CRAIG GREEN

ロンドンファッションが生んだ、次世代のヒーロー。
ISSUE 2
INTERVIEW TEXT JUNSUKE YAMASAKI
約2年前、各ファッション誌のエディトリアル撮影を席巻した、顔を覆い隠す巨大なウッドピース。瓦礫を集めてきて重ね合わせたかのような、アーティかつハンドクラフト感に溢れた強烈なピースは、アウトフィットの存在を掻き消してしまうほどのインパクトを見る者の脳裏に叩き込んだ。それはどこか、昨今のロンドンのファッションシーンから消え失せてしまっていた、ある種のシアトリカルな感覚に溢れ、ジョン・ガリアーノやアレキサンダー・マックイーン、最近でいえば00年代後半に現れたガレス・ピューのようなデザイナーたちが証明してきた「ロンドンこそがクリエイティヴィティの都である」という事実を再び認識させてくれるほどのパワーに漲っていたのである。そこには着る者の身体だけでなく、それを取り囲む空間をも意識させる、新しい服の概念が宿っているように感じさせられたのは私だけではないはずだ。

クレイグ・グリーンはロンドン北西部で育ったという。「親族の多くが貿易に携わっていて、何世代にも渡ってその地域に住んでいるので、よくその辺りはロンドンにありながらも『まるで一つの小さな村だ』なんて言われています。家の中には材料や機材が置いてあったので、僕はいつも何かしら作っていましたね。後に僕がファッションの世界に入ることを決めたのも、昔から物を作ることが大好きだったからだと思います」。その後、彼はセントラル・セント・マーチンズに入学することになる。「基礎科に当たるファウンデーションコースから、BA(学士)、MA(修士)と、すべてのコースを含めると計7年くらい在籍していました。セントラル・セント・マーチンズでは本当に色々なことが巻き起こっていたので、卒業時にはそこを去るということ自体が信じられませんでしたし、とても寂しかったですね」。そして母校となる同校で、彼にとってのヒロインとも呼ぶべき運命の人物と出会う。「インスパイアされる人、尊敬する人はたくさんいますが、どうしても一人だけ選べといわれれば、きっと大英帝国勲章受勲者の故・ルイーズ・ウィルソン教授を挙げると思います。私が出会った教育者の中でも計り知れない影響力を持っていましたし、私のなすことすべてに今でも影響を与え続けているんです」。

そうしてファッションデザイナーとして独り立ちした彼が発表したのが、先に挙げた衝撃的なコレクションだった。「作品の彫刻的な要素は、BAの卒業コレクション制作時から引き継がれているものです。コレクションで表現したいことを上手く実現してくれる手法を模索していった結果、このような手法に至りました。それ以降のすべてのコレクションで必ず彫刻的な作品をフィーチャーしてきたわけではありませんが、今となってはCRAIG GREENブランドの重要な要素になっている思っています」。ランウェイショーで魅せる作品とは反対に、デイリーに着用可能なものもしっかりと制作しているクレイグ。それら双方をどのようなバランスで制作しているのだろうか? 「毎コレクション、シーズンに合わせてシグネチャーであるワークジャケットを再解釈して、発表しています。このようなカジュアルな服の仕立てにも常にこだわっていますし、元々ランウェイで発表したものよりも皆さんが入手しやすい服をたくさん作っています。普段から、ショーは過激に演出しながらも、構成する作品は着やすいものを多く含めることを心掛けています。もっと言えば、既存の機能性、想像的な機能性、実用性、そして社会性という側面から、ワークウェアとユニフォームという二つの要素を常にブランドの中心に置いています。MAの卒業コレクションでワークウェアと宗教的な着物の関係性に焦点を当てて以来、服装の規定や制服の魅力に取り憑かれてしまいましたね」。そうして作り上げられたクレイグなりのデイリーウェアには、女性ファンも多い。今年になってからストリートスナップで見掛ける女性ファッショニスタたちの中には、無数のストラップが搭載されたジャケットを、オーバーサイズで着こなす姿が数多く見掛けられた。「最近、急速に男性服と女性服の線引きが曖昧になってきましたよね。今まで発表したコレクションはすべてがメンズウェアでしたが、取り扱い店舗からはそれらをわざわざメンズウェアエリアで買い求める女性客が大勢いる、という話を聞いています。ここ数年でジェンダーの垣根を超えた、中性的なものが増えていると思いますね。僕は男女問わず、自分の作品を身に付けてくれている人を見るのは幸せですから、女性が僕のコレクションを纏ってくれることはもちろん大歓迎です。それに、僕の作るものには性を超えて着ることができるものが多いということを、むしろ彼女たちに気付かされたんです」。

ルイーズ・ウィルソンだけでなく、彼は常に強力なサポーターたちに囲まれ、現在の成功を手にしてきている。「ブランドサポーター会員番号1番」なんていう人がいるとすれば、それは間違いなくエイドリアン・ジョフィだろう。自身が手掛けるDOVER STREET MARKETではいち早く取り扱いを開始し、リミテッドアイテムなども制作。さらに2015年1月のパリのメンズファッションウィーク中には、クレイグのために各国のジャーナリストを集めたディナー会を開き、メンズファッションの要人たちとの懇親の場を設けたりもしていた。「エイドリアン・ジョフィにもDOVER STREET MARKET(以下DSM)にも、僕の初めてのランウェイショーのときから本当に大きな支えになってもらっています。DSMとはとても親密な関係で、店内の販売スペース、ウィンドゥディスプレイ、イベント企画などを一緒に考えて作っています。取り扱ってもらうことをずっと切望していたショップでしたが、実際に一緒に働いてみても本当に素晴らしかったですね」。さらに、今シーズンはあのニック・ナイトとコラボレートし、キャンペーンヴィジュアル制作をともにしたという。「初めてのキャンペーン撮影で、あのニックと働くことができるなんて、夢のような実に素晴らしい経験でした。クリエイターとして本当に天才的ですし、一緒に働けて光栄な存在です。初めから終わりまでずっと感激しっ放しでしたね」。

ロンドンファッション界から久々に誕生した、スターデザイナーともいうべきクレイグ・グリーン。それがメンズであれウィメンズであれ、彼の創造するショー、そして一つ一つのピースは人々を魅了し続けるに違いない。


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2014年春夏コレクションより。


CRAIG GREEN 2

CRAIG GREEN 3

CRAIG GREEN 4

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CRAIG GREEN 6

2014-15年秋冬コレクションより。


CRAIG GREEN 7

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2015年春夏コレクションより。


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2015-16年秋冬コレクションより。


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ニック・ナイトによって撮影された、2015-16年秋冬シーズンのキャンペーンヴィジュアル。


CRAIG GREEN 13

2016年春夏コレクションより。


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