INTERVIEW WITH CHIKASHI SUZUKI

鈴木親が写真を通して伝えたいこと。 3/3
INTERVIEW TEXT RISA YAMAGUCHI
私のような、今の二十代の世代をどう思われますか?

今の二十代の子は個性的にしなければならないですよね。それが逆に、無個性にならないように気を付けなければいけないかもしれないです。好奇心を持つことが個性になるので、物事を知るということをしないと外身だけが個性的でも実は個性的ではない。GOSHA RUBCHINSKIYの影響で皆、モデルをストリートキャスティングして「洋服の個性を魅せたいからストリートキャスティングにしました」と言っていますが、本当はマネキンに着せた方が個性を生かせるはずですよね。それをデムナ・ヴァザリアはコンセプチュアルにやっていて、彼が最初にやっているからこそチャレンジでもあり、それが個性になっているのに、それを真似するだけでは一番の無個性になりますよね。個性的に魅せたいという気持ちは大事なのですが、そこから何が本当の個性かを考えないと。なので、今は多様性が出た分チャンスだと思いますが、無茶なことをやる分、ロジックをしっかりしなければいけないとも思います。ヨーロッパみたいに、ファッションも写真も歴史を踏まえた上で、日本独自のやり方を見付けるのがいいかもしれません。最初は何でも勢いで出来ますが、3年、5年と続けていくのならリサーチや知識が必要になりますし、自分の名前で何かをやる時は責任を伴うことも考えないといけません。


二十代の子と仕事をする機会はありますでしょうか?

自費出版している子や、自分のウェブサイトとかをやっている子達に頼まれたら、一回は絶対に仕事をします。その後続くかどうかは別として、たとえその雑誌の出来が良くなかったとしてもやります。僕みたいなキャリアを持った人がやっていると次がやり易くなりますし、僕のキャリアで無償でやるのだったら、他の人も無償でやらざるを得ないですよね。雑誌を作っていると自腹のケースも多いですし、頼むのも勇気が要るはずです。とはいえ、言うことははっきりと言うので、嫌われているかもしれないですけどね(笑)。


いざ自分で写真を撮ろうとすると「あの人の作品っぽい」とか、「あの写真家のコピーだ」などと言われがちだと思います。現代はオンライン上ですぐに色々なフォトグラファーの作品などを調べられて、そんな中で自分らしい作風に到達するのはかなり困難だと思いますが、写真家を目指す現代の若者達にアドバイスはありますか?

海外で活躍したいのなら一つの方法論を見付けてそれを続ければ良いと思いますが、日本で仕事をする場合にはコピーされるということも含めて考えなければいけないと思います。でもそれが逆説的にプラスになる場合もあって、「コピーされたから、じゃあ違う方向でやってみよう」とか。荒木さんみたいに作家である程度成功したら、その作風で仕事が出来ますが、今の地位に辿り着くまでには相当な年月とプロセスがあって、実際に彼は広告の仕事はほとんどやっていなかったと思います。荒木さんも昔は色々な作風がありましたし、あの年齢になって一つの作風に固めたのかもしれないですよね。機材とかを真似するのではなく、その人の方法論などに着目して、最終的に自分のオリジナルの方法論を見付けてやっていった方が良いと思います。僕は荒木さんほど才能も無いですし、でも普通のフォトグラファーの人よりかは色々と見てきたので、アンダースや『PURPLE』の人達が僕を信じてくれたみたいに、誰かが若者達が出て来易い環境を作ってあげた方が良いのかなと思いますね。


少し話は変わりますが、編集者はどのように在るべきだと思われますか?

編集は操り人形の操る側なので、沢山嘘をついていいと思います。例えば、あまりよくないフォトグラファーだったとしても、一つくらいは良い所があると思うので、そこを引き出すのが編集の仕事だと思います。忘れられないのが『BRUTUS』の仕事で海外に行った時、追加で急に入った撮影があり、何となく自分の中で終わった気でいたこともあってテンションが上がらなくて、ポートレイト撮影だったのですが、少し雑な仕上がりになってしまって。現像が上がり、そのまま飛行機に乗った時に凄く後悔をして、はっきりと編集の人に言ったんです。「これはあまり良い出来じゃなかったです」と。そしたらその人が「編集で良く見せるから大丈夫、そういう時のために編集がいるんだよ」と言ってくれて。なので編集者は僕らのことを操る側の人間で、フォトグラファーがモデルを操っているように見えるけれど、その上で編集、ディレクターが良い気分にさせたり、追い詰めたりしているので、編集の人は視野が広い方が良いと思います。変なフォトグラファーと仕事をしなきゃいけない時もありますよね。そうした時にその人のベストな方法を見付けてあげたり、この人だったら好きに撮ってもらった方がいいな、とか。僕らよりもっと制限がある分、グッとコントロールすべきだと思います。好きな人とだけ仕事が出来るわけではないですもんね。


親さんと撮影をしているといつも穏やかで、アシスタントさんや誰に対しても誠実に対応しているのが印象的です。怒鳴ったり、反論したりすることはあるのでしょうか?

アンダースの撮影の時に「手伝いに来ていいよ」と言われて、周りの人が「彼はアシスタント?」と聞くと、「友達だよ」って言うんです。若かったのでそのままモデルをしたり、「そこに適当にいて」みたいな感じでした。厳しくしても変わらないと思うので(笑)。アシスタントに怒鳴ってたりすると周りが萎縮しますし。日本に帰ってきて思ったのは、優先順位が違うなと。誰が一番偉いかを見せつけるというか。現場が萎縮した状態の中で良い写真が撮れるわけないし、緊張感を出すのは良いけれど、若い子には通じないですよね。精神論とか、誰が偉いとか。敬語とかは良い文化だと思いますが、仕事をする時は良くないことなのかなとも思います。敬意をお互いに払っていればいいわけで、意見が言えなくなるのは良くないと思いますね。誰かの意見をフラットに聞いた方が良い時もありますし。例えば、撮影のセッティングをして頭の中で思い描いている画を撮る時に、アシスタントに「これどう思う?」と聞いた時に、自分と全く違う思考を言ってくれるので、そうした意見って凄く大事だと思うんです。フラットにしておくというか、友達ではないですけど、アンダースといた時も「これカメラの使い方が分からないんだけど、チカシ、分かる?」とか、そういう感じでした(笑)。「これやっといて」というだけだったら、お互いのためにもならないですしね。支配する方が気持ちいいだろうし、でも実際は現場がそういう感じではないですし、空気感は出る気がするんです。怒っても仕方がないですし、そこで撮影を止めても意味が無いので。たまにスタジオマンの子でカメラを落とす子もいますが、フィルムが駄目になったら怒るかもしれないですけど、カメラは買えばいいだけなので。海外でアシスタントに怒っている人は見たことがないですね。一人でいて良い所もあるけれど、例えばアシスタントがライティングを間違えたとしても、逆にそれが良い時もありますし、選べる環境があるのは有難いです。日本語ではアシスタントですが、ある種パートナーみたいな人をアシスタントにした方が良いかもしれないですね。そうしないと自分自身が成長しないと思います。なので、僕っぽい写真を撮りたい人はアシスタントにはしたくないですね。そのアイディアはもう既にあるので。期待しているのは、自分達が考えていないモノを撮ってくれる人ということなんです。


親さんはいつもお洒落というか、スタイルがあると思うんです。荒木さんもご自身のスタイルを持っていて、それは写真を撮るという行為に対しての敬意にも見えるのですが、何か拘りはあるのでしょうか?

昔、MAISON MARGIELAのアトリエに行った時、周りにいる人の私服がそのままショーに出ていました(笑)。GUERRISOLという安い古着屋があって、ショーの前になるとデザインチームが買っていくのですが、そこで質の良い古着を探すのが楽しくて皆で行っていました。そこで買ったショールとかがそのままショーに出ていたり(笑)。周りの友達を見てデザインするので、「このルック、あいつっぽいよね」とか。ジム・オルークというミュージシャンがいるのですが、マーク・ジェイコブスも彼のことが大好きで、彼の私服と全く同じルックが出ていたりするんです。男の人はファッションというよりスタイルなので、流行っているモノというより、感覚というか……。例えば、画を見た時にスタイリングとしてはこの帽子はありだけど、このロケーションだとその帽子がありか無しかはフォトグラファーが決めた方が良いのかもしれないですしね。フォトグラファーが全く服に興味が無いとかは有り得ないと思います。荒木さん、森山(大道)さんはいつも同じ格好をしていますが、その人のお洒落が見えますよね。後はファッションの仕事でお金を貰っているのに、洋服を買わないのは違うかなと思います。僕らが先に使わなかったら誰も使わないですよね。買うことが義務ではないですが、当たり前のことな気もします。でも日本のメディアは拘りがない方が仕事がし易いのも事実ですよね。


最後に親さんの今後の野望をお聞かせ下さい。

一つ思うのが、雑誌が良い方向に続いて欲しいなと思っています。安易に若い子を騙すような雑誌とかもあります。あれが一番嫌いです。その人(編集者)のバックグラウンドが見える雑誌が続いて欲しいと思いますね。そういう本があれば僕とかもトライ出来ますし、仕事でトライ出来なくて煮詰まったりする時もあるので、自分が活躍出来る環境があるといいなと思います。持ちつ持たれつで。やっぱりエディトリアルの撮影が一番面白いので。後は写真がちゃんと生きるグラビア撮影はやってみたいと思います。野望じゃないですけど、良い雑誌、良いページの写真が撮りたいです、この先もずっと。















CHIKASHI SUZUKI