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ベルリン発、サステイナブルなクラブウェア。
ISSUE 5
INTERVIEW TEXT NAOKI KOTAKA
1月のパリ、氷点下まで気温が下がった野外とは対照的に、セーヌ川沿いにあるナイトクラブ「SALÒ」のダンスフロアは熱気で包まれていた。フロアでは、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、中東など、様々なバックグラウンドの客が入り乱れながら、思い思いに音楽を楽しんでいる。これはベルリン発のファッションブランド、GMBHのパリでのプレゼンテーションの成功を祝したアフターパーティでの一場面だ。GMBHは、クラブミュージックがクラシックミュージックと同等の文化的価値を認められている街で誕生した。ファッションフォトグラファーとして輝かしい経歴を持つベンジャミン・アレクサンダー・ヒュズビーと、メンズウェアデザイナーのセルハト・イシックを中心に、ベルリンのクラブのダンスフロアで出会った10人余りの友人達によって結成された。

PVC素材のパンツ、リサイクルレザーのライダースジャケット、スポーツウェアにインスパイアされたトップスなど、GMBHのスタイルはベルリンのクラブファッションからの影響が色濃い。ブランドのキャンペーン写真やプレゼンテーションでは、ベルリンが移民の街であることを示すように、多様なバックグラウンドを持ったキャストを起用。服作りには、デッドストック素材やリサイクル素材を積極的に取り入れ、彼等独自の視点でサステイナブルやエシカルな課題にもアプローチしている。ベルリンに住む彼等の多様な関心事は、ダンスミュージックのトラックのように、重層的な音のハーモニーとなってGMBHの服から鳴り響いている。そんなベルリンから発せられる新しいファッションのアンセムに耳を傾けた。


ブランド名の由来を教えて下さい。

ベンジャミン・アレクサンダー・ヒュズビー(以下BAH):GMBHはドイツ語で「会社」を指す言葉で、英語の「INC.」や「LTD.」と同じように使われます。ブランドの構想時、私は出来るだけ多くの人達にブランドに参加して欲しいと考えていました。ですからブランド名にも、個人ではなくグループを指すような言葉を使いたかったのです。それに「会社」という言葉はジェンダーレスですし、あらゆる「会社」を指すことも出来れば、一つの「会社」を指すことも出来る。そんな両義性が気に入って採用しました。


何故グループとしてブランドを立ち上げたのですか?

BAH:家族が欲しかったんです。男女のようには家族を持てないゲイの人達にとって、家族の存在に代わるようなコミュニティを見付けることはとても重要なんです。また、ベルリンに住む多くの人達は移民なので、血の繋がった家族と離れて生活をしています。ですから、私達には“偽の”家族が必要だったんです。クラブのダンスフロアで出会った、多人種で、異性愛も同性愛もありで、全員が養子の家族です(笑)。

セルハト・イシック(以下SI):ルックブックでは、GMBHを取り巻くコミュニティの多様性を表現しています。モデルには、中東、アジア、東欧など、異なるバックグラウンドを持った人達を起用しました。私達の友人や、ベルリンのスタジオの近所でストリートキャスティングして出会った人達です。世界中が急激に右傾化する中で、私達はベルリンの持つ文化的多様性をポジティヴな仕方で表現することが重要だと思ったのです。


今年1月にパリで発表された2016-17年秋冬コレクションに「RANDOMLY CHOSEN」と刺繍された印象的なアイテムがありました。あの言葉に込められた意味を教えて下さい。

BAH:私は、褐色人種であることが与える印象にどう作用しているかに興味があります。私はノルウェー系パキスタン人で、セルハトはトルコ系ドイツ人なので、中東系というだけで不当な扱いをされることがあります。例えば、空港のパスポートチェックで止められて別室に連行されると、どの入国管理官も決まって「RANDOMLY CHOSEN(無作為に選んだ)」と弁明します。そんな他文化に対する無知は、何も入国管理に限ったことではありません。ファッションもまた人種や階級格差に関しては、まだまだ理解が足りていないと思うのです。パリで行ったプレゼンテーションでは、現地でストリートキャスティングした“褐色人種”もモデルとして起用しました。ファッションの中心とされているパリにも、多様な人種と彼ら独自の文化が存在していることを喚起したかったのです。


コレクションの随所にクラブカルチャーを連想させる要素が見受けられます。例えば、2016-17年秋冬シーズンのインヴィテーションにはレコードスリーヴが使われていましたね。GMBHにとって、音楽とはどのような存在なのでしょうか?

BAH:GMBHを始める以前から、いつかクラブカルチャーに特化したファッションブランドをやりたいと思っていました。長年フォトグラファーとしてファッション業界に関わってきましたが、服作りに関しては何の知識も持ち合わせていなかったので、当時自分でブランドをやっていたセルハトに「一緒にブランドをやらないか?」と持ち掛けました。

SI:スタジオではいつもクラブミュージックをかけているのですが、コレクションの制作期間になると、音楽と服が明確にリンクしていく瞬間があります。2016-17年秋冬シーズンは、デトロイト・テクノの雄、ブレイク・バクスターのダークなテクノチューン『WHEN A THOUGHT BECOMES U』がコレクションのサウンドトラックになりました。


ブランドの思想的な部分と実際的な服作りをどのようにリンクさせていますか?

SI:服作りに関しては、自分が実際に着たいと思うものを作っています。ワードローブに昔からあるような、自分にとってスタンダードと呼べるようなアイテムです。

BAH:GMBHのコレクションでは、デッドストック素材を多く使っています。というのも、私達はブランドを始めた当初、十分な資金を持ち合わせていなかったからです。ファブリックを探しに、あるミラノの工場を訪れたのですが、そこの現行商品には私達の予算に収まるものが何一つありませんでした。悲嘆に暮れていると「誰も使わないデットストックが山ほどあるよ」と職人の一人が教えてくれたのです。ユニークな素材も十分に見付けられたし、以前からサステイナブルなファッションの在り方に興味を持っていた私にとっては、まるでファッションの墓場を歩きながら、過剰生産の末路を見ているような興味深い体験でした。


ブランドとして、サステイナブルであることには意識的だったのでしょうか?

BAH:元々は、経済的な必要性に迫られて使い始めましたが、次第にデッドストック素材を使うこと自体がGMBHのデザインを特徴付ける重要な要素となったのです。また、12歳からベジタリアンだった私にとっては、デッドストック素材やリサイクル素材を使うことで、エシカルなファッションの在り方を提案する重要な機会にもなりました。例えば、GMBHのレザージャケットにはリサイクルレザーを使用しているのですが、こうした素材の選択を意識的に行うことが、非倫理的な方法で動物を扱っている一部のレザー工場へのプロテストになるのです。


2016-17年秋冬シーズンには古着を使ったアイテムも登場しました。

SI:HELLY HANSENの古着のダウンジャケットを使ったアイテムを作りました。色や柄、シルエットが異なるダウンジャケットを一つ一つ解体。パーツ同士を組み合わせて、新しいダウンジャケットとして再構築したのです。元々大量生産されたものが、世界で一着しか存在しないアイテムへと生まれ変わったのです。

BAH:このダウンジャケットは異なる素材のパッチワークである一方、私とセルハトの記憶のパッチワークでもありました。HELLY HANSENのダウンジャケットは、ノルウェーで育った私にとっては、子供の頃に雪の中で遊ぶための防寒着として記憶していました。一方、ドイツのトルコ人コミュニティで育ったセルハトは、10代の頃にハマった90年代のヒップホップファッションを象徴するアイテムとして記憶していたのです。


正直、サステイナブルやエシカル先行のファッションでデザイン性が高いものはまだ少ないと思うのですが、GMBHが持つ多様な要素と絡めていくことで、サステイナブル・エシカルファッションの新しい可能性が生まれてくることに期待しています。

BAH:ありがとうございます。私達にとってはクラブミュージックを聴くことも、環境問題に意識的であることも、同一線上で繋がっているのです。現代のファッションは、消費者に粗悪で不要なものを山ほど買わせようとしています。そうした状況を踏まえて、私達は「なぜ新しい服が必要なのか?」。その問いに、正当な根拠を持った服作りで答えたいのです。


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2017年春夏コレクションより。PHOTOGRAPHY BENJAMIN ALEXANDER HUSEBY


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