歌詞は男の独白となっているが、彼はそれなりに裕福で、洒落た家に住み庭にはプールもある。プールに浮かんでいるのは男のパートナー……だがそれは通信販売で購入したビニール製の人形。瀟洒な暮らしをしている男だがダッチワイフと生活を共にしている。うたの最後の方のフレーズで「俺は君に息を吹き込んだ(BLEW UP YOUR BODY)しかし君は俺の心を破壊した(BLEW MY MIND)」とBLOWという単語が異なる意味合いで使われている。
「どうやったらこの悪夢から脱出できるのだろう?」というフレーズは数段の横書きに配置されているが、その配置とバランスは星条旗を想起させる:見事な暗喩ではないか。他にもお馴染みの「I LOVE NY」のようなロゴ入りニットがあるのだが、それを単体としてでは無く、他の文字入りTシャツと組み合わせると「XXXキミを愛している」と読める。そんな知的な遊びに満ちたコレクションはロゴ(メッセージ)入りのガムテープの使用によって完成させられている。コートやジャケットの上から巻かれたガムテープはそれ自体“商品”である。厳密に言うと、コレクション中の一アイテムであるパンツを発注すると付いてくる“オマケ”のようなもの。かつてマルジェラもやったこの“ガムテープ遊び”はラフに引き継がれた。コレクションに満ちるトラッド感覚とパンク感覚の融合はラフの真骨頂である。
ショウが始まり、ファースト・ルックと共に聴こえて来た曲を聴いて僕はほほ笑んだ。『THIS IS NOT AMERICA』とボウイの曲をカヴァーしたのはソフィア・アン・カルーソ。囁くように歌うが、それは逆に曲の持つ“強さ”を感じさせる。歌詞にはアメリカへの夢と失望が入り混じっていて、AMERICAとMIRACLEという二つの単語は注意深く聴いていないと同じものに聴こえる。「これはアメリカではない/これはミラクルではない……」。これも“哀歌”と言える。時代感覚に優れたボウイは当時パット・メセニーという意外な相手と組み、透明感のあるサウンドを完成させた(1985年)。それは2017年、雪景色のNYに心地良く、そして寂しく響く“うた”となった。