MAGAZINE
GALLERY
NOIR KEI NINOMIYA
新しい黒、新しい服。
ISSUE 3
INTERVIEW TEXT JUNSUKE YAMASAKI
「アントワープ(王立芸術アカデミー)に行ってた人らしいよ」。実際の服を見る前の、そんな第一情報だけを頼りにNOIR KEI NINOMIYAのコレクションを想像してみていた。WALTER VAN BEIRENDONCKみたいなデザインが出てくるんじゃないか? 同アカデミー出身者にありがちな、シアトリカルな印象の服が出てくるんじゃないか? その期待は大いに裏切られることになる。
そのブランド名同様、用いられる色は基本的には黒のみ。その黒だけで作り上げられているコレクションを見た時、以前、アン・ドゥムルメステールがインタビューで語っていた言葉をふと思い出した。「シェイプやカットを決め、それらを黒か白で作ってみます。それ以上は色についてどうこうしようとは考えませんし、私は必要のない装飾を付け足すことをしないのです」。彼女にとって黒とはスタート地点となるような色であり、NOIR KEI NINOMIYAデザイナーの二宮啓も近い感覚で「黒」と向き合っているようだ。「単純に自分が好きな色ということと、よりテクニック等に拘れるということです。『拘る』ということをあまり全面に押し出したくはないのですが、そういう技巧を用いて『拘った』物を作っているので、色々な要素が入り過ぎてしまうと、正直なところ一つのイメージを作り上げ辛いのです。そこで一つのテーマという枠を作り、それが『黒』ということになりました」。とはいえ、一言で「黒」といっても、決して一色というわけではない。そこには何層にも、何色にも広がる無限の「黒」の世界が存在する。「青み、赤み、白みなど、黒にも色々とあるのですが、その時の全体のコレクションのイメージに合わせて生地をスワッチから選び、本当にその時に自分が表現したい『黒』をピックアップしています。勿論、色々な『黒』があるコレクションがあってもいいと思いますし、特定の『黒』しか使わないコレクションがあってもいいと思っています。今のところNOIR KEI NINOMIYAでは、比較的深い『黒』や黒みの強い『黒』を選んでいますね」。
色彩こそ限定されるが、黒の中にもはっきりとした陰影のあるその服作りにおいて、クリエーション自体の範囲が限定されることは一切ない。むしろ、よりフォーカスされ、シーズン毎に掲げるサブジェクトに対してもっともっと深堀していく。「エステティックといえるようなものはありませんが、今、興味があることを単純にやっているというだけです。パターンについていうならば、どこまで細かく出来るのかを突き詰めていくと『パーツ』さえ細かくしていくことができれば、どんな形でも理論上は作れるのです。ポリゴンと同じことですね。そういう部分が自分の(デザイン上の)スタート地点のような気がします。あまり連続性を意識しているわけではないのですが、アプローチ方法の一つとして六角形や五角形等の図形から入っていき、それをボディの上に乗せて形にしていくという考え方が僕にはやりやすいのです」。
どのようにしてそんな彼のデザイン哲学が生まれるに至ったのだろうか。「いわゆる普通の青年だったので、当時流行っていた服を少しずつ試していく感じでした。特に服オタクというわけでもなかったですし。大学生の時は手を動かすことが好きだったので色々と自分なりに試してみました。独学で服を作ってみたりもしました。けれど、服作りのセオリーというものが全く分かっていなかったので、次第に服について勉強をしてみたいと思うようになっていったのです」。そうしてアントワープへ行くことを決意する。「あの学校を受ける方々は、美術や服飾の学校を卒業してから来ている学生が多く、洋服に関して無学だった僕が入るというのは無謀なことをしようとしていたのかもしれません。自分でもそんな中によく飛び込んだなと。怖いもの知らずだったのですね(笑)。でもレベルの高い人達と一緒の空間で勉強したことは素晴らしい経験になりました。ただ、手作業というか、あまり“作る”という感じではなかったので、そういう意味では物足りなさが少しありました。このアカデミーの世界よりは、フィジカルにもっとやっていきたいなと思い、夏休みのタイミングを利用してコム デ ギャルソンの面接を受けたのです」。入社後約4年が経ち、自らのブランドを立ち上げる機会に恵まれることになる。「社内で『新しいことをやりましょう』という話が持ち上がり、(既存のブランドとは)違った切り口でスタートしたブランドです。社長の川久保とディスカッションをし、その中で『色を絞り、物作りにフォーカスしたブランドを』という方向性に最終的に決まりました」。
インタビューを受ける機会の少ない川久保玲だが、その度に必ずといっていいほど唱える言葉が「新しさ」である。コム デ ギャルソン社として発表しているブランドには、当然ながら「新しい何か」を生み出す使命が課せられていることは自明であり、NOIR KEI NINOMIYAブランドも例外ではない。「チームは自分を入れて4人です。パタンナーが2人、生産が1人、そして自分が企画を担当しています。まずは自分がやったことの無いこと、それを必ずコレクションでやりたいと思っています。製作過程を振り返った時に少しでも高揚したり、『これは面白い、見たことがない』と思う部分があれば、それを新しいものとして共有できるのではないかと」。そして当然ながら、新しさを追い求める中でも、コム デ ギャルソン社独特の社風や、そこに潜む真摯な姿勢を二宮自身は受け継いでいる。「勿論、新しいものを追い求める姿勢は昔から凄いなと思っていました。自分が生まれたのが80年代ですので、実際にどういったことをやってきたのかは文章や写真などを通してしか知ることができないのですが、この会社で働きたいと思った一番の理由は、商品を見た時に伝わる強さと、物作りに対する真摯な姿勢です。新しければ何でもアリというわけではなく、工場背景をきちんと押さえ、お互いにとってプラスになる関係性を保ちながら物作りをしていきます。サイクルに則った上で新しいことや、リミットを外して物作りをしていく。自分の人生の時間を仕事に費やすことを考えた時、そういった関係性を縫製工場と作れるこの環境で仕事をしたいなという気持ちが大きかったです」。
そうして生まれたNOIR KEI NINOMIYAの服をどのような人に届け、どのように着てもらいたいと考えているのだろうか? 「ファッションは好きですが、やはり自分は作ることが好きなのです。正直なところ、洋服である必要性があるのかと聞かれれば立体でも平面でもいいのかもしれませんが、芸術作品を作るというよりは、やはり人とリンクするもので、何か心に響くものを作りたいです。そう考えると洋服という媒体が一番しっくりくるような気がします。着る人の心を少しでも動かせることができれば、やはり洋服を作る意味があると思いますし、自分の作った服が着る人の人生にとって何かのきっかけになったり、スペシャルな場所で着てもらえたりすると嬉しいですよね」。服作りを志す者にとって当然ともいうべき感情かもしれないが、そんな感情すらが欠如している今日のファッション界では希有な存在ともいえる二宮啓。「コム デ ギャルソン」という名の責任感も背負いながら、彼は今この瞬間も新しい何かを求め、服作りに邁進し続ける。
2016年春夏コレクションより。
2015-16年秋冬コレクションより。
2015年春夏コレクションより。
2014-15年秋冬コレクションより。
Tweet
FASHION
2016.05.20
NEW SEASON, NEW PIECES
DRESSES 8/8
ISSUE 3
CULTURE
2016.08.11
NEW MIND NEW LOOK / AKIRA TAKAYAMA
「新しさ」を巡って。/高山明 3/4
ISSUE 3
FASHION
2015.04.02
WOMENSWEAR 2015 SPRING / SUMMER
BIKER'S SKIN 1/8
ISSUE 1
FASHION
2015.12.29
ROLA
笑顔のヒロインが魅せる、新たな表情。 1/2
ISSUE 2
FASHION
2016.07.25
ERI
次なる時代を担うデザイナーは?
ISSUE 3
VIEW ALL