FUMITO GANRYU


FREEーTOKYO
ISSUE 8
INTERVIEW TEXT RISA YAMAGUCHI
フロンティア精神から培われる第二章。

「気が付けば同業の人達と服の話になっていたりしますね。もう仕事ではなく趣味として話しています。その時に『自分は服が本当に好きなんだな』と実感しますね」。あれから約一年半、丸龍文人がファッションの世界へと戻って来た。そしてその沈黙の間は意外にも服とは全くかけ離れた分野に携わっていたという。「服ではない、もっと別の産業に目を向けていて、そこで『何かクリエイティヴなことが出来ないか』ということを常に模索していました。様々なきっかけを頂いて、またデザイナーという職業をやらせて頂くことになったのですが、その離れていた期間に別の産業に向いていたヴィジョンが、今回のコレクションに反映されているのではないかと思っています」。一つ一つ慎重に言葉を選びながらインタビューに答えてくれた丸龍文人。服と真正面に向き合い、語るその姿勢を見ていると、彼の服への愛がひしひしと伝わってくる。彼を虜にさせた服との出会いや人生観などについて尋ねてみた。

「両親がいて、兄弟がいて、ごく普通の家庭で育ちました。実家も洋服関係とは無縁で、何か特別なことをして過ごした記憶はないですね。ただ、幼い頃からずっと絵を描いていたので、将来は絵描きになるのだと思っていました。ですが、中学校に入り、進路で悩んでいた頃に『画家で生計を立てるのは難しいのかな』と思い始めたんです。そこから音作り等様々なことに挑戦をして、最も没頭したのが服作りだったという感じです」。スケーター少年だった中高校生時代にそのことに気付いたという丸龍。福岡県の中心部から離れた地域で育った彼は、それまでは服に触れる機会が少なく、所謂スケーターファッションを身に纏わずスケートをしていたのだ。「スケートボードをやっている先輩達が、急に然とした服を着ているを見て、それを見て『格好良いな』と思い、お店を紹介してもらいました。それまで服を身に纏うという感覚が薄かったのですが、服屋さんに行くという行為が凄く楽しくなり、そこから服というものを意識し始めるようになりました」。その後、洋服にのめり込んでいった彼だが、絵や音への執着も捨て切れなかったと話す。「高校卒業後はアルバイトをしながら絵を描いたり、音楽制作や服作りもしていたので、将来について迷いに迷った五年間でした。高校卒業後はアルバイトをしながらフラフラしていたのですが、当時アントワープ・シックスに憧れていて、日本人でアントワープ(王立芸術アカデミー)に行っている人があまりいないなと思ったんです。そして『初めての卒業生になろう!』と思い、入学願書も取り寄せたのですが、海外は入学が9月で、僕が願書を取り寄せたのが10月だったので、高まった気持ちのまま一年間は待てませんでした。その時点で既にデザイナーを目指すことに一切迷いは無くなっていたので、一流のデザイナーを多く輩出している東京の文化服装学院に入学しました」。

四年間しっかりと基礎を学んだ後、株式会社コム デ ギャルソンに入社し、パタンナー時代も合わせると十数年、同社に属することになる。「GANRYUをスタートさせて頂いたのが入社三年目くらいで、九年間デザイナーを務めさせて頂きました。服作りにおいて一番気を使っているのが、『普通の服』をなるべく作らないようにするということです。私自身、普段はあまり普通の服を纏いたくないという思いがあるのですが、普通ではない服を作るということはやはり非常にリスクもあります。私の勉強不足もありますが、私が知る限りの知識を絞り、日々勉強して得た知識や発見を併せることで、コンセプチュアルだけれど、着用していてしっくりくる服というものを意識しています。それでないと私自身が着たくないので。単に風変わりなだけの服は私も着たくないですし、平凡な服も着たくないですし。面白くてリアルに着れる服って何だろう? 21世紀に相応しい服って何だろう? そうしたことを意識して今は制作しています。目に止まるけれど、どのシーンにおいても浮かない服作りをモットーに、自分でも身に纏うようにしていますね」。やはり自分自身が身に纏うことにより、沢山の発見もあるようだ。「考え方としては自分が着ない服を提供するということは凄く無責任なのかなと思っています、何故なら自分自身が纏って気付くことが本当に多いんです。試着ということだけではなく、一年間くらいそれを着て気付いたことをブラッシュアップしていきます。今はもう私が実際に作図を引くことはないですが、パタンナー出身なので、かなり細かい打ち合わせをパタンナーの方とすることを心掛けています。“不備”というのを自分で体感したくなるんです。そして実際にパターンで修正した方が自分自身で修正案が出せるので、纏うということをとても大事にしています」。

ただ単にデザイン作業をこなすのではなく、服に執着し、追求することで彼にしか成し得ない独特な方法でアイディアが降ってくるのだそう。「何かアクションを起こしたり、観たり、聞いたり、体験したり、空想することが蓄積してアイディアは湧いてくるんです。何かに挑戦して、自問自答している時にアイディアは浮かび上がってくるので、全ての行いや状況に意味があるのかなと思います。旅行も勿論行きますが、何かインスピレーションを得るために行くことは決してありません。自然体でいないと本質的なことが感じられないと思っているので、全てを自然体で受け入れて、受け止めて、咀嚼して自問自答することで、後に自然とインスピレーション源となるんです。ただし、自問自答している時の苦労は凄まじいです。ですが、好きでやっている仕事なので、苦悩でもあり、楽しみでもあるのかなと思いますね。その時々によって相応しい状況で模索します。修行僧のように三時間くらい目を瞑って佇んでいる時もありますし、絵に描くこともありますね」。

服を愛してやまない彼が、満を持して発表したFUMITO GANRYUとしてのファーストコレクションでもある2019年春夏シーズンのコンセプトとは? 「現状はニッチであり、その先に広大なフロンティアが広がっているということかどうかを考察しています。『21世紀』ということを大切なキーワードとして捉えていて、21世紀に必要となるコンセプチュアルなカジュアルウェアを目指し、今後も制作を続けようと思っています」。所々で言葉に詰まる場面もありながら、今後のヴィジョンについても丁寧に、かつ熱く語ってくれた。「かなり多くのことを考えていますが、今はその全てを話せない状況です。一つだけ言えることがあるとすれば、あらゆる意味での『デザイン』をしていきたいと思います。それは服のデザインをするにあたって必要となるアクションなのかなと。私が今考えていることは、まだ確立されていないジャンルなので、多くの言葉で語らないと伝わらないと思うのですが、作り手としてあまり多くは語りたくないんです。『こういうブランドです』『こういう方向にしたいです』と説明するのではなく、そういうことは点と点が繋がり、次第にプロダクトや行動が物語ってくれると思っています。何年か経った後に、ようやく説明をしなくても伝わるような状態になっていれば良いなと。それを目標に次のシーズンにも取り組んでいます」。