ランウェイショーの始まりと終わりのために選んだ曲は、ジャズシンガーの故ニーナ・シモンによる『BE MY HUSBAND』だった。ショーを観た人の多くは、1960年代後半にアメリカで黒人公民権運動に参加していたニーナと、ドイツで女性起業家として社会進出しようとしていたジル、その二人の情熱的な女性活動家の姿を重ね合わせただろう。ジャーナリストのスージー・メンケスは、彼女を「ファッション界最初のフェミニスト」と称賛した。本人はフェミニストと呼ばれることに消極的だが、女性が社会という大地で花を咲かせるのを、彼女は生涯を通して支援してきたのである。
2014年にルークが立ち上げたメンズウェアブランド、OAMCでは、今しか出来ない服作りが行われている。それは、新品種の種を蒔き、その成長過程を見守る、実験的な庭作りのようだった。四つのアルファベットからなるブランド名には、恒久的な意味は無く、代わりに、目まぐるしく変化する現代の「時代精神」を表すような流動的な意味が与えられている。過去のコレクションは「OSCAR ALPHA MIKE CHARLIE」(2016年秋冬コレクション)、「ON A MIDNIGHT CLOUDED」(2017年秋冬コレクション)、「ONE ALWAYS MORE CONSICOUS」(2018年春夏コレクション)とそれぞれ名付けられていた。
OAMCを始める以前、マーケットにはルークが着たいと思える服が無かった。そこで90年代のストリートウェアブランドの、オルタナティヴな価値観から発信される「文化的な今」と、ラグジュアリーブランドの服作りに込められた「技術的な今」、その双方を融合させたのがOAMCなのである。「今、自分の身の回りで起きていることに対して、常に意識的であることから発想が生まれるんだ」とルーク。2018年春夏コレクションは、抗議手段としてのファッションという「社会的な今」を反映していた。アレン・ギンズバーグの反体制のメッセージを掲げたワッペンやステンシル、防護服のような機能的なディテール、スチールトゥのブーツなど、世界各地で起こっている社会的腐敗への抗議活動と共鳴するものだった。また、コレクションの制作においては「技術的な今」も積極的に取り入れられた。立体的な織りや編み、異素材の組み合わせ、マシーンクラフトとハンドクラフトの融合など、現代においてアクセス可能なあらゆる素材や技術が結集されていた。文化的な今、社会的な今、技術的な今、個人的な今…….。OAMCの服には沢山の「今」が散りばめられている。ルークはこう問いかけ続けているのだ。ファッションが促進する技術や価値観の革新は、どんなポジティヴな進歩を社会にもたらすことが出来るのか、と。