J-NERATION / YUSUKE KOISHI

未来を創る才能たち。/小石祐介 5/9
ISSUE 1
INTERVIEW TEXT JUNSUKE YAMASAKI
小石祐介
NOAVENUE CO-FOUNDER


人間、そしてファッション

彼がコム デ ギャルソンで働いていることは知っていたが、どんな人物なのかも全く知らぬまま、某レセプションパーティで一言二言交わしたことをきっかけに、お茶をする約束をしたのが昨年中頃のこと。お互いに面識はあったのだが、そのときに初めてきちんと話しをすることができた。その豊富な知識量にも驚いたのだが、何よりも人間的であり続けることにプライオリティを置いているその生き方に共感し、その場でとあるプロジェクトを一緒に取り組むことを決めたのだった。

小石祐介は青森県三沢市で生まれ育ち、地元で出会うお煎餅屋さんから米軍関係者まで、様々なタイプの人間との交流を図り、人生を歩んできた。彼を個人的に知る人であれば容易に想像できると思うのだが、子供のときからかなり大人びていたという。「大人をあまり信用しない子供でした。学校では『先生は完璧だ』という建前で教えられていた気がしますが、同じ街で生活しているうちに、大人の人生も自分と同じ現在進行形で、煩悩の中で試行錯誤しているというのがよくわかってきて」。しかし、そんな彼にもトラウマになってしまった言葉があったという。「小学校のとき、医者になりたいと思っていたのですが、何人かの大人に悪気なく「あなたじゃ医者になれない」と言われて何も考えず、すぐに諦めてしまった。そのときの悔しさが、反骨精神につながっているかもしれない」。

やがて彼は様々な人から影響を受けるようになる。「親元を離れて学生寮のある高専(高等専門学校)に進学したのですが、病気で手術をして、アパート暮らしになり、学校に行かなくなりました。当時は図書館の片隅で貸し出し記録の少ない本を読んで過ごすのが趣味で。そこでハイゼンベルクという物理学者の自伝を読んで強い衝撃を受けました。自分とほぼ同じ年頃で、鋭い感性があり、成熟した思考をする人間が80年前にいたということに感動すると同時に、自分と比べてなんだか焦りを感じて。それからはぼんやりと毎日、街の“へそ”のような喫茶店に通い始めました。そこで人間観察をしていると退屈しなかったですね」。

その後、小石にとって恩人でもあるという高校の物理の先生に勧められ、東京大学へ進学する。「大学では工学部に編入したのですが、今度は、自由で厳密な思考ができる数学や、『人間とは何か?』『人間の思考に普遍的な構造があるのか?』といった抽象的な興味の方が優ってきて、数学や生命科学の狭間で何かできないかと考えていましたが、ただ、もしかすると研究者にただ憧れているだけで、そもそも真剣にやりたいと思っているのかな、と…」。大学卒業後、フリーの翻訳家等を経て、コム デ ギャルソンにて本格的にファッションに携わることになる。

こうして人生のコアな軌跡を辿っていくと、ファッションとは無縁のように思えてしまうのだが、少年時代からファッションには強い興味を抱いていたという。「洋服をよく買っていた母からの影響かもしれませんが、小さい頃、近所のアメリカ兵の青年に頼んで、周りで誰も持っていないNBAのバスケットボールシューズとかMLBのスタジャンなどをよく買ってもらっていました。ファッションという仕事にリアリティを感じたのは、15歳のとき、様々なデザイナーのインタビュー記事を読んだのがきっかけです」。 

そんな彼に「ファッションとは?」という質問を投げ掛けてみた。「長い間わからなかったのですが、modality、様相、つまり人間の”さま”を作ることなのかなと。自分も含めた人間のこうありたい、ありたくないという現在進行形の有り様に関わること、その中に流行という現象があったりする。そう考えるとファッションはやはり人間的でおもしろい」。そんなファッションへの愛情を形にするべく、コム デ ギャルソンを退社し、昨年後半にスタートさせた新規プロジェクトというのが、僕自身も立ち上げ、運営に関わっている新しいオンラインプラットフォーム、NOAVENUE。玄人と素人の境を設けず、誰もが新しいアイディアを提案し、それらを共有することのできる場だ。投稿されたアイディアに対して一定の賛同が集まれば、NOAVENUEがそのアイディアの実現に向けて動くというもの。「オスカー・ワイルドの言葉で『人間は不可能なことを信じることができるが、ありえそうにないことを信じることができない』という言葉があります。『不可能』と『ありえそうにないこと』って決定的に違う。ありえそうにないから、といって諦めてしまうようなことをやること、確かめることに価値があると思いますし、それを積み重ねてきたのが人間の歴史ではないかと。それらをすべて吐き出して、育てる場があればおもしろいと思ったんです」。

最後に「コム デ ギャルソンで学んだことは何か?」と聞いてみた。彼はこう即答してくれた。「人間に対する愛情、人間の可能性を信じることの大切さでしょうか。ファッションデザイナーの中でも、人間に対する愛情を持っている人って本当に少ないと思うので」。彼は世界中の人間に訴えかけ続けながら、同時にファッション界に変革をもたらすべく、今日も自らの道を切り開き続けている。

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