らのレーベルをするという決断を下したわけではなくて、ただ自然とそうなっていったんだ。自分自身が一番満足のいくように、いつの間にか一瞬にして。


過去2年間で本当に沢山のプロジェクトを手掛けてきましたよね。本当にクリエイティヴな情熱で溢れていて、ノンストップでいつも何か服を作っていると思います。その莫大なエネルギーは一体何処からやってくるのでしょうか?

本当にその全てがあっという間に起こったことなんだ。幾つかのプロジェクトが同時進行になっている時も多々あったし、考える余裕も時間も無かったんだよ。皆が考えるデザイナーのイメージと違って、今は決して華やかでもロマンチックなわけでもないけれど、レーベルが成長して何人かスタッフを雇えるまで、自分で全てをしなければならないからね。でも、常に僕がすべきことはこの仕事だって自分に言い聞かせているんだ。それこそが、自分が心から好きといえる、このメンズウェアデザイナーの仕事なんだよ。


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2017年春夏コレクション「00022017」より。


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MA卒業コレクションでもある、2016-17年秋冬コレクション「00012016」より。


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