それはある種、原宿のファッションを諦めた時期ですね。原宿ファッションが一つのピークが過ぎたというか。ちょうど歩行者天国中止の件があって、その2~3年後じゃなかったかな。ホコ天中止が原宿ファッションをダメにするだろうな、とは思ってたんですけど、本当にダメになっていった時期。雑誌の『MINI』とかが原宿ファッションのカウンター的なファッションを打ち出していて、原宿のお洒落な子達がどんどんシンプルなファッションになっていったんですよね。主役は原宿から代官山に移りつつあって、代官山のWRとかGRAPEVINE BY K3とか、いわゆる神的なセレクトショップが幾つかあったんです。それはスタイリスト主導のファッションで、シンプルなんだけど、結構高いインポートの服をコーディネートしたり。着る子に存在感がないと着こなせないようなファッションが流行ってきて、ちょっと僕の興味からはズレたんですよね。それで僕は『FRUITS』は撮らなくなっちゃったんですけど。ただ、当時のファッションに一番精通している子に写真を撮ってもらう形で継続しました。ドキュメンタリーを止めたくなかったので。今見直すとかなりレベルの高いファッションです。
テーマは不協和音なのですが。VETEMENTS以降なのかなぁ、あまりブランドの動向には関心がないので間違っているかもしれませんが。ファストファッションが支配的だった中で、カウンター的な提案をしたじゃないですか。価格帯も含め、デザイン的にも。それに共感したヨーロッパのユーザー達の心意気といっていいのか、それも凄いなと思いました。だってDHLのロゴを取り入れたTシャツが10万円とかで、それを競って購入したんでしょ。デザイナーのデムナ・ヴァザリアの力だと思うんですが。彼は元々MAISON MARTIN MARGIELAのチーフデザイナーだったので、ジョン・ガリアーノがクリエイティヴ・ディレクターに就任することに対する抗議で、直前まで手掛けていたマルタンのビッグシリーズとマルタンの精神を継承する形でスタートした、と思っているんですが。マルタン本人は怒ってる“らしい”です(笑)。いきなりのハイプライスもマルタン精神の継承ですよね(笑)。それとOFF-WHITEのヒットも、メンズコンシャスというか、ストリート系のメンズファッションで、ラグジュアリーで。VETEMENTSはビッグシリーズからの継承なので、バランスを崩すことがコンセプト。OFF-WHITEもあの目立つグラフィックや、ベルトとか、バランスの良いコーディネートという価値観を前提にしていないなと感じたんです。今皆が競って買っているBALENCIAGAの10万円くらいする大きなスニーカーも、バランスを考えてたら履けないし、作れない。不協和音的な要素を敢えて入れてるのかなと思いました。そもそもトータルコーディネートなんて考えていないというか、逆にダサいみたいな。そんなメッセージを感じたんですよね。僕が『FRUITS』や『TUNE』を作っていた時も、あんなに奇抜な格好なんだけど、バランスという視点は重視していたんですよ。でも現代音楽が不協和音の採用から始まったように、ファッションにも新しい潮流がやってきたのかなと。そこに共鳴している子達が日本にもいますので、フォローアップしようかなと考えています。休刊していた『TUNE』の復活の要望が強くあったので、『TUNE』がタイトルも内容も刷新されて復活するというイメージです。まぁ、出来るか分かんないですが。タイトルは『DISCORDE』にしようと思っています。