89PLUS

デジタルネイティヴ世代の革命家達。
INTERVIEW TEXT NAOKI KOTAKA
89PLUS 1


「アフリカで飢餓に苦しむ子供達より、庭先で倒れている怪我したリスの方が、あなたにとっては重要かもしれない」。FACEBOOKのCEOのマーク・ザッカーバーグが、ソーシャルメディアのアルゴリズムを同僚にこう説明した。FACEBOOKのアルゴリズムでは、ユーザーの行動パターンの蓄積とその膨大なデータを基にユーザーの趣向が解析され、タイムラインに表示される情報は“適切さ”というフィルターのみを基準に取捨選択される。インターネットの世界をリードするGOOGLE、FACEBOOK、YAHOO、MICROSOFT等の巨大企業にとっては、インターネット上に存在する最新の情報をフィルタリングし、それぞれのユーザーの趣向を最も適切に反映した情報のみを供給した者こそが、最も多くのユーザー数と掲載広告のビューアー数を獲得出来るのだ。この“適切さ”を賭けた情報戦争を制覇するために、各企業はユーザーの趣向を解析したパーソナルフィルターを使って、彼等が考える「私達ユーザーが見たいと思っているであろう情報」を提供するのである。同時に、このパーソナルフィルターは、私達がアクセス出来る情報をコントロールし、そして制限しているのである。つまり、今日のインターネットの在り方とは、世界で起こっている移民問題や飢餓、原子力エネルギーや疫病等のニュースに目を向けさせるよりも、目の前の“リス”から目を逸らさないように、私達の視点を固定してしまう危険性を孕んでいるのである。

NETFLIXのデータアナリストによれば、NETFLIXのユーザーは作品を選ぶ段階で、二人の異なる自己の欲求の間で、常に揺れているのだという。「アーティなサイレントムービー」を鑑賞した知的な人になりたいと願う一方で、とりあえずは一度観た「最新のエンタテインメント大作」を改めて観たい。これはインターネット上の情報をユーザーが選ぶプロセスにも、全く同じことがいえる。最良のフィルタリングとは、ジャスティン・ビーバーを少し、アフガニスタンを少しと、ユーザーの情報摂取のバランスを取るフィルタリングである。しかし、現在のインターネットに存在するフィルタリングは、ユーザーが何を最初にクリックしたかを解析するため、情報摂取のバランスを著しく欠いているのである。

『THE FILTER BUBBLE: HOW THE NEW PERSONALIZED WEB IS CHANGING WHAT WE READ AND HOW WE THINK』(2012年/PENGUIN BOOKS)の著者であり、リベラル系オンラインニュースサイト「UPWORTHY.COM」のファウンダーであるイーライ・パリザーは、こうしたパーソナルフィルターに囲まれたインターネット世界を「フィルターバブル」と呼ぶ。未知の世界への窓口であったインターネットは、自らの欲求をありのまま写す鏡のような存在へと、いつしか変わってしまったのである。私達がどんな仕事に就き、どんな街に住み、何歳で、何人の配偶者がいるか等々、手に入るあらゆる個人情報を基に、インターネットは私達が見たい情報を先回りして用意するが、その情報は必ずしも私達にとって“不可欠”ではないのである。つまりは、フィルタリングされていない情報を手に入れることは、今日においては事実上、不可能となったのである。最近では、近年のインターネットを取り巻く環境を敏感に察知した新しい世代が、“適切さ”のみを基準としたフィルターだけではなく、世界情勢を伝える「重要」な情報、「不快感」を覚えたり「挑戦的」と感じる情報、つまりは自分とは異なる視点を含んだ情報摂取を提示するような、新しい試みを始めている。

キュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリストとシモン・カステによって設立された「89PLUS」というリサーチプロジェクトは、1989年以降に生まれた新しい世代のアーティスト達が、どのようにインターネットと新しい関わり方を築いているか、展覧会、出版物、アーティスト・イン・レジデンス等の多角的なプログラムを通して、その活動を記録し継続的にアーカイヴとして保管していく試みである。1989年とは、営利目的のインターネットサービスプロバイダが出現し、一般にインターネットが広く使われるようになった年である。1993年時点のコミュニケーションにおいて、インターネットはその1%を占めるに過ぎなかったが、2000年にはそれが51%に成長し、2007年以降は97%以上がインターネット経由でやり取りされるようになったのだ。こうして、インターネットがコミュニケーションのインフラストラクチャーにもたらしたデジタル革命は、私達のライフスタイルに大きな影響を与えた。特に、現在27歳以下の彼等は初めてのデジタルネイティヴ世代であり、その活動はここ近年でやっと世間に知られるようになったばかりである。今回のインタビューでは「89PLUS」の過去3年間の活動を総括して、1989年以降に生まれたアーティスト達が、インターネットに日々アップされる情報を日付の違いだけで“新しい”と盲信するのではなく、その背後にある取捨選択のメカニズムを理解し、どのようにアートの分野における作品制作を通してハックしているか、プロジェクト共同発起人のハンス・ウルリッヒ・オブリストとシモン・カステに話を聞いた。


インターネットに出会ったのはいつ頃でしょうか?
ハンス・ウルリッヒ・オブリスト(以下HUO):1990年代初頭に開催されていた、フーベルド・ブルダとクリスタ・マーが主催する「ACADEMY OF 3RD MILLENNIUM」のカンファレンスにおいて、「WELL.COM」のファウンダーであり作家のブルース・スターリングに出会い、彼にインターネットを今すぐ使い始めるように勧められたのがきっかけでした。2006年に「ACADEMY OF 3RD MILLENNIUM」は「DLD(DIGITAL-LIFE-DESIGN)」に名前を変え、私とシモン・カステは「89PLUS」のリサーチプログラムを、2013年のカンファレンスでローンチしました。私がインターネットと出会うきっかけとなった場所で、インターネットと深い関わりを持つプロジェクトを新たに立ち上げたことは、興味深い偶然でした。

インターネットの引力に引き寄せられるかのように、スターリングと出会った3ヵ月後には、「NETTIME.ORG」のファウンダーであり、メディア評論家のヘアート・ローフィンクに出会いました。ローフィンクは私をインターネットカフェに連れて行き、「COMPUSERVE」ドメインのEメールアドレス取得のやり方を教えてくれました。その後、ローフィンクのメディアをフォローするようになり、私自身もインターネットメディアへ寄稿するようになりました。同時期に、キュレーターのカルロス・バスアルドとは「UNION OF IMAGINARY(VOTI)」というキュレーターのためのオンラインフォーラムを始めました。50名を超えるキュレーター達によって交わされた2年間のディスカッションの記録は、「SALTONLINE.ORG」上で全て閲覧することができます。

私が初めてインターネットアートを展示したのは、1993年に考案した「DO IT」という展覧会のシリーズでした。1993年に企画されて以降、20年に渡り様々な形態で開催されてきている本展覧会は、実際のアート作品ではなく、アーティスト自身が作品を作るプロセスを指示書に纏めて発表するというコンセプトの基に企画されました。ビデオアートの先駆者、ナム・ジュン・パイクが「DO IT」のために制作した作品は、パイクのアシスタントがインターネットカフェを訪れ、コンピュータを使いながらアート作品を作るプロセスを指示書として纏めたものでした。

インターネットの登場はあなたの生活のペースを変化させましたか?
HUO:私個人に関して言えば、生活のペースがインターネットの登場により変化したとは思いません。インターネット登場以前に、私達が電話やファックスを通して行っていたコミュニケーションと比較した時、インターネットはコミュニケーションにおける「接続」と「接続解除」の頻度及び頃合いを選択する自由を与えてくれたように思うのです。コミュニケーションの変化について考察する時、電話やファックスを速度規制のある一般道と捉えるなら、インターネットはファーストレーンとスローレーンが両方用意された高速道路のような存在なのかもしれません。

それでは、インターネットの登場はアーティストを取り巻く環境を変化させたと思いますか?
シモン・カステ(以下SC):インターネットの登場により、アーティストが作品を発表することができる場は爆発的に増えました。作品はINSTAGRAMに、アーティストインタビューはYOUTUBEに、展覧会情報はFACEBOOKやメールマガジンと、インターネットがもたらした無限の露出により、アーティストという存在自体が社会的に広く認知されるようになりました。一度インターネットにアクセスすれば“あらゆることについてのあらゆること”がGOOGLEで検索可能であり、アーティストが作品制作に関連して行うリサーチにインターネットは不可欠な存在となりました。また、スマートフォンアプリの登場はアーティストに新しい表現の可能性を示したようです。SNAPCHATを使って制作されるポエトリーや写真作品は、フォロワー同士のみで共有され、8秒間の再生時間のみ存在する、これまでの表現方法とは全く異なる性質を持っているのです。

インターネットの登場により、人類の能力は驚異的な進化を遂げました。ですが、進化と引き換えに多くのことが失われたように思えるのですが……?
SC:インターネットがもたらした沢山の恩恵と引き換えに、私達のプライバシーと匿名性は著しく侵害されるようになりました。昨年10月から今年3月まで、スイス・チューリッヒのルーマ・ファンデーションで開催された展覧会「FILTER BUBBLE」に集められた作品の多くは「プライバシー」と「匿名性」をテーマとしていました。展覧会に参加したロシア人アーティスト、ヴァリア・フェチソフの『PARANOIAPP』というスマートフォンアプリ作品は、アプリをインストールした鑑賞者の現在位置を、アルゴリズムにより選ばれた別の鑑賞者に漏らすという、スマートフォンから取得される多くの個人情報が、知らず知らずのうちに流出する可能性があるという現代社会の脅威を示唆していました。

89年以降に生まれたエイジグループにとっては、インターネットは目新しいものではなかったと考察されていますが、ならばこのエイジグループにとって、インターネットの替わりとなるもの、または“新しさ”の基準値となるものとは何でしょうか?
HUO:89年以降に生まれたエイジグループについて私達が議論する時に、個々の思考や行動の多様性を「世代」という概念で一般化することなく、かつグループ固有の類似性や差異を表すことができる良い言葉をずっと探していました。そんな時に『GENERATION Xー加速された文化のための物語たち』(1995年/角川文庫)の著者であり、アーティストのダグラス・クープランドが「ダイヤモンド・ジェネレーション」という言葉を提案してくれたのです。ダイヤモンドの透明性を、ソーシャルメディアの台頭により私生活が公になった生活環境と、そしてダイヤモンドの鋭利なカットを、膨大なインターネット上の情報を処理する鋭敏な思考と紐付けて、クープランドは「ダイヤモンド・ジェネレーション」という言葉を考案したのです。クープランドの言葉は89年以降に生まれたエイジグループの特徴を的確に言い表していますが、彼の視点もまた塗り替えられる必要があります。一方向からの視点に固執し、エイジグループの特徴について断定的になるべきではありませんし、「89PLUS」のリサーチを通じた新たな出会いが、より多角的な視点を私達に与えてくれると思うのです。

どのようなメンバーにより「89PLUS」は構成されていますか?
SC:オーストラリア・ブリスベンを拠点に活動するリサーチのプログラムリーダー、キャサリン・ディオニシウスと、フランス・パリを拠点に活動し、グーグル・カルチュラル・インスティチュートで受け入れている、アーティスト・イン・レジデンスのプログラムリーダー、ジュリア・ブコブザ。そしてその二人に、私とオブリストを加えた4名が現在のコアチームです。また「ANOTHER AFRICA」の主宰者、ミズーラ・リベスケルや、デザインスタジオのCONTENT IS RELATIVEをはじめとする多くのコラボレーターを、プロジェクト毎にチームに迎え入れています。

どのようなサブミッションが「89PLUS」に寄せられますか?
SC:ペインティング、ドローイング、彫刻、パフォーマンス、ビデオ、インターネットアートなど、あらゆるフォーマットの作品が寄せられます。「89PLUS」ではヴィジュアルアートの分野だけではなく、他分野からのサブミッションも受け付けているので、小説、建築、映画、音楽、デザイン、科学等の分野からも作品が多く集まります。

これまでに寄せられた6,500を超えるサブミッションを総括する時、89年以降に生まれたエイジグループ固有の傾向を、見付けることは出来るのでしょうか?
HUO:サブミッションを通して浮かび上がってきた傾向とは、アートとポエトリーの新しい関係性でした。シュルレアリスム、ダダイズム、フルクサスをはじめとする前衛芸術の運動においては、アートとポエトリーは密接に関わっていましたが、過去15年間でポエトリーの存在は建築、アーバニズム、ファッションに取って替わられ、アートとの関係性を失ったように思えます。近年になってYOUTUBEやTWITTER、SNAPCHATを発表の場とする新しいタイプの詩人が登場し、ポエトリーはアートとの関係性を全く新しい方法で復縁し始めました。リサーチを進めて行くうちに、今回のポエトリーの例のように、より多くの傾向が発見され、89年以降に生まれたエイジグループについてのより多角的な考察を構築することができるでしょう。

展覧会「FILTER BUBBLE」に展示された作品は、現代における私達とインターネットの関係性をどのように表しているのでしょうか?
SC:ルイーザ・ガグリアルディの『NICKI』というイラストレーション作品は、インターネットに接続しっ放しで消耗しきった現代人の倦怠を描写しています。以前は、デジタル世界こそが現実世界からの逃避の場所でしたが、現代においてはデジタル世界のトラブルから逃げて、現実世界に亡命する人々が増えているのです。

マックス・ホーキンスの『YOUR DESTINATION』という作品は、インターネット上の自らの行動パターンの蓄積とその膨大なデータを、本来の目的とは別に利用しようとします。鑑賞者がプリンターのボタンを押すと、プリンターに内蔵されたアプリのアルゴリズムにより、周辺地域から一箇所、目的地が選ばれます。レシートが印刷され、そこには目的地と、到着したらするべきアクションリストが書かれています。ギャラリーを出て目的地に到着した時、鑑賞者はこう考えるでしょう。アルゴリズムは私になぜこの場所を選んだのだろうと。現代においては、膨大なデータを解析した自らの趣向のアルゴリズムは、本人よりも自分の趣向を遥かに良く理解しているのです。逆説的に、趣向とは全く関係ない目的地がランダムに選ばれるホーキンスの作品は、私達の意思決定のプロセスから、いかに偶然性が失われたかを暗示しています。

今後はどのような活動を予定されていますか?
SC:3月にアラブ首長国連邦・ドバイで開催される「ART DUBAI」にて、サウジアラビアのアーティスト、サラ・アブ・アブダラと、クウェート人のアーティスト、アブドーラ・アル・ムタイリとのコラボレーションによるパフォーマンスを発表します。また「FILTER BUBBLE」の展覧会は、中国人アーティストをフィーチャーする形でリフォーマットし、「SHANGHAI PROJECT」と名前を変えて、中国・上海に巡回する予定です。来年には『89PLUS: CURATING THE FUTURE』(2017年/SKIRA RIZZOLI)と題した、89PLUSに参加するアーティストから選んだ、100を超える作品を収録したカタログを刊行します。


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INSTALLATION VIEW OF ‘FILTER BUBBLE’ AN 89PLUS EXHIBITION CO-CURATED BY SIMON CASTETS AND HANS ULRICH OBRIST, AT LUMA WESTBAU, ZÜRICH.
PHOTO: STEFAN ALTENBURGER.


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DOUGLAS COUPLAND, I MISS MY PRE-INTERNET BRAIN, 2013.
PIGMENT ON LACQUERED APPLE PLYWOOD. 55.8 X 43.2 CM.
COURTESY THE ARTIST AND DANIEL FARIA GALLERY, TORONTO


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ADRIANA RAMIC, A SMALL CREATURE WITH A TINY BRAIN THAT OPENS THE DOOR (ALPHABET), 2015.
PRINTED VINYL BANNER, CLARIFAI API DEMO, SKETCH RECOGNITION DEMO, ANT AND MOSQUITO PUSHPINS. 148 X 124 CM.
COURTESY THE ARTIST


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ALEX DOLAN, ALCOHOL APPARITION, 2015.
INSTALLATION VIEW IN ‘FILTER BUBBLE’ AT LUMA WESTBAU, ZÜRICH.
CARDBOARD, SILK ROSES. DIMENSIONS VARIABLE.
COURTESY THE ARTIST AND DAVID LEWIS, NEW YORK.
PHOTO: STEFAN ALTENBURGER.


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BUNNY ROGERS, ALLESE (MOURNING MOP), 2015.
MOP, RIBBON, WATER. INSTALLATION DIMENSION VARIABLE.
COURTESY THE ARTIST AND SOCIETE, BERLIN


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INSTALLATION VIEW OF ‘FLITER BUBBLE’ AN 89PLUS EXHIBITION CO-CURATED BY SIMON CASTETS AND HANS ULRICH OBRIST, AT LUMA WESTBAU, ZÜRICH.
PICTURED: ANDREA CRESPO, MOBILITY SLOPES (LONG- TAILS 2.2), 2015; NICHOLAS KORODY, ALLEGORY PAINTING (NON-FUNCTIONING LOUNGE CHAIR), 2015; LOUISA GAGLIARDI, NICKI, 2015 AND EVELYN, 2015.
PHOTO: STEFAN ALTENBURGER.


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DARJA BAJAGIC, EX AXES (SWORD), 2015.
PRINT ON AXE. 33 X 12.7 X 2.5 CM.
COURTESY THE ARTIST.


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HITO STEYERL, LIQUIDITY INC., 2014.
INSTALLATION VIEW IN ‘FLITER BUBBLE’ AT LUMA WESTBAU, ZÜRICH.
SINGLE CHANNEL HIGH DEFINITION DIGITAL VIDEO AND SOUND IN ARCHITECTURAL ENVIRONMENT. DURATION 30:15.
COURTESY THE ARTIST, ANDREW KREPS GALLERY, NEW YORK AND KOW, BERLIN.
PHOTO: STEFAN ALTENBURGER.


89PLUS 10

MAX HAWKINS, YOUR DESTINATION, 2015.
INSTALLATION VIEW IN ‘FLITER BUBBLE’ AT LUMA WESTBAU, ZÜRICH.
RECEIPT PRINTER, CUSTOM SOFTWARE. 14 X 19.9 X 14.6 CM.
COURTESY THE ARTIST.
PHOTO: STEFAN ALTENBURGER.


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SPECIAL THANKS TO KATHERINE DIONYSIUS AT 89PLUS.