ASSEMBLE

空間の錬金術師たち。
ISSUE 2
INTERVIEW TEXT NAOKI KOTAKA
2010年、筆者がロンドンに在住していた頃、イーストロンドンからセントラルロンドンを結ぶ、毎日の通学ルートの途中にその建物はあった。有名デザイン事務所が数多く軒を連ねるロンドン市内、クラークンウェル地区のメインストリート沿いにある、閉店してからかなりの年月が経っているであろう、無人のガソリンスタンドの敷地に突如その“映画館”は姿を現した。ある日、自転車で前を通りかかると、上下可動式の銀色のカーテンが開いて、その影から200人を超える観客の姿が現れ、丁度、終演したであろう映画について皆が楽しそうに歓談する光景が目に入ってきた。都市の中の映画館とでも形容するのが適当であろうか? 建築学生のペーパープロジェクトが都市の空間にコラージュされたかのような、「The Cineroleum」と呼ばれる、この実験的な建築のプロジェクトを手掛けたのが、自分と同年代の20代の若者たちとは当時は知る由もなかった。今年5月、現代美術界で最も重要な賞の一つ、ターナー賞のノミネート作家発表のニュースをインターネットで見ていると、そこに見覚えのある“映画館”の写真が目に入ってきた。「The Cineroleum」のデザイナーであり、26~28歳の15人のメンバーからなるデザインコレクティヴ、アッセンブルがデザインのフィールドから初めて賞に選出されたのだ。さらに、選出を決めた“アート作品”とは、リバプールにある寂れた“街路”「Granby Four Streets」の再開発計画である。ブラック・ウェンズデー以降最大の不況の最中に社会に放り出された20代の若者たちは、職がないことを嘆く代わりに、プロジェクトを自発的に立ち上げ、資金を捻出し、自らの手を使って、創意に富んだ建物を次々と世に送り出した。“低予算”から、空間の”芸術”を生み出す才は、まさにアーティストの所業である。15人の勇敢な異端児たちにとって、プロジェクトのサイズや世間の注目の大きさは変化しても、彼らが創作に傾ける精神は友人たちと日曜大工の延長で建てた、あの“映画館”の頃と何ら変わりはない。結成の秘話から最新作品まで、メンバーの一人であるアリス・エッジリーに話を聞いた。

2010年、ケンブリッジ大学の建築科で知り合った同級生が集まり、アッセンブルは結成された。「学部にいる頃から、時間を見つけては個人個人で小さなセルフビルドのプロジェクトを進めていました。サウスロンドンにある、使われなくなった立体駐車場を利用した『Bold Tendencies』という、若いアーティストたちが運営する非営利の屋外美術館に併設する『Frank’s Cafe』のデザイン・アンド・ビルドを手伝ったりしていました。学部過程を卒業して、修士課程が始まる前に、一年間ギャップイヤーを取ったんです。当時の私たちは、オフィスで図面を引いているよりも、実際のプロジェクトのマネージメントの方法や様々な工法などの、“リアル”な知識を学ぶことに意欲的でした。自分たちでプロジェクトを立ち上げたくて、仮設の建物を実現できるような空地を探していると、ロンドン市内に点在する多くの閉鎖されたガソリンスタンドの存在に気付いたんです。片っ端から大家さんに連絡をとり、その内の一人がクラークンウェルにあるガソリンスタンドを一時的に使わせてくれる許可をくれたのです。誰でも気軽に利用できるような場所を作りたいと思い、映画館を建てることを決めました」。こうして始まった、アッセンブル結成後の処女作にあたるプロジェクトは、デザインだけではなく、プロジェクトマネージメント、工法、映画館の運営に至るまで、低予算を逆手にとったユニークなものだった。「『The Cineroleum』のプロジェクトのために調達できた資金は、アート系の助成団体から支給された2,500ポンド(45万円相当)ぽっちでした。私たちはプロジェクトを進める上で、資材と人員をタダ同然で調達しなければいけませんでした。資材には、大量かつ安価に購入することができる足場材の廃材(基礎構造、座席)や断熱材(カーテン)を使用し、現場を参加型ワークショップのようにオープンにすることで、150人を超えるボランティアの助けを借りることができました。三週間の工事期間の後、遂に『The Cineroleum』はオープンし、開業中の一ヵ月間、すべての公演のチケットが完売しました」。

こうしてアッセンブルたちの“ギャップイヤー・プロジェクト”は大成功に終わり、「The Cineroleum」の評判をきっかけに新たなプロジェクトが舞い込むようになった。「ギャップイヤーを終えて、グループの一部は大学に戻り、その他は建築事務所に勤めたり、フリーランスのデザイナーとして自分のプロジェクトを抱えながら仕事をしていました。ロンドン郊外のクロイドン地区にある、『New Addington Central Parade』という広場の改修工事とパブリックプログラムのコンサルテーションのプロジェクト依頼をきっかけに、それまで他の建築事務所で働いていた仲間が仕事を辞め、アッセンブルに所属するようになりました。その後、修士課程を卒業した仲間も戻ってきて、現在では15人のメンバーで活動しています。結成当初は、メンバーの家やパブに集まって作業をしていましたが、2012年にロンドン・レガシー・デベロップメント・コーポレーション(以下LLDC)の協力を得て、オリンピック跡地にある、イケアが手掛ける再開発予定地に、仮設のシェアスタジオとワークショップを建てました。『Sugarhouse Studio』では当初、カフェを運営していたのですが、工業地帯で人通りがないエリアなので、2013年からは貸しスタジオとして他のアーティストに利用してもらっています。『Sugarhouse Studio』の誕生から二年後に、同じくLLDCからのコミッションで、建物の向かいに『Yardhouse』を建てました。現在では、大工、石工、鉄工をはじめとする多くの職人たちがこの場所を拠点に活動してます。プロジェクトの設計プロセスと施行プロセスの両方で彼らのインプットを得ることができ、なおかつスペース運営に掛かる負担を分担し合えるので、理想的な仕事環境だと思っています」。

組織としてのヒエラルキーがなく、15人のメンバー全員がデザイナーだというアッセンブルは、果たしてどのように組織運営をしているのか? 「担当するプロジェクトに雇われる形で、プロジェクトの全報酬の半分は“アッセンブル税”として(笑)、施設の維持費やオフィスマネージャーの給与、その他の諸経費に充て、残りの半分を担当メンバーの給与としています。また、人事や総務といった業務は有給にして、メンバー間で週替わりに分担しています。毎週月曜朝に、メンバー全員が集まってすべてのプロジェクトのアップデートを行い、夕方からは“アッセンブル持ち”でディナーを囲みながら、プロジェクトをいくつか選んで、より詳細にデザインレビューを行います。このような定例ミーティング以外にも、基本的には全員が同じ部屋で仕事をしていますし、週中も必要とあれば各メンバー同士でランチレビューの時間を設けているので、スタジオ内では常にデザインの議論が交わされている状態です」。

これまでのプロジェクトを通してアッセンブルが試みてきた、建物の未来の“居住者”を、建物を作り上げる対話のプロセスに巻き込むというアプローチは、ターナー賞ノミネート作品となった「Granby Four Streets」において、その深度をより増している。「『Steinbeck Studio』というコミュニティスケールでの再開発事業を支援する住宅投資団体からアプローチを受けて、リバプールのトックステス地区にある『Granby Four Streets』の抱える深刻な住宅問題に対しての改善案の提案を依頼されました。1981年に同地区で起こった、500人を超える逮捕者を出した暴動以来、住人たちは街を離れ、空家は放置されたままとなり、次第に街全体がゴーストタウンのように閑散となりました。イギリス中部及び北部における老朽化の進んだ住宅群を根こそぎ取り壊して再開発を進めるという、2002年に立案された『住宅改革案(Housing Market Renewal Pathfinders)』は住民たちの間で大きな物議を醸し出しました。過去10年に渡り、同地区に留まった住人たちは、ストリートマーケットを企画したり、通りに草木を植えて、自作のストリートファニチャーを設置するなどして、自分たちのできる範囲で街の手入れをしてきました。私たちは彼らの意思を引き継ぎながら、現在残っている建物の改修、コミュニティスペースの導入、新しい雇用の確保、自営業者の支援などを盛り込んだ、段階的な再開発の案を提出しました。スキームの第一段階として、現在、10軒の家の改修を行っています。伝統的なイギリスのタウンハウスの特徴である、大きな窓と十分な天井高を生かしながら、床が抜けている場所を二層吹き抜けのスペースにしたり、集めた瓦礫をコンクリートと混ぜて暖炉の囲いにしたり、退廃した建物のディティルをデザインのヒントとしました。スキームの第二段階では、レンガ造りの外壁だけが残る空家にコミュニティガーデンを設置する予定です」。

「Assemble(集まる)」という言葉が意味する通り、アッセンブルにとってのデザインとは、クライアントや利用者、プロジェクトに関わるすべての人が“集い”、対話と共同作業を行うことから自然と生まれてくる。そんな彼らにとって、メンバー同士を強く結び付けているのは何なのだろうか? 「現在の15人のメンバーは『The Cineroleum』の頃から変わっていないんです。そんな大人数でどうやってコンセンサスを取るの? とよく聞かれますが(笑)、私たちにとっては、“大勢”で考えるというのは利点なんです。もちろん、意見の食い違いはありますが、時間を惜しまずに議論し合うことで、どんな難題も15人の思考を駆使すれば解決できると思うのです」。

社会問題に真っ向からタックルし、そこに住む人々との対話を通して、あるべき空間の姿を浮かび上がらせる。若き空間の錬金術師たちが、どのような人々に出会い、どのような関係性を築き、そしてどのような空間を創造するか。これからも彼らの活躍から目が離せない。


ASSEMBLE 1

GRANBY FOUR STREETS
COURTESY OF ASSEMBLE


ASSEMBLE 2

DUCIE ST GREENHOUSE
COURTESY OF ASSEMBLE


ASSEMBLE 3

FOLLY FOR A FLYOVER
COURTESY OF ASSEMBLE


ASSEMBLE 4

THE CINEROLEUM
COURTSESY OF ASSEMBLE
PHOTO BY MORLEY VON STERNBERG


ASSEMBLE 5

THE CINEROLEUM
COURTSESY OF ASSEMBLE
PHOTO BY MORLEY VON STERNBERG