アートやアカデミックデザインでは既にサンプリングが主流である。サンプリングとは批判性なので、物事をフラット化できる。そしてそこに過度なオリジナル信仰は無い。分かり易くヒップホップを例にとれば「ヒップホップというイデオロギー」こそがエポックメイキングで、表層は既存のデータベース(レコード)にサンプリングやエフェクトを加え、そのイデオロギーを可視化しただけ。しかし、それにも関わらず、同時代に全て自前のオリジナルで作られたものよりも新しく斬新だった訳だ。「イデオロギーだけが新しく、表層は全て既視的なもの」という組み合わせはあり得る。現代アートの表層だけを真似て「名誉アートでございます」といった表明が今までのサブカル的ファッションのやり方であり限界だったが(YVES SAINT LAURENTのモンドリアンルックからCOMME DES GARÇONSなど全て)、現代アート的なイデオロギーでファッションデザインを考え、しかも表層はサンプリングで、というのがハイコンテクストノームコアであり、今実際に水面下で起こっている、ごく一部の人達だけが気付いている現象だ。
今現在において、一番ファッションを前衛に推し進めたのはマルタン・マルジェラだというコンセンサスがある。世間的にはアヴァンギャルド=先鋭的という解釈をしている。しかし、自分はアヴァンギャルドをリアルクローズの対義語として扱うことにしている。つまり、先鋭的なアヴァンギャルドもリアルクローズもあり得るし、逆に保守的なアヴァンギャルドやリアルクローズもあり得る。実際の所、そしてマルジェラは、先鋭的なリアルクローズを初めて実現した人だと思う。アヴァンギャルド=先鋭的、と殆どの人は思考停止し、リアルクローズの先鋭などあり得ないと信じ込んでいた。マルジェラの本当の鋭いところは理解せず、マルジェラ以前の(COMME DES GARÇONS的な)アヴァンギャルドの解釈で自分らに都合良く、殆どは表層的に受け取っただけである。それが原因でポストマルジェラ的なアプローチのブランドは現れることは無く、一世代前のギャルソン的なやり方のマイナーチェンジを90年代以降も続けるブランドが後を絶たない。そして、それらは全てシミュラークル化して行き詰まっている。