BYREDOの香水は、前述のマスマーケットをターゲットとする香水の軽薄なイメージとは一線を画しているように思えます。「FLOWERHEAD」「MOJAVE GHOST」「ROSE OF NO MAN’S LAND」など、BYREDOの香水からは、多様な文化的、歴史的、地理的、哲学的な背景が垣間見えます。こういったインスピレーションは何処からやってくるのでしょうか?
これまで出会った人物や旅で訪れた場所、友人から聞いた逸話など、あらゆることがインスピレーションになり得ます。例えば「FLOWERHEAD」の香水はインドの伝統的なウェディングで用いられる花冠から、「MOJAVE GHOST」は幼い頃に祖父と訪れたモハーヴェ砂漠に生育するゴーストフラワー、「ROSE OF NO MAN’S LAND」は「荒野の薔薇」と呼ばれる第一次世界大戦中に戦地の最前線で医療活動を行った看護婦達をインスピレーションとしています。また時には、実際には存在しないチューリップの香りをテーマとした「LA TULIPE」のように、空想がインスピレーションとなる場合もあります。これらの香水に付随する文化的、歴史的、地理的、哲学的な背景は、恐らく限られた一部の人々の共感しか生まないでしょう。何故なら、私は不特定多数の人々を満足させるような万能な香水など作る気がそもそも無いからです。マスマーケットをターゲットとする香水が抱える問題とは、誰をも満足させようとした結果、香りのユニークさが失われ、似通ってしまうことです。ですからBYREDOでは、香りとその背景とがユニークであることを重要視しています。