MIKIO SAKABE

10周年を迎えたMIKIO SAKABEブランドの過去、現在、未来。
INTERVIEW TEXT RISA YAMAGUCHI
2016年10月22日、渋谷・宮下公園にて約一年振りとなるMIKIO SAKABEとしてのランウェイショーを披露した坂部三樹郎。多くのオーディエンスが集まる中、今までのブランドイメージを覆す新境地となるルックを披露し観客達を驚かせた。その心境の変化は何だったのだろうか。そして10周年を迎えたMIKIO SAKABEブランドの過去、現在、未来について、アトリエがある中野駅付近の喫茶店でデザイナーの一人、坂部三樹郎に話を聞いた。


MIKIO SAKABEといえばドリーミー、パステルカラー、ポップなイメージがありましたが、今シーズンはより洗礼された印象を受けました。特別な理由、感情の変化などがあったのでしょうか?

10周年という区切りで新しいことを始めたいという気持ちがあり、前シーズンにLVMH PRIZEのセミファイナルに選ばれ、グローバルな環境で披露したことをきっかけに、そろそろストレートに、きちんとしたファッションをやりたいと思っていて、今季から本格的なショー形式で披露したんです。元々ヨーロッパでファッションの勉強をしていて、日本に帰ってきて「日本の特質って何だろう?」と思った時、模索していく中でサブカルチャーやジェンダーに行き着いて、日本の特徴としては面白いと思い、洋服に取り入れてきました。


東京のカルチャーシーンで見掛ける要素が、服にも強く反映されていましたよね。

そうなんです。東京カルチャーは凄く深くて、村上隆さんや、海外で活躍している日本人アーティスト達は、日本のアンダーグラウンドの動きを大事にしていて、僕が日本に帰って来た時は「ファッション×アイドル」や「ファッション×アニメ」はまだ混ざっていなかったんです。やっぱりオタクは遠い存在で、でもエネルギーとしては凄く強い存在なので、「絶対にファッションと混ざる!」と思って挑戦していました。でも、今は混ざるのが当たり前になってきて、その中で僕がやることは新しくなるのかというと、もうやることは無いなと。それよりも何年か費やした中で、逆にストレートなファッションをやっていなかったので、その方が自分達にとってチャレンジだと思い、今回捻ったこと無しのファッションをやろうと思ったんです。


今までのMIKIO SAKABEのインパクトがあまりにも強過ぎたので、こんなにもフォーマルな服が作れるんだと本当に驚きました。

よく言われるんです。でもそれをベースでやっていたので、本当はこの方がむしろ自然なんです。日本のデザイナーは、素材に強いんです。テクスチャーが強くて、素材感や着心地に関しては世界トップレベルなんだけど、シェイプが凄く弱い。立体的なシェイプや裁断で美しいモノを作るのが日本の歴史的にも苦手なんです。平面をベースに、同じ形のモノの素材を変えていく着物文化だったので、日本人はシェイプよりもテクスチャーが強い。なので、今回は敢えて日本人が苦手とするシェイプを用いたらどうなるんだろうと思い、フォルムを軸に製作していきました。


肩パット、ボディコン、厚底シューズなど、70~90年代を彷彿とさせるルックが目立っていました。今回のコレクションテーマを教えて下さい。

フォルムをテーマにしていたのですが、通常、世界中のどのデザイナーも「テーマは90年代の○○です」と分けてやっていることが多いと思うんです。何故かというと、作る側からすれば違う年代はあまりにもラインが違うので、スタイリングがし辛い。でも敢えて異なる年代のフォルムを混ぜることで、そこに何かしらの可能性があるような気がしたんです。なので、一体一体を見せるよりも、ショーでは会場を箱のような空間構成にして、例えば、自分の目の前に70年代のルックを着たモデルがいても、90年代のメイクをしているモデルが横目に見える。そんな中でショーを観ると、何がどう見えてくるかは分からないけれど、印象が変わってくると思ったんです。


一つのルックの中に、異なる時代の要素を混在させたのでしょうか?

前半の肩が張っているルックは、80年代のメイクにして分かり易く時代感を反映させて、ショーの後半から徐々に様々な時代のフォルムを混ぜていきました。


モデルさんが転んでしまいそうな超厚底のプラットフォームシューズには、何か特別な拘りがあったのでしょうか?

ランウェイショーで観客達は、可愛い服を見るより、身体が変容している人間を目の当たりにする方がドキッとすると思うんです。同じ人間なのに脚が凄く長いとか、肩が落ちているとか。ファッションの歴史的にも、80年代だったらパワーショルダー、90年代だったらオフショルダーというように、時代の象徴になるようなシルエットの変化が大事なんです。今回、その中でも凄く脚が長く見える手法はやりたかったことの一つだったんですよね。膝下を長くすることで、人間は長細く見えてくるので、脚は出来るだけ長くして、ミニスカートは超ミニにして、極端なボディバランスを見せたいと思っていました。


一番のお気に入りルック、思い入れのあるルックはどれでしょうか?

やっぱりミニスカートは上手に落とし込めて良かったなと思っています。何故かというと、全部長いパンツやスカートだと、保守的になり過ぎてしまうんです。これは日本人の弱点でもあるのですが、エロは作れるけどセクシュアリティを作るのが苦手で、「ミニスカートを合わせるとこうなる!」という発見が出来たので気に入っています。


音楽もアップテンポだったり、強さだったり、曲調の異なる音楽が混ざり合っていました。坂部さんが選曲したのでしょうか?

そうです。渋谷の宮下公園が会場だったので、屋外の空気感や風と合うかを大事にしていて、実際に公園で曲を選んでいました。当時『POKEMON GO』の影響でピカチュウが出るから人が沢山いたんです。それを横目で見ながら、僕はベンチで曲を選んでいました(笑)。


MIKIO SAKABEブランドは10周年を迎えましたが、この10年で一番変わったと感じる部分は何でしょうか?

色々なことが変わってきていますよね……。雑誌も服も売れていないし、学校も上手くいっていないし、全てのシステムが崩壊しているのは間違いないかなと。でもそれはアパレル産業のシステムが古くなっただけで、ファッションは違うシステムを見付ければこれからまだまだ生まれ変わっていけると思っています。


ご自身が好きなブランドはありますか?

VETEMENTSです。デザイナーのデムナ・ヴァザリアとは元々デビューが同時期で、東京にデムナ達にも来てもらって、皆でデビューイベントを企画しました。勿論、その後は別々の道を歩んだのですが、近かった友達があれだけ有名になると驚きます。デムナとは昔、一緒に展示会もやったことがあるのですが、「誰も来ないね」と言って、いつも二人で中華料理を食べに行ってましたね。でも彼はしっかりとバズを起こす要因を作ってからVETEMENTSを始めたと思うので、凄く勉強になりました。デザインが凄く上手くなっているかといわれたら、そうではないかもしれませんが、彼がVETEMENTSで爆発した要因の一つに、色々なコミュニティを作ったことがあると思っています。


日本の若手デザイナーについてはどう思いますか?

世界に向かって発信しなくても国内だけで完結するガラパゴス化が日本の魅力だと思います。例えばロンドンだと、ビッグメゾンに雇われるか、スポンサーが付くかなど、選択肢が少ないと思いますが、日本だと自分でINSTAGRAMやTWITTERを利用して、実力があれば売り上げも付いて、成り立っていくんです。それって凄く良い環境で、世界のマーケットやマスを意識しなくても自分達のやりたいことが出来ているので、面白い卵は沢山いると思います。ただ、そこから先のステップが少ないだけで、ある程度「小」から「中」になれる状況が日本の強みだと思いますね。


今後どのようにMIKIO SAKABEをブランディングしていきたいと考えていますか?

海外から色々なお話を頂く機会が多いので、そこを意識したブランディングをしていければと思っています。以前はパリで発表していたのですが、(パートナーのシュエ・ジェンファンが手掛ける)JENNY FAXを立ち上げてからはアジアマーケットを中心に動いていたので、もう一度、MIKIO SAKABEをヨーロッパを中心とした海外マーケットに向けてブランディング出来ればいいなと思っています。勿論、日本での発表も継続していくつもりです。


MIKIO SAKABE 2017年春夏コレクションより。

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