JENNY FAX

全ては普通の少女の記憶から。
INTERVIEW TEXT SHINGO ISOYAMA
「このカフェで待ち合わせしましょう」。JENNY FAXのデザイナーであるシュエ・ジェンファンから簡素な文章と共に、一行のURLが貼り付けられたメールが送られて来た。末尾には「從我的 iPhone 傳送」とある。添付されたURLを開くと、中国語らしき文字列の中に埋め込まれていたGOOGLE MAPリンクが待ち合わせ場所となるカフェの座標を示していた。思えばこの時点で、JENNY FAXの物語に惹き込まれていた。

ソーシャルメディアの発達によって顧客自身が情報を発信できる時代になった。それに伴って「ブランドの顔」と呼ばれる抽象的なイメージは、そのブランドの服を纏う顧客の行動と顔の集積によって生成しつつあるのかもしれない。デザイナー自身の持つブランドイメージと自然現象のように作られる顔やイメージ、そのズレに違和感を覚えるデザイナーも多いだろう。それもそのはず、次の顧客となる人物の取る選択は、このズレの持つ違和感に由来するからだ。

そう考えた時にJENNY FAXは一体どのようなブランドに映るだろうか。以前、会場でショーを観た記憶を思い返す。記憶の映像を繰り返し蘇らせて行く最中、とあることに気付いた。それは、ショーを楽しみに来ているピュアなファンとランウェイを歩くモデルに差異は無いのではないか、ということだ。ズレというよりもむしろ。同じイメージを共有し合っているとすら感じられる現象は、現実とランウェイ、そしてJENNY FAXとファンが触れ合う接地面から読み解くことが出来るだろう。

インタビューの最中、「素直に言うと……」と言葉を溜めながら過去の思い出に耳を澄まし、記憶を丁寧に捕まえるように話していたのが印象的だった。ジェンファンの身体の中には、少女時代の記憶が絶え間なく流れ続けている。その記憶は時代と共に再生機器は変わっても、人の心を動かし続けて行く懐メロのようなものなのかもしれない。


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2016-17年秋冬コレクションは、ジェンファンさんが生まれ育った街である台湾での開催でした。少し時間が経ってみての感想はいかがでしょうか?

ずっと日本でやっているので初めての台湾は新鮮でした。初めてのことだらけでテンションが上がっていて、やってる時間は超楽しかったんですけど、ショーが終わって日本に帰って来たらまたいつもの生活が始まったので……。いろいろと冷静になってみたら反省だらけでした。


なぜ、このタイミングでショーを開催したのですか?

いつも11月に台湾で行う展示会を通して、ちょっとずつファンが増えてきたという実感がありました。写真とかも無いようなショールームに、2~3時間も電車に乗って駆け付けてくれる子達がいて感動したんです。もし機会があれば、そういう子達の為に本気でショーをやりたいなと思ったんです。


今回のショーに同行したスタッフから、終始かなりリラックスしていたと聞きました。

来たものを受け入れる姿勢でいます。やっぱり運命って……、大事じゃないですか(笑)。今回のスタッフは日本から来てもらいました。自分のリラックスのできる人がいないとキツいので。


台湾の中で以前と比べて変化している部分はありますか?

とても現代っぽいです。若い人達のしゃべり言葉も違うし……。例えば、日本で言うところの「ビール」のことを「ルービー」という感覚が近いかもしれません(笑)。それに態度も違う気がします。昔の台湾の人はシャイでした。でも今ではインスタグラムとかインターネットを使って、どんどん外に発信している気がしますね。


台湾に帰ったら必ず訪れる場所はありますか?

一年に一回か二回、展示会のために帰っているのですが、実家には全く帰っていません。そんなにホームシックを感じたこともないんです。でも、毎回同じ場所に行きます。違う場所に行くのが怖いんです。あと、今でも生地屋さんにはよく行きます。そこは一つのビルの中に違う店舗が一杯入っているんです。


ブランドのコンセプトに「儚い記憶の断片、頭からずっと離れない大切な思い出」とあるのですが、ジェンファンさんにとっての記憶の断片となるエピソードを教えて下さい。

小さい頃、一番嫌だったのが日曜日の山登りでした(笑)。四人兄弟であまり裕福な家庭ではなかったので、お金の掛からない山登りによく連れて行かされました。母親が山登り好きで、水も弁当も全部家から持って行って(笑)。本当は、デパートに行ってモノを見るのが好きだったんですけど、いつも山登り……。小さい時はそんな遊びが不満でした。でも小さい頃からモノ作りはとても好きでしたね。いつもリボンとかを使ってモノを作っていました。当時、家にはインターネットが無かったのでよく本屋さんに行っていたのですが、海外の本などは予約しなくては駄目だったので、お金を貯めて予約して、海外の本を買っていました。特に(ランウェイ写真が載っている)コレクションの雑誌に憧れていましたね。当時、服を売っている場所もあったのですが、凄く少なくて、これもまた予約して取り寄せるしかなかったので、買った本の写真を真似して同じ物を作ったりしていました。


「JENNY FAXは普通の女の子の為の洋服」というコンセプトも掲げられています。ジェンファンさんにとって普通の女の子とはどのような存在でしょうか?

本当に普通の子で、超可愛い子でも、超ブスでもない子です。普通の子は一番忘れられそうじゃないですか。例えば、一つのクラスがあったとして、一番可愛い子と一番ブスな子は絶対覚えているけど、真ん中の子はあまり記憶に残らない気がします。普通の子達は不満があると思うのですが、それを外に出して、出来ることならチャレンジする心を持って欲しいんです。


ショーやルック写真に実の妹さんが出演されていますが、どのような意図があるのでしょうか?

素直に言うと……、いつもデザインも、ミニマルでシャープに行きたいと思っているんです。でも、いつも運命とか感情を優先してしまいます。妹についても同じで、そんなに深い理由は無いのですが……。ある時、台湾から日本にぽっちゃりした体型になって戻って来た妹が冗談で「姉ちゃん、私もモデルになりたい!」と言っていたのを聞いて、冗談と言いつつも本当に冗談かどうか分からない部分があったんです。「私もモデルになりたい」なんていうワガママさは、私の前しか出来ないのかもしれないなと思ったんです。だって他の人に言ったらビンタされるかもしれないじゃないですか(笑)。だからこれは可愛いなと思って、是非やってみようということになったんです。


ジェンファンさんのショーは、観客席のファンの方々と、ランウェイに出ているモデル達に差異が無いのではないかと考えてしまいます。極端に言ってしまえば、逆になっていてもおかしくないと思うんです。

普通のモデルの方は、フィッティングとかでもあまり感情がない気がします。私のショーに出てくる女の子達は、「このショーが初めて」というケースが多いんです。「自分が一番可愛く着られると思うのはどの服ですか?」という私の質問に対して「この形が良い」とか、「フリルが良い」とか、彼女達のキャーキャーしている感じを見ているのが好きですね。そのやり取りもかなりハマっていて、毎回キャスティングは超楽しみなんです。時々、ショーのテーマに全然合わないような女の子から「すごい出たいです!」という連絡をもらうのですが、自分の感情がハマればOKを出してしまいます(笑)。これも運命だな、と思って。そういう子達の凄く頑張っている部分が好きなんです。


ジェンファンさんのショーは、所謂「ランウェイ」とは異なり、必ずどこかに変わったポイントが入っていると思います。今まで直球勝負的なランウェイショーを行おうと考えたことはありますか?

うーん……、いや、毎回最初はストレートなショーをしたいと思っているんですが、ズレてしまいます。逆にやったことが無いのでやりたいなと思うのですが、いつも最後で変わってしまうんです(笑)。


ショー音楽の選曲もジェンファンさんが担当されているということですが、どのように選んでいるのですか?

コマーシャルの音楽も聴いていますが、メインは古い映画の音楽とかから考えます。先に音楽を決めて、毎日その曲を聴いているシーズンもありましたね。


ご自身に与えた影響の中で、最も大きかったものは何ですか?

一番大きな影響はテレビですかね。私が小さい時は、香港映画が台湾で流行っていました。ちょうど90年代の作品ですね。個人的には、ウォン・カーウァイよりも安っぽい感じの作品が好きです。アメリカだったら古いもので、内容が無いような感じのものが好きです。最近は、またアメリカのテレビドラマ『FRIENDS』にハマっています。私は頭の中で、自分の観ている映画のこのシーンとこのシーンを混ぜたらこうなるのかな、と考えるのが凄く好きなんです。今ではNETFLIXとかHULUとかで観放題じゃないですか。観過ぎて時々、三樹郎に怒られるのですが……。


今、一番興味のあることは何ですか?

もちろん『FRIENDS』です(笑)。全部で10シーズンあるんですけど、昨日が最後だったので悲しかったです……。1994年からスタートしたドラマなので、私の若い頃の記憶と重なる部分があるんですよね。


映像以外には何がインスピレーション源になりますか?

ファッションの為にアートを観に行く、というようなことは全くありません(笑)。例えば、ホームセンターとか文房具屋さんに行く方が好きなんです。今、人がリアルに使っているものの感じが得られるんですよね。人から見たら日常的なモノでも、私はいつも何かを思い出してしまいます。そういえば小さい頃、本当にサンリオの商品が欲しかった記憶があります。小学二年生の誕生日に、私のお母さんが誕生日プレゼントとして1,500円分使っていいよと言ってくれたんです。でも、サンリオでグッズを選んでいたら、隣にいた同じくらいの年齢の子がバスケットに溢れるくらいのものを入れていて……。私は2つ選んだらお終い(笑)。


インターネットで検索する時は、主に何語を使っていますか?

英語と中国語を使っていますが、中国語だと出て来る情報がかなり少ないので、主に英語を使っていますね。


インスタグラムを始める予定はありますか?

皆に言われます(笑)。私の場合、新いものに慣れる為には時間が必要なんです。インスタグラムはちょっと未来の感じがするので、無理かなと思って……。アップデートとかもありますし(笑)。ツイッターをやり始めるのにも凄い時間が掛かったんです。


ツイッターではインスピレーションや製作過程について、絵文字を添えてつぶやかれているのが印象的です。

今この瞬間、見たものを言葉で伝えたいんですけど、シンプルな言葉、例えば「可愛い」とかしか日本語が書けないので……(笑)。自分のツイッターはオンタイムじゃなくて、ズレてしまいます。本当はオンタイムでパッと色々なことを書いていきたいんですけどね。


絵文字だけで伝わる面もあると思います。ある意味、ジェンファンさんの服も絵文字のように、文章抜きで伝わっている気がしますし。

それはありがたいですね。そういう表現に作者のキャラが出ていると思うので。でも、本当はもっと上手く伝えたいんです……。


コレクションだけではなく、イベントの展開も精力的に行っていると思うのですが、コレクション以外の商品はどのようにして製作しているのでしょうか?

コレクションは1年に2回じゃないですか。2回の中でやりたいことをやっていますが、コレクションを作っている間に出た新しいアイディアで、コレクションの中に入れられなかったものをイベントで出そうと考えているんです。


JENNY FAXのデザイナーであると同時に、MIKIO SAKABEでのデザインも担当されていますが、どのようなバランスで作っているのでしょうか?

まずはMIKIO SAKABEから作り始めています。メインのデザインは三樹郎が決めて、私はディテールとかパターン、最後の修正をやっています。MIKIO SAKABEの作業が全体の50%以上進んだらJENNY FAXの作業に入ります。JENNY FAXは、本当にノリで作っていますね(笑)。インスピレーションですが、超早く出て来る月もあれば、全然出て来ない月もあります。2012年秋冬コレクションの後の何シーズンかは、ショーが終わって疲れきって帰って来た夜に、「あっ、これやりたいかも!」って思いました。ピースが少ないシーズンは、基本的にインスピレーションが出て来なかったシーズンですね(笑)。


ジェンファンさん自身がパターンを引かれているのですか?

そうです。でも、ちゃんとパターンを勉強していないので、ジャケットは作れません(笑)。ジャケットはメンズの知識が必要じゃないですか。なのでメンズをやっている人にはリスペクトがあります。


一日の生活のルーティーンを教えて下さい。

本当につまんないと思いますよ(笑)。出社時間のギリギリ前に起きて、アイスコーヒーを飲んで、妹に買って来てもらった朝ご飯を食べて、お昼は基本的に三樹郎と食べて、会社の作業をして、三樹郎が料理好きなので夜ご飯を一緒に食べて、そこから私のNETFLIXタイムが始まります(笑)。そして夜中1時くらいまで観ていて三樹郎に怒られる。そんな日常ですね。


第3回のLVMH PRIZEにはMIKIO SAKABEがノミネートされていました。JENNY FAXとして参加される予定はありますか?

出したい気持ちはもちろんあります。でも、自信が無いんです。出しても結果が悪かったらとても悲しいので……。怖いので出していません。


自分の中でのルールやジンクスみたいなものはありますか?

超恥ずかしいんですけど、あります……。超バカなことなんですけど、ショーの前は超緊張するので、絶対やるのが、ミキオの手を繋いで「私、大丈夫ですね……?」と聞いて、三樹郎が「うん、大丈夫」という最後の確認です(笑)。妹にも同じようなことをやっていて、手を繋いで「幸運が欲しいです」と私が言うと、妹は「わかりました、幸運をあげます」とやってくれます(笑)。三樹郎はこの儀式のことを全く興味ないと思うし、信じていないかもしれないですけど、私は絶対にやらなくては気が済みません。


憧れのデザイナーはいますか?

やっぱりラフ・シモンズですかね。特にユースなスピリットが感じられる昔のコレクションが好きです。後はアン・ソフィー・バックですね。当時、ストッキングを使ったスタイリングは見たことがないフレッシュなものでした。


メンズウェアを作ろうと考えたことはありますか?

例えば、男性モデルが女性の服を着る。これはアリだと思います。でも、メンズとウィメンズはそもそも動きが違うじゃないですか。パターンが変わったらダーツが変わったり、着て歩いてみたらイメージが違ったり。やっぱりメンズウェア特有の知識と繊細な部分への理解が無かったら、メンズウェアは作れないと思いますね。


ジェンダレスなファッションについてはどのように思いますか?

難しいですね……。三樹郎に聞いて下さいよ(笑)。私はガーリーな部分はもちろんあると思いますけど、男っぽい部分もあると思っています。正直に言うと、ノリで作っていてあまり考えていません(笑)。三樹郎には「ジェンファンは自分の世界に住んでいる」って言われていますし。


アジア人としての強みについて考えていることはありますか?

うーん、なんだろう? あまり考えたことが無いですね……。もしかしたら自分のデザインインスピレーションは、台湾の文化が関係しているかもしれません。台湾の国の歴史は凄く短いので、オリジナルの文化があまり無いんです。どこかから持って来て、ごちゃ混ぜにしている部分があります。もしかしたら東京と近いのかもしれません。


台湾の女子達にとって、東京はどういう存在でしたか?

もう、本当にあり得ないくらいオシャレな場所だと思っていました。昔はVISAの問題もありましたし、インターネットとかも無いので、距離を感じていましたね。今はインターネットを使えば全てがオンタイムで、VISAも要らなくなって、(飛行機代も)かなり安いので、昔ほどに距離は感じていないと思います。それでも未だにアジアの中で一番オシャレだと思っていると思います。


コンテンポラリーなファッションシーンについてはどう感じていますか?

この質問はちょっと難しいですね……。素直に言うと、あまり頭が良くないので、今のムーヴメントの感じはそんなに分析出来ていないんです。なので、いつも三樹郎に聞いてはいるのですが……。三樹郎は凄い本が好きですが、私は全くです(笑)。なめられたくないので、ちょっと読んだことはありますけど。でも付き合い出して、安定してから読んでいませんね(笑)。家の中の三樹郎の本棚には、今の宗教とか社会学とか村上春樹とかの本がありますけど、私の所には『FBI誘拐事件簿』しかありません(笑)。そんな具合なので、そういう話が好きな人もいることは分かるんですけど、私には分からないというのが正直なところです。


ブランドが持つ独特なコミュニティについて、どの感じていますか?

今回の台湾でショーモデルを紹介してくれた超顔の広い子がいるんですけど、彼女も最初はお客さんだったんです。「この人は友達だから」という感情の受け渡しのあるコミュニティが大切な気がします。例えば、皆がフォローしている超可愛い女優がいる一方、オタク系のアイドルがいるとします。フォロワー数とかは、このオタクなアイドルの方が少ないんですけど、この子がイベントを開いたらコミュニティが小さい分、強い気がするんです。皆がフォローしている子は、コミュニティのゾーンは大きいけど薄い気がします。お客さんとの距離が近い方が強いんじゃないかと思うんです。これを今回のファッションショーの中で感じましたね。正直、私は台湾での知名度はかなり低いです(笑)。なので、このショーには絶対に人が来ないと思っていたんです。でも、お客さんの女子達が凄い宣伝をしてくれて、結果的に会場は満員でした。本当にファッションが好きな子達が作ってくれているゾーンはかなり大切だと思いましたね。逆に、この方法でも運命や偶然を呼び込む為に、内側の変化は作らなくちゃいけないとも思っています。


何をエネルギーに換えて服を作っているのでしょうか?

もちろん他の方の作品を見て自分のエネルギーにして、もっと頑張ろうと思う時はあります。でも、ネガティヴなエネルギーも同時に使っています。「もし今これを諦めていたら」「もし今これを辞めていたら」「もし今ここで終わったらどこに行っていいのか分からない」……。私の人生はバックアップが無いんです。次の選択肢が無いので、ファッション以外に何をやっていいのか分からないんですよ。


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2016-17年秋冬コレクションより。


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台湾で開催した2016-17年秋冬コレクションのショーの様子。


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