TSUYOSHI NOGUCHI

比例する生き様とスタイル。 2/2
ISSUE 6
INTERVIEW TEXT RISA YAMAGUCHI
日本という枠に収まることなく、世界を舞台に活躍するフォトグラファー達とセッションすることで、クリエイティヴなセンスがより一層研ぎ澄まされるという。「昔『BRUTUS』でテリー(・リチャードソン)との撮影でアリゾナに行ったんだけど、とにかく滅茶苦茶で、女の子は勿論裸。撮影が終わってからもグチャグチャで、当時テリーのアシスタントだった(新田)桂一の尻に落書きして、サボテンを差したりとか(笑)。もう馬鹿みたいなことをやっていたんだよね。その撮影は凄く印象に残っているかな。悪い意味で印象に残っているのが、マリオ・テスティーノに某ブランドのキャンペーン撮影をお願いした時に、洋服があまりイケてなくて……。自分は切腹する覚悟でお願いしたら『大丈夫』と言われて、出来上がった写真を見た瞬間に『こんなにも服が美しく見えるんだ!』という驚きを今でも覚えてる。諦めないということを学んだよね」。クリエイトし合わなければならない場面で、日本人特有の生真面目さが邪魔をする場合もある。「日本の雑誌撮影だったんだけど、ヒデ(中田英寿)がまだ現役の時代で。雑誌サイドからはラグジュアリーブランドをリストアップされていて、NYに着いてアシスタント無しで一人でリースを回って、20ルックくらいを持って打ち合わせに行ったのに、『この服よりお前が着ている穴開きのTシャツとジーンズのスタイルの方がいいんじゃない?』と言われて(笑)。結局、自分が持ってきたTシャツと新しく買ったTシャツに穴を開けたりして撮影したんだよね。海外の人と仕事をするとやっぱり日本人は凄く保守的で、真面目だなと感じるよね」。

数多くのセレブ達のスタイリングを手掛けてきた彼だが、自分自身が身に付けるモノは至ってシンプルなアイテムばかり。「自分が着るのは基本的にデニム、Tシャツ、アウターというスタイルかな。デニムに飽きた時は太いワイドパンツを穿いたり。人に着せる時は、自分が着れないモノだったり、自分が女だったら何を着るかを想像するかな。でも基本は、男も女もエロくないと。男だったらどこかに男っぽさがないとだし、どこかナードな感じになるのも嫌だね。女の子はガーリーなのもいいけど、どこかに女らしさがないと自分は嫌なんだよね。やっぱり女はモテないと駄目でしょ(笑)。日本人を対象にモテるという発想じゃなくてね。昔、某雑誌でDOLCE&GABBANAとかを使ったら、『セクシャル過ぎる!』って言われたけど、カワイイという感覚は日本だけのものだよね。それはやっぱり作り手も悪いと思う、編集者とか。おばさんになるとカワイイって言われないから、身に付けるモノでカワイイを求めるわけでしょ」。

そんな彼が考える「スタイルがある人」とはどんな人物なのだろうか。「アメリカ版『GQ』の人や、アナ・ウィンターもそうだし、テリー・リチャードソンや荒木(経惟)さんも森山(大道)さんもそうだし、皆ユニフォーム化してるじゃない。海外の人達の方がスタイルがあって、日本は流行りによって波があるよね。昔、海外のファッションウィークに行った時、『GQ』の人に『お前は何でいつもTシャツにデニムに革ジャンなんだ?』と聞かれて。何でって言われても『これがスタイルだから』としか言いようがなくて。珍しいんだろうね、アジア人で。ファッションウィークの時にアジア人を見ると本当にそう思うよ。THOM BROWNEが流行ると皆そればっかり着るし、VETEMENTSを着ているのはアジア人しかいないじゃない」。「お洒落に見られたい=流行りモノを着る」という概念から、ここぞとばかりに流行りモノばかりを身に付け、安心感を求める傾向が我々アジア人の持つファッション感に潜んでいることは否定できないだろう。「スタイルがないと、初見だと覚えてくれないよね、特に外国だと。初めてミラノコレクションに行った時、祐真(朋樹)は自分より何回もミラノに行っていて、その時はホテルの予約をしないで行ったんだけど、祐真がいつも泊まっているホテルに運良く泊まれてフロントの人に『MR.NOGUCHI』って名前を覚えられていて、祐真が『俺は何年も泊まっているけど、一回も名前で呼ばれたことがない! 何でお前は一日で覚えられてるんだ!?』って(笑)。身長もあるし、ロン毛だから覚えられ易いっていうのもあるんだろうけど」。

面倒見の良い兄貴分として野口は多くの後輩達からも慕われており、様々な相談を持ちかけられるという。彼の目から見た昨今の若者達は、どの様に映っているのだろうか。「最近の若いスタイリスト達はINSTAGRAMで自分の作品をアップして、『いいね!』の数が多くて、その時点で終了。その先が無いっていう話を聞いて、何が楽しいんだろうなと思ったね。営業の一環としてやるのも分かるけど、受け身でしかないじゃない、それって。自分は今だにやってないしさ(笑)。まず自分の行動がバレるのが嫌だし、人に見てもらおうなんて思わないし、どちらかといえば秘密にしていたいよね」。ビジネスの一環としてソーシャルメディアを巧みに使いこなし、フォロワー数や肩書きなどで仕事を得る若者“クリエイター”も少なくない。「うーん、そういう人達は苦労しなくてラッキーだよね。仕事をくれる人がいるのなら別にそれはいいのかな。ただ、それがいつまで続くのか保証は無いじゃない。ネクタイの結び方や基本のことを答えられるのか、そこは本人の技量次第だから。たまたま入り口はラッキーだったとしても、そこから努力をするタイプなのか胡座をかくのか、それは本人次第だよね。アシスタントをやらなくてもセンスがある子はやればいいと思う。後は人との繋がりだし、自分が何処に身を置いて勉強するかだから、時代には合っているとも思うかな。下積みをずっとやっているから偉いっていう訳でもないからね。スタイリストだけじゃなくてカメラマンとかも含め、アシスタント向きの人と、本当にフリーでやっていける人に分かれるよね。一生アシスタントでスタジオマネージャーレベルになれるっていう人もいると思うし、そういう奴がもっと増えてもいいと思うけどね。スタジオマネージャーで『月に100万円稼いでます』でもいいと思う」。自身が積極的に若者達と寄り添うことで見えてきた課題もある。「東京モード学園で年に二回くらい講義をしていたことがあるんだけど、去年くらいまでは『元気のない若者ばかりだな』と思っていたのが、今の18~20歳くらいの子達はちょっと変わってきている感覚はあるね。今の子達は少しアナログに戻っているというか、自分達でもう少し掘り下げてみようという気持ちがあると思う。そういう意味での期待はある。でも今の22~24歳くらいはつまらない。休みや保険とかばかり気にするし。後は、中国人や韓国人の子が凄く多くて、その子達の方が真面目に授業を受けてる印象はあるね。本気度が違うかな」。




THEM MAGAZINE (2016 SUMMER)
PHOTOGRAPHY BY SATOSHI SAIKUSA




THEM MAGAZINE (2016 SUMMER)
PHOTOGRAPHY BY JONATHAN LEDER