O THONGTHAI

バンコクとロンドンを往来するパワーガール。
ISSUE 4
INTERVIEW TEXT YASUYUKI ASANO
サクランボ、車、現金。今年4月にラフォーレ原宿内のGR8にて、JELLY BELLYのコラボアイテムと同時に先行発売されたタイ人ジュエリーデザイナー、O THONGTHAI(オー・ソンタイ)の新作コレクションには、それらを意味する「CHERRY CAR CASH」というタイトルが付けられ、巨大なサクランボの模型と共にディスプレイされていた。チェリーの部分は恐らくスラング的な意味ではないと解釈するとして、一見非常に奇妙な組み合わせのように思えるが、実はその不思議なミックス感こそが彼女の世界観そのものなのである。

フェミニンとマスキュリンだけでなく、カラフルな原宿的KAWAIIカルチャーにギャング的ストリートのクールさも混ぜ合わせ、とびきりポップでキャッチーな仕上がりを見せる彼女のジュエリー。母国タイではDJやモデル、ソーシャリストとしても活動する彼女自身も、メンズライクなストリートウェアを身に纏い力強い英語を話しながら、時折「DOKI DOKI CHU CHU」と大好きなジャパニーズワードと共に両手でハートマークを作って戯けてみせる。その一方で、お客さんからの商品のフィードバックには真摯に耳を傾け、インデペンデントデザイナーの一人として真面目にビジネスに取り組んでいる。

そして、いつも僕の目には、その絶妙なバランスが何故かとても今の時代を象徴するような、現代的でインターナショナルな女性像に映るのだから一層不思議である。タイのバンコクと学生時代を過ごした第二の故郷であるロンドンを行き来しながら、自らのジュエリーを追い求めるオー・ソンタイの魅力の秘密は一体何なのであろうか?


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GR8でのイベントで会ってから、既にもう数ヵ月が経ちましたね。(今年4月に開催された)今回のポップアップショップと東京滞在はどうでしたか?

GR8でのポップアップショップは凄く上手くいったわ。売上も去年より伸びているし。GR8のスタッフはいつも凄く温かく迎えてくれて、ずっとサポートしてくれているの。東京での時間は、忙しい毎日の中で全てのことから逃れられる束の間の休息っていう感じで、いつもリラックスした時間を過ごしているわ。


初めて会ったのはもう5年くらい前で、確かロンドンの『VICE』で働いている時でしたよね。そこから今に至るまでのストーリーを教えて下さい。ロンドンではどのような経験をしたのでしょうか?

私のこれまでの人生は凄くランダムで、偶然と選択のごちゃ混ぜで出来たものだと思う。まず2008年に、映像やグラフィックデザインを勉強したくて、セントラル・セント・マーチンズ(以下CSM)に入学するためにロンドンに行ったの。いつもイーストロンドン周辺に屯する典型的なキッズだったんだけど、ある日、当時『VICE STYLE』でエディターをしていたDARYOUSH HAJ-NAJAFIに出会って、ジュニアファッションエディターのSAM VOULTERSのアシスタントとして働き始めたの。スタイリングとかストリートキャスティングとかを手伝って、本当に沢山のことを学んだわ。今の私がいるのは、半分くらいは彼らのお陰ね。


その後、何故ファッションデザイナーやスタイリストではなく、ジュエリーのデザイナーになることを選んだのでしょうか?

ジュエリーデザイナーを選んだ理由は、単純に昔からジュエリーが大好きだったから。15歳くらいから子供の遊び的な感覚で、制作していたの。そしてCSMを卒業して何かを自分で始めようとした時に、ジュエリーこそが私の大きな一部なんだって気付いて。だからバンコクに戻って宝石について学んだりして、真剣にブランドに取り組み始めたわ。


現在はバンコクとロンドンを行き来する生活をして、ロンドンとパリでコレクションの発表もしていますよね。そのライフスタイルにおいて、バンコクとロンドンの役割はどう違うのでしょうか? 学生の頃のように、 またロンドンに移住したいと思いますか?

常にロンドンに行くっていう行為は必要不可欠だけど、完全にそこに住もうとは思っていないの。ロンドンは自分の家っていうくらい居心地が良い場所で、私にとって正にパーフェクトな所だけれど、バンコクも凄く好き。というかそもそも、一つの所にずっと留まるっていう生活があまり好きではないの。バンコクは基本的にジュエリー制作のための場所。生産体制も整えて、工場と密な関係を築いているわ。ただ全てにおいて私の好きなモノと離れ過ぎているから、ロンドンはインスピレーションやビジネスのためにもチェックすべき場所。パリは業界のシステム上、バイヤーに会うために誰しもが行かなければならない場所っていう感じね。


そのようなバックグラウンドや今のライフスタイルがデザインにも反映されていると思いますが、まずは自身のファッションについてお聞きしたいと思います。いつもメンズっぽいストリートウェアがベースになっていて、特にヘアスタイルはアフロ、スキンヘッドを経て最近はスリックバック。日本の女の子のような髪型だったことは一度もないですけど、いつも自身のキュートなジュエリーを身に着けていますよね。そのようなミックススタイルはどうやって形成されたのでしょうか?

髪型は何をしてもすぐに飽きちゃうから、常に変えなくちゃならなくて。最近はしばらくスリックバックのままだけど、それは髪を伸ばそうとしているからなの。ストリートウェアが好きな理由は、快適でイージーだから。もしできることなら毎日24時間ずっとパジャマを着ていたいくらいだけど、それじゃ誰も真剣に私のことを見てくれない(笑)。時々スカートとハイヒールでドレスアップしたいって思うこともあるけど、歩き方が分からなくてスカートを破いちゃうから、いつも結果的に悪夢のような状況になってしまうの。後は自分のジュエリーを着けるだけね。だからドレスアップしているとかじゃなくて、凄く自然体だと思っているわ。


ジュエリーについてお聞きしたいのですが、マスキュリンとフェミニンな要素をただ単にブレンドしているだけでなく、様々なサブカルチャーも加味したとてもアイコニックな仕上がりですよね。自身では、それらのジュエリーをどのように分析していますか?

そう言ってくれるのは嬉しいけど、実際は不安もあって、制作している時は常に自分自身を疑うようにしているの。でも確かに、自分でも私はボーイッシュな女の子だと思う。正確にいえば、真面目な女の子が悪いことを覚えちゃった、っていう感じなのかな。KAWAIIへの気持ちは自分の中でこれからも成長して欲しくない子供の頃からの繊細な部分で、マスキュリンな部分は成長して物事を覚えた私の今のリアリティで、実際に車や銃、ギャングとかっていうものに凄く魅力を感じるの。そして、最終的には自分が着けたいと思うジュエリーを作っているから、そういう等身大の私自身が自然とジュエリーにも投影されているんだと思うわ。


だからこそ、いつもコレクションはユニセックスで、ジェンダーレスなアイテムも多いですよね。今の時代に、皆にどのようにジュエリーを着けて欲しいですか? またブランドのアイコンと呼べる人は誰かいますか?

デザインがユニークだと思うから、ただシンプルに、まるで人々の体の一部にように着けて欲しいと思っているわ。『グッドフェローズ』や『タクシードライバー』といった映画がインスピレーションになることが多くて、実は『ロミオ+ジュリエット』のレオナルド・ディカプリオがブランドアイコン。ウィメンズのアイテムが多いけど、アイコンは男性なの(笑)。


アパレルも作りたいと思いますか? もしそうだとしたら、どんなアイテムに興味がありますか?

今はジュエリーにフォーカスしたいから、すぐっていうことではないけれど、もし出来るならまずはバイカージャケットね。いつか自分のブランドで作りたいわ。


ビジネス面にも意識が高くて、昔から理想的な価格帯を実現していますよね。今のプロダクトレンジで今後も勝負していくのか、もしくは、実はファインジュエリーに興味があったりしますか?

実は両方していきたいって思っていて、実際にASAP ROCKYや友達にビスポークピースを作ったりもしているの。ゴールドとダイヤモンドをもっと使いたいと思っていて、今のハードガール的なバイブスを失わないように、ファインジュエリーにも進出してブランドを成長できればいいわね。


ブランドを成長させる手段の一つとして、コラボレーションというものがあると思います。BOBBY ABLEY、RYAN LO、そしてJELLY BELLYと最近はコラボレーションが続いていますが、実際にやってみてどのような感想を持ちましたか?

ボビーとライアンに関しては元々ロンドンの友人だから、ただやってみようっていう感じで始まったの。でもコラボレーションって、普段使わないような素材やテクニックを学びながら試行錯誤するっていう、私にとっては新しいことを吸収する大きなチャンス。ボビーの場合だと、エメラルドとファインジュエリーが大好きだったから、より洗練されたメンズジュエリーの世界に足を踏み入れることができたし、ライアンのスーパーキュートでブリンブリンなジュエリーのように、自分のコレクションとはまた違った結果になるのも面白い。JELLY BELLYに関しては本当に偶然という感じで、ELLA DROR PRのアッシュに、私が如何にJELLY BELLYを愛しているかっていう話をしたら、「じゃあコラボレーションしたらいいんじゃないか?」っていう話になって。幼い頃から大好きだったから、凄くハッピーなコラボレーションになったわ。


過去数年、オーさん自身も含めて、アジアから数多くのデザイナーが世界のファッションの舞台で活躍していますよね。同じくアジアで活躍する、好きなデザイナーやブランドを教えて下さい。

AMBUSH®のユーンは勿論、D.TT.KやXANDER ZHOUのようなメンズウェアデザイナーをリスペクトしているわ。あと、EK THONGPRASERTっていうシリコンジュエリーを手掛けるデザイナーも是非チェックしてみて。


彼らのような新時代のデザイナー達は、決して典型的なものをリファレンスにして自国を代表している、というような感じではなくて、よりインターナショナルな感覚で世界の舞台に挑んでいるように感じます。このような最近のアジア人デザイナーの台頭について、意見を聞かせて下さい。

インターネット的なものに溢れたスピードの早い現代社会では、何もかもが、世界がまるで一つの側面しかないように、すぐに世の中に広まってしまうわ。だから、あるモノがインターネット上に存在して、あなた自身がインターネットにアクセスできれば、世界のどこにいようが関係ないの。グーグルを使って何に出会うことができるか次第。リファレンスに関しては、私自身は自国の伝統的なものに現代的捻りを加える世代の中で育ってきたから、逆にサブカルチャーを取り入れるのがフレッシュで楽しいって思うわ。


インターネットでどこにでもアクセスできるそんな時代でも、アジアを拠点にする弱みと強みは何か存在しますか?

弱みは特に無いわ。強みは、実はアジアは資源に溢れているっていうことかしら。


自身がアジア出身のデザイナーであるということは意識していますか?

意識しているというより、プライドを持っているっていう感じね。私は東南アジアのタイ出身のデザイナー。未だに多くの人がタイは発展途上の第三世界って思っているけど、実はそんなことないのよ。


最近、東京ではファッションが大好きで、ショッピングにやって来た若いタイ人の子もよく見掛けますが、実際にタイのファッションシーンは盛り上がってきていますか? 新しいジェネレーションの間で、何か面白いことは起こったりしているのでしょうか?

バンコクはより流行に敏感になってきていて、その目紛しい成長を見るのは凄く興味深いけれど、正直に言うと個人的にはファッションシーンでテンションが上がるものはまだ何もないわ。マネーメイキングが出来ているブランドは全て、物凄くガーリーなものばかりだし。


ジュエリー制作以外に、タイの中で何か興味を持っていることはありますか?

ファッションとは全然関係無いかもしれないけど、個人的にはタイで今興味があるのはボランティア、社会へのお返し。SATI FOUNDATIONっていう非営利団体にいる友人を手伝う形で、数回ワークショップをしたり、ストリートチルドレンと一緒に出掛けたりしているの。世界中の全てのモノやヒトが誰かを失敗させようって企てている中で、もし何かで成功を収めることができればそれは誇るべきことだわ。私達の多くは人生の選択権が与えられていて、それは決して忘れてはならないこと。私が出会ったストリートチルドレン達は、この世界の私達が生きる社会の中の、想像を絶するような環境からサヴァイヴして成功を収めようとしているの。彼らこそ、私がタイで出会った真のヒーローだわ。


特にアジアからデザイナーを目指す次の世代に向けて、何かアドバイスはありますでしょうか?

簡単に手に入るモノは何にもないから、ハードに働き、人々にはナイスでいること。沢山するであろう失敗から学ぶこと。俗に言う成功への道っていうのは、多くのパーキングエリアと共に続いているものなの。毎日沢山のTO DOがあるから、それに向かって走り続ける準備は必要。そのような忙しい毎日、24時間は、決してあなたを裏切ることはないわ。


最後に、次なる展開やニュースがあれば教えて下さい。

沢山のニュースがあるから期待していて! その中でも一番最高なのは、タイ王国警察士官学校に参加していて、9月までそのトレーニングをしているってことね。


面白いですね! でも、どうして士官学校に?

ただ単に面白いと思ったからなの。本格的に何を始めるのかを決める前に、まずは試したいっていうタイプなんだけど、今回の場合は汚職が問題になっているタイの警察自体をあまり好きではない、っていうところから逆に興味を持ってスタートしているの。まずはそのシステムとグレーゾーンを理解するためにも参加してみたわ。でもキャンプでのトレーニングは凄くハードで、とんでもない経験をしているところ(笑)。


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2016年春夏コレクション「FORBIDDEN LOVE」より。


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RYAN LO 2016-17年秋冬コレクションより。


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O THONGTHAI X JELLY BELLYコレクションより。


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