WALTER VAN BEIRENDONCK

アントワープの巨匠は今、静かに囁く。 3/3
ISSUE 6
INTERVIEW TEXT YASUYUKI ASANO
あなたが言う「本物のファッション」とはどのようなものでしょうか?

この質問に答えるために、先ずはファッションの定義についてウィキペディアを参考にしてみました。流行している状態とは、そのルックやカラー、ステートメントやデザインが人々に届けられ高く評価されている時。またトレンドとは、メディアがそのものを取り上げ始め、人々が購入し始める時だそうです。一方、私が考える本物のファッションとは、デザイナー達の頭の中のファンタジーから生み出されるもので、マーケティングやトレンドとは全くの無縁のものです。フレッシュな新しいアイディアが違いを生み出し、そのクリエイティヴィティこそが最も大切なのです。


ファッションデザイナーについてお聞きします。ファッションの未来は、確かに新しいデザイナー達によって作られると思いますが、現在は非常に多くのデザイナーやブランドが乱立しているようにも感じます。テクノロジーの進化や、過去数年のストリートウェアのブームもあり、誰もがデザイナーと自称することが出来ますよね。そのような今日、あなたが考える真のファッションデザイナーの定義とは何でしょうか?

金稼ぎのためでなく、リスクを負ってチャレンジする勇気ある人々のことです。そのような勇気があってこそファッションは前進し、進化を続けていくのです。残念なことに、そのような人々の作品をコピーすることで、ニセモノ達が財を成しているのが現状なのですが。 ファッションの未来のため、消費者も考えを改めるべきだという話が先程ありましたので、次は現代の消費活動についてお聞きします。ここ日本でも、世界的にも、ファッションに強い興味を持ち、服に投資する若者は減少傾向にありながら、同時に人々はセレブリティのファッションには異常に取り憑かれ、皆が同じものを求めて列を成します。そのような大きなトレンドが次々と生み出される一方で、いつも思うのは、人々のアイデンティティはどこに存在するのかということです。そう、アイデンティティはファッションにおいて非常に重要なものです。現代のセレブリティ皆がそうだというわけでは決してありませんが、その大多数はテイストもヴィジョンも全く持ち合わせていません。彼らが大観衆の注目を集めるお手本として、しっかりと機能してはいないように感じるのです。そう考えれば、デヴィッド・ボウイに青春を捧げ、アイデンティティを育むことが出来たことは私にとって大きな誇りですね。


あなたにとってファッションの目覚めとなったデヴィッド・ボウイはとても大きな存在なのですね。僕が今振り返って見ても魅力的だと思いますが、決してリアルタイムで彼を見ることが出来たわけではなく、あなたを含め、多くのデザイナー達がファッションを通じて彼の偉大さを次世代へと教えてくれたように思います。現代のセレブリティ達と比べると、彼はどのように特異な存在だったのでしょうか?

当時のボウイは、正に彼独自のパーソナリティを持っていて、音楽だけでなく、そのヴィジュアルにおいても、今まで聞いたことも見たこともない真新しいものを生み出していました。彼は勿論数多くのクリエイティヴな人々に支えられていましたが、決して周りの人々に頼ることはなく、自身のクリエイティヴィティに沿った決断をしていたように思います。今日でいえばビョークがそのような存在かもしれませんね。今日の多くのセレブリティは、印象付けるために無理矢理作り上げられ、スタイリングが施され、監視され、管理されたものであり、そこにパーソナルなアイディアやヴィジョン、テイストはほとんどありません。


もしかしたら“時代”というのもあるかもしれませんね。1990年春夏コレクションの時、既にあなたは高々と「FASHION IS DEAD!」と宣言していました。それからかなりの年月が経ちましたが、ファッションは蘇りましたでしょうか? それとも未だに死んだままでしょうか?

私はこの世界においてニッチなポジションを確立していると思います。例えば、去年はコレクションの売上も非常に好調でしたが、それでも尚、ファッションの世界は非常に厳しい時代を迎えていると思います。でも近い将来、大きな転換期がやってくると私は信じています。そして私自身もその大きな変化の一部として、自身のアイディアで貢献出来ればと願っています。具体的には、今でもハンドメイドや海外を飛び回るオールドスクールなファッションの世界は、3Dプリンティングといった新たなテクノロジーの力によって一変する可能性があると思っています。例えば、オートクチュールを発表しているような大きなファッションハウスは、60年代にCOURRÈGESやPIERRE CARDINといった数少ないデザイナーが行ったような、実験的な試みを取り戻すことから再度始めるべきだと思うんです。何千時間も刺繍に費やすだけでなく、より現代に合った実験性を持って、服に関する新しいテクノロジーや可能性に投資していくべきだと思いますね。


それではもし、経済的な心配を一切抜きにして、自身のファッション研究室を設立出来るとしたら、あなたはどのような服作りの方法で、どのようなショーをしたいですか?

究極のテクノロジーを使って、私の研究室からカスタマーへダイレクトに服やコレクションを届けたいですね。これ以上詳細を話すには莫大な時間がかかるので……、続きは次回のインタビューで!


最後のトピックは、あなたのコレクションに見られる二面性について。メッセージのシリアスさに反して、常にポジティヴなバイブスが溢れていて、個人的にはその二面性が大好きです。ファンタジーを通じてシリアスなメッセージを届けているんだと思います。5年前にアントワープとメルボルンで開催された回顧展『DREAM THE WORLD AWAKE』のタイトル説明として、「夢を見ることは大切だが、同時に目を覚ましてしっかりと現実を見つめなければならない」と語っていますよね。 夢と現実、そのバランスをどのようにとっているのでしょうか?

私が伝えたい強いメッセージは、仰るように、常にカラフルにスウィートに、時にはアイコニックにユーモアを交えて、パッケージングされています。何故なら、暗くて気が滅入るような服を作りたいとは思わないからです。もし私の服を着た人がその背後にあるメッセージを感じてもらえたら嬉しいですが、それは絶対的に必要なことではなく、ただ素敵な服として楽しんでもらえればそれだけでもハッピーなのです。『DREAM THE WORLD AWAKE』展 では、そのような思いを込めた30年間分の様々なルックが一箇所に集い、改めて自身のヴィジョンとシグネチャーをはっきりと目にすることが出来ました。一つのタイムレスなコレクションのようにさえ感じ、非常に誇らしいものでした。


夢と現実、ファンタジーとシリアスさ、などといった二面性は、ファッション以外の文脈でも通じる所があると思います。この世界における怒りを持ち、疑問を提示しながらも、自身の人生を楽しむコツは何でしょうか?

未来を信じ続けること。ラヴ、カルチャー、セックス、アート、フード、自然、動物といったものの美しさを純粋に楽しむこと。そして人々。大部分は素直な良い人で、共に生きるのは素晴らしことだと信じています。


それでは最後に。今最も夢見ていること、そして今最も皆に伝えたいことは何ですか?

フクロウ達は、囁く 。ー




WALTER VAN BEIRENDONCK 2018年春夏コレクションより。
PHOTOGRAPHY by RONALD STOOPS