J-NERATION / SHIN MURAYAMA

未来を創る才能たち。/村山伸 9/9
ISSUE 1
INTERVIEW TEXT JUNSUKE YAMASAKI
SHIN MURAYAMA

村山伸
MASK-MAKER / DESIGNER


8年間のブランク

マスクメイカーとして、TWONESSデザイナーとしてNYを拠点に活躍する村山伸。これまであまり脚光を浴びてこなかった彼だが、世界中のファッション界の要人たちから徐々にアテンションを集め始め、街中で着て歩くことがいささか困難なマスクにも買い手がつき、感度の鋭いショップでのみ取り扱われるなど、要注目のクリエイターである。しかし、そんな彼が8年間も服作りから遠ざかっていたことを知る人は少ないだろう。「こんなにたくさん洋服がある中で、これ以上ものを生むのか? そう思い始めてしまって、8年くらい作っていなかったんです。そういう観点であれば作らない方がいいわけで、それを“実践”していました(笑)。逆にいえば、8年間作っていなくても洋服を好きだったんだなと。ファッションは得意ではないけど、洋服は好きなんだなと。ただ、こんな大量にものがある時代にも、作り手の人となりみたいなものがにじみ出るようなモノ作りをしていかなければ、作り手として強くならなければと決めたのが29歳のときでした。やはり針と糸を使って、縫うことで何かモノ作りをしたいと思ったんです」。

ファッションへの目覚めはRALPH LAURENだったという。「ちょうどアメリカの男の子の冒険映画みたいなものを観て、その世界がカッコ良いなと小学生ながらに思っていたんですが、その最も洗練されていたものがRALPH LAURENで、それらの世界が濃縮されたものなんだと思ったらすごく好きになってしまいました」。10代の頃はファッション誌を読み漁り、女性誌までも網羅していたというから驚きだ。「『Olive』とか『CUTiE』とか、女性誌まで全部読んでいたくらい、異常なまでに雑誌に執着がありました。書店で自分で買うことも全然平気でしたね。今よりも周りが見えていなかったので(笑)」。その後、文化服装学院に入学するために上京し、アパレルデザイン科で3年間学ぶこととなる。

在学中から古着リメイク的なこともスタートさせていたという。「今に通ずるものでもないんですけど、マルジェラの影響もあり、古着のリメイクが見直されているような時期でしたね。当時、洋服を作り続けたいとは思っていたんですけど、「これは自分だけで一から十までやるもんじゃないな」とも思ってしまって……。ただ形には残したかったので、そうするとあるものを壊して新しいものに変える古着リメイクは、一からパターンを引いたりするよりもスピード感があったんです」。TWONESSがスタートしたのは約15年後。後付けで色々な意味を持ってしまったブランド名だが、元々はレコーディングなどでいう「take two」の意味で名付けたという。「ネペンテスNYでのマスクの個展の後、当初は具体的な商品制作依頼というわけではなかったと思うのですが、鈴木大器さんに『伸くんは洋服を作れるんだから、試しにシャツを作ってみせてくれない?』というようなお話しをしていただきました。しっかりとした生産背景がないので自分で作るしかなく、そこで古着を解体してリメイクする方法が都合が良かったんです。そういうことをおもしろがっていただいて、それがTWONESSの始まりですね」。むやみやたらにリメイクしまくるのではなく、彼には彼なりの厳格なリメイクルールがある。「新しい普遍性の追求や、古典に新しい意味を加えるような作業ができたらと考えています。新しい地平を切り開く、そんな新しさをイメージしているんです。ジージャン、ジーパン、ウエスタンシャツなど、近代のアメリカで生まれた服を古典と捉え、それらをリメイクのベースに制作しています」。
時間軸は前後するが、TWONESSの前に始まっていたものがマスクメイキングだ。「友人が関わっていたオンラインショップで、『ギャラリーのようなセクションを作るんだけど、そこで何か好きなものを作って発表しない?』と言ってもらって、そこでマスクを作ったことから始まりました。最初はマスクを作ることにどこまで真剣だったかはわからないですけど、マスクは歴史の中で人間が身に付けてきたものの中で唯一、ファッションアイテムとして認識されていないものなのではないか、と気付いたんです。今ではマスクこそが自分のアートフォームだと思って作り続けています」。

「『紙とペンだけ渡しておけば静かな子だった』と親に言われるくらい、ずっと絵を描くのが好きだったんですけど、自分の絵は嫌い、という厄介な子でした。ただ『納得できない、満足できないから続ける』っていうところは今でも同じなんです」と幼少期を振り返る村山伸。今年1月、そんな彼に待望の赤ちゃんが誕生した。スカイプ越しには時おり、生まれたてほやほやの天使の声が聞こえてくる。「今までは奥さんと二人で生きてきた感じがあったので、ふと気付くと『子供がいるんだ!』って思います。未だに実感が湧かないですね」。絵に夢中になっていた少年は今、紙とペンを針と糸に持ち替え、新しい生命を横目に己のクリエイションと向き合い続けている。

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