FALSE IDOLZ

インターネットという灰色のストリート。
INTERVIEW TEXT YUSUKE KOISHI
「面白い人が居るので。ちょっと話してみませんか?」と友人から紹介され、スカイプで話したのがこのFALSE IDOLZのデザイナー“A”だった。彼が世に本名を公開しないのは理由がある。それは「限りなく法的にグレー」な境界線上でブランドを運営しているからだ。

FALSE IDOLZのアイディアは単純だ。ファッションデザイナーの写真を90年代のバンドT風にコラージュし、それをプリントしてTシャツを作っている。ラルフ・ローレン、ラフ・シモンズ、リック・オウエンス、ヴァージル・アブロー、シェーン・オリバーなど好きなデザイナーをピックアップして作品にするのだという。簡単に聞こえるが、自分の写真やイメージに人一倍神経を使うファッションデザイナーが勝手なコラージュを許す訳は勿論無い。有名なデザイナーであれば特に。そんなこともあってFALSE IDOLZは文字通り「無許可で」デザインを作り、販売している。大胆な試みだが、今の所は大きな問題も無く好意的なリアクションが世界中に漂っている。

「ファッションではコピーを黙認する空気があるからね。でも、一応このブランドは偽物やコピーじゃない。一応、FALSE IDOLZのアイテムだって主張できる。売れ過ぎて有名になりすぎるのも困るけどね。だからひっそりとやるしかない。訴えられたらまずい」。笑いながら飄々と話す彼との1時間はあっという間に過ぎてしまった。

90年代以降インターネットの匿名性の恩恵を受け、様々な試みが生まれてきたが、ファッションではそれほど強い表現が生まれてこなかったように思う。それはファッションにおいて「名前」の存在が物の価値の鍵を握るからだろう。FALSE IDOLZとの対話は「ブランド」や「名前」の関係性を改めて考えさせてくれた。そして「コピー」と「オリジナル」とは何かということについても。「DIESELのニコラ(・フォルミケッティ)が主催していたコンテストのために、TUMBLRで画像をアップロードしたのがきっかけだった。ケイト・モスとカーラ・デルヴィーニュの顔を壊して作った画像だったんだけど、それをニコラが自分のTUMBLRにリブログしてくれたんだよ。その時、自分のアイディアがファッションの人達に通じると知ったんだ。その数年後、A$AP ROCKYが90年代のラッパー、Master  Pの顔をプリントしたバンドTシャツを着ているのを見て閃いた。このアイディアを現代のアーティストでやったら面白いってね。それですぐにA$APの写真でコラージュを作って、A$AP YAMSにTWITTERで“MENTION”したんだ。『INSTANT CLASSIC』というタイトルを付けてね。このタイトルはある意味正しかった、だってこのスタイルなら誰でも一瞬で90年代のアイドルになれる。YAMSはこの世界で最も偉大なヒップホップの歴史的な証人だと思うけど、本人が僕のTWITTERをフォローをして「いいね」をして来た瞬間、これはいけると思った。デザインを買いたいというコンタクトがあったんだけど、上手く行かなくて自分のブランドとしてやっていくことに決めたんだ。アーティストやラッパーと同じく、ファッションデザイナーも仕事や作品だけでなく、ライフスタイルも注目を浴びるスターみたいなものだから、バンドTシャツというアイディアはそのまま使えると思ったね。自分ではそのうち大きな流行になると思っているんだけど。少しずつ色々な所でTシャツを見掛けるようになってきたし。面白くなってきたね」。

音楽やアート、ファッションの過去から最新の話題まで次々と話し出す彼だが、最初にファッションに関心を持ったのは90年代のアメリカのカルチャーと、好奇心を無限に満たしてくれたインターネットの世界だったという。「7歳の時、学校で間違ったクラスの教室に入ってしまって、その時に『ヤンキーが何してんだ?』って野次られたんだ。でもそれが逆に嬉しかった。自分自身のスタイルにプライドがあったから、逆にヤンキーってわかって貰えたのがね。ファッションは10代の時からネットで情報収集をして詳しくなった。コレクション、写真家やセレブリティ、ストリートスナップ等ありとあらゆることをネットで見てきた。
大学では建築を専攻していたけど、合わなくて結局辞めてしまってね。今はFALSE IDOLZ一本で生活しているよ」。

ファッション好きの彼だが、自分の作品に起用するデザイナーは有名であれば良い、という訳ではないらしい。「インタビューを読むのが好きでね。新しいデザイナーの名前を知った時、作っている物の写真だけじゃなく、人間性をどうしても知りたくなる。だからインタビューで紹介された本も探して読んだりもするし、過去のコレクションの変遷、ウェブサイト、INSTAGRAM、受けた教育、話し方とか色々、デザイナー本人にとって決定的な要素のものを探ろうとしているよ。今はまだ少ないけど、今後フィーチャーしたいデザイナーは他にもいる。デムナ・グヴァザリア、クリストファー・シャノン、ゴーシャ・ラブチンスキー、高橋盾、ヴィヴィアン・ウエストウッド、アレキサンダー・マックイーン、マルタン・マルジェラ、ナジール・マザー、SUPREME、山本耀司、クリストファー・ケイン、MAHARISHI、マシュー・ミラー、ジョナサン・アンダーソン、ケイティ・イーリー、PALACE、ケイトリン・プライス、アレクサンダー・プロコフ、マーク・ジェイコブス、川久保玲……、沢山だね」。

無許可でTシャツを作っていると、やはり本人達から連絡を受けることもあるらしいが、どうやら届くのはクレームだけでもないようだ。「RALPH LAURENの法務部が一度連絡してきた。幾つかの画像が著作権を侵害しているってね。本物のブランドの商品だと思って混同するから止めて欲しいと言われたから、画像を入れ替えて誰が見てもRALPH LAURENの商品じゃないと分かるように作り変えたよ。勿論、それも承認を取ってないわけだけど。HOOD BY AIRのデザインチームからは『凄くいいね!』というメールが届いた。訴状とかクレームじゃなく、ポジティヴな反応を実際にフィーチャーした人達から貰えるのは非常に嬉しいね。僕はある意味で罪を犯しているかもしれないけど、FALSE IDOLZには愛情があるし、今の状況を楽しんでるよ」。

新しい試みを続ける彼にとって「新しさ」という価値観について聞いてみると、大きな笑い声と共に真剣な答えが返ってきた。「理由が無くても直感で間違ってるんじゃないかと思ったものが、後になって正しかったと分かった時、それは新しいものなんだと思う。不快に感じるものは何でも新しいし、驚きと目眩の間のような感覚を与える何か。そこにリスクがあって、それが大きければ大きいほど新しさがある。物を作ってる時にそういう感覚が無ければ、その人にとって新しさに到達していないんじゃないかな。新しいものを作るならより遠くに行かないとね」。

グレーな境界線上で動きを続ける彼に、今後の展望を聞いてみた。「フルコレクションを展開したい。他のデザイナーの色々なシーズンのコレクションを大胆に真似してね。ただ出処であるデザイナーの顔とか言葉とか、あるいは彼らが好きな物を服にプリントしてクレジットする。あるいはデザイナーのファンがネットで呟いている言葉とかね。正直な話、コピーとか真似は今も“INFLUENCE”という名の下に産業全体で行われている。自分にはそんな詭弁は必要ないから大胆にやるだけだよ。今はブランドを大きくするためのパートナー達を探している。パタンナー、プロデューサー、色々な人達。何処に居たっていいんだ。火星に住んでようと深海に住んでようと。インターネットが繋がれば、だけど。是非、JOINFALSEIDOLZ@GMAIL.COMにメールして欲しいな」。

辺境に居ながら、最新の情報で感覚を磨くFALSE IDOLZ。TWITTERの“MENTION”から道を切り開いた彼の話は、「ストリート」というものがインターネットの中にもあることを気付かせてくれた。そこにはロンドンの70年代のストリートにあったようなグレーな境界線と、“灰色”の空気がまだ存在しているのかもしれない。


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