ECKHAUS LATTA

人類を、生命を賛美するファッション表現。
ISSUE 5
INTERVIEW TEXT YASUYUKI ASANO
ECKHAUS LATTA 1


マイク・エクハウスとゾーイ・ラッタの二人が手掛けるブランド、ECKHAUS LATTA(エクハウス・ラッタ)は、昨年記念すべき10回目のコレクションを発表した。まだ蒸し暑い9月末のNY、彼らのロウアー・イースト・サイドにあるスタジオから目と鼻の先に位置するシュアード・パーク。繁華街のノイズと混じり合う、デヴ・ハインズがライヴで作り出す優しいサウンドスケープ。そのショーでは、彼らが拠点とする二つの土地、NYのニューウェイヴデザイナーとしてのメトロポリタンなエッジに、LA的レイドバックとサンシャインを感じさせるカラーパレットが見事に融合されていた。アートでありながらエフォートレスなそのコレクションを包括するのが、どこかピースフルなムード。それは、レタスを床に散りばめた2015年春夏シーズンのランウェイや、バゲットで埋め尽くされた2015-16年秋冬シーズンのプレゼンテーションといった、一見奇妙な彼らの発表方法だけでなく、これまでに発表されたキャンペーン写真やショートフィルム、そして何より二人の自然体な表現が投稿されるインスタグラムフィードからも溢れ出ている。ECKHAUS LATTAが大陸を横断し生み出すコレクションは、ヴィヴィッドかつオーガニックなハッピーさが宿り、多種多様な人々のありのままの姿を祝福する。


記念すべき10回目のコレクション、おめでとうございます。これまで5年間の活動を通して、NYで最も才能溢れる若手デザイナーとして既に広く認知されていますが、そもそもお二人はどのように出会い、一緒に服作りを始めたのでしょうか?

ありがとうございます。出会ったのは、共にファインアートの勉強をしていた大学生活が終盤に差し掛かった頃でした。当時マイクはスカルプチャーを、ゾーイはテキスタイルを専攻していて、別にお互いのことを好きな訳でもなかったのですが、お互いが作っているもの、そして何よりお互いのファッションには興味を持っていました。その後いつの間にか服とファッションについて語り合う関係になり、やがてそれは共通のオブセッションへと変化していきました。卒業後は一緒に住むようになり、共にデザイン関係の職に就いたのですが、仕事へのフラストレーションが募り、本当に自分達が作りたいものを作りたい、という欲求に駆られて、数年後にECKHAUS LATTAをスタートしました。二人共服作りをちゃんと学んだことはなかったので、開始当初は知り合いに沢山質問したり、YOUTUBEのチュートリアルビデオを観たりしながら、共に学び、共に教え合い、制作をしていました。


ブランド開始当時は一緒に住まれていたということですが、現在マイクはNY、ゾーイはLAを拠点に活動していますよね。複数のデザイナーで成り立っているブランドは多々存在しますが、お二人のように物理的な距離がある中、共にデザインを手掛けているブランドは少ないと思います。お二人が現在異なる都市に住んでいる理由は何でしょうか? またその距離がある中、どのようにコレクション制作を進めていくのでしょうか?

意図的に別々の都市に住もうとしていた訳ではなくて、いつの間にか自然とそうなったのです。ECKHAUS LATTAはNYで結成されて、当初の3年間はNYのみを活動拠点としていましたが、実はゾーイはカリフォルニア出身で、LAには素材、土地、そしてコミュニティなどの点において本当に沢山のチャンスがあることを知っていました。そこでLAでプロダクションを始めることになり、そのタイミングでゾーイがNYを離れ、LAに住むことにしたんです。勿論、距離があるという点で大変なことは多々ありますが、それでもやはり違う都市で活動をして、お互いの培った資源やコミュニティを共有することに大きな価値を見出しています。電話で沢山話せばいいことですし、それに今はGOOGLE DOCSといった便利なものもありますから。


NYとLAのファッション、アートシーンはどのように異なるのでしょうか? ファッションに関しては、NYはファッションウィークと並行して、アンダーグラウンドなシーンや若手デザイナーのプラットフォームが整ってきましたよね。ただ近年はLAを拠点にするデザイナー達も増え、特にストリートウェア的美学を備えたブランドが台頭してきています。

NYは断然歴史が深く、確固たるファッションシステムを有しています。私達のブランドは、そのような伝統的な決まり事に疑問を抱くところからスタートしました。LAはまず製造業界が素晴らしく、幾度となく変更されてきたアメリカの貿易協定にも怯まず、強く存在し続けてきました。LAのファッションシーンは全く異なり、近隣の人々が集まったりするような特定の場所がまだあまりありません。存在はしているのですが、分かり辛く、ミステリアスなコミュニティです。そのように異なるシーンの両方が、ファッション観やデザインに良い影響を与えてくれています。


昨年の夏には初となるフラッグシップストアもオープンされましたよね。オープンに至った経緯やストアのコンセプトを教えて下さい。何故NYではなく、LAにオープンされたのでしょうか?

場所に関しては、LAでなら起こり得ることだったので必然的にLAになりました。NYのマーケットはよりアグレッシヴですし、売上が不可欠となる経済的なリスクが存在します。そこで、以前からLAのスタジオに設けていたショップ的なスペースを、お客さんにもう少しおもてなしが出来るようにデザインし直しました。仕上がりにはとても満足していて 、販売をするだけでなく、時にはショップスペースの裏で服を作ったりもしています。ですので、フラッグシップストアというよりは、ヘッドクォーター的な場所なんです。自身の商品だけでなく、ジェシー・リーヴス、ノラ・スレイド、ブレンダン・ファウラーといったアーティストの作品展も企画したり、他にも実際の生活で洋服と向き合えるようなイベントも定期的に開催しています。オープンして少し経ちますが、誰一人やって来ない日もあれば、とんでもなく忙しい日もあります。イーストハリウッドの国道101号線から少し外れた所で、看板を出すこともなく、探し求め辿り着いた人々への聖地のような場所でありたいと思っています。


昨年9月にショーが行われた2017年春夏コレクションは、以前よりも明らかにプロダクトとしても完成度の高いものでありながら、DIY、ジェンダーレス、構築的なシェイプや露出といった、ECKHAUS LATTAのエッセンスといえる部分はより磨き抜かれ、そのバランスにおいて最もクリエイティヴに仕上がっていたのではないかと思います。これは意図的な変化なのでしょうか? もしそうであればそのきっかけは何だったのでしょうか?

私達のコレクションは、常に数多くの要素から成り立っています。2017年春夏シーズンは、先程お話ししたLAのストアをオープンさせてから初めてのコレクションでしたし、まずシェイプをより洗練させようと考えていました。その時の気分が、「そう、私達はアートスクール出身ですので、服作りのバックグラウンドは勿論ありません。だからといって、クオリティの高いアイテムが揃ったソリッドなコレクションを作れない訳ではないんですよ」という感じでした。ただ、それらの気分はコレクションでのアウトプットと共に、私達のシステムから既に取り除かれてしまったので、次がどうなるかは分かりません。


前回のファッションウィーク期間中、パリで初めてショールームにお伺いして、実際にアイテムに触れ、試着したところ、どのアイテムも想像以上に着易く、とても着心地が良かったです。特にカットソー類は非常にソフトな素晴らしい仕上がりで、また、幾つかの商品に使われていたグリーンコーデュロイのようなデッドストックのテキスタイルも印象的でした。ファブリックやテキスタイルに関するアイディアや拘りをお聞かせ下さい。

そのように感じてもらえて、とても嬉しいです。マテリアルには、私達二人が共通して強い興味を持っており、もっともっと探求していきたい要素です。ブランド開始当初は、業者からミニマム量を買う余裕もなかったので、必然的にデッドストック生地を使っていたのですが、すぐにその魅力に気付きました。何の制限もない状態から無限のアイディアを夢見るのではなく、現実的に手に入るもので上手くやっていく、というやり方だって実はとても面白いのです。ただ、デッドストック素材は時に制限が多過ぎて、やきもきすることもありましたので、今では新しい生地も混ぜながらコレクションを完成させています。


先程も少し触れましたが、ECKHAUS LATTAはDIYでジェンダーレスなデザイナーとしても高く評価されています。そのDIY的要素について、やはりアートスクールで学んだバックグラウンドが影響していると思いますか?

そのような評価は頂いていますが、自らをカテゴライズすることはなるべく避けるようにしています。ただ言えることは、常に脱構築的な洋服が大好きで、それがゴミのように破れたヴィンテージTシャツであろうと、5,000ドルのCOMME DES GARÇONSのドレスであろうと、好きであれば全く関係ないということです。


次にジェンダーレス的アプローチについて、やや構築的なシェイプとクロップする部分を組み合わせながら、そこには間違いなくボディへのフォーカスがあるように思えます。今この時代に、ジェンダーというものをどう捉えていますか? もしくは、それはジェンダーに関してだけではなく、ボディのシェイプや年齢、または人種といった人々の外見の違いにまで関することなのでしょうか?

ブランド設立当初から、内面と外見の両面において、自分達が美しいと感じる人々に自分達の服を着てもらってきました。人々への既存のカテゴリーを意図的にごちゃ混ぜにしようとしている訳ではなく、ただ自分達が思う美というものに正直に表現しているだけなのです。ジェンダー、年齢、人種、サイズといったものにより、その人の持つ美しさが陰ることは決してありません。これまでもこれからも、そのようなアイディアを映し出す服と文脈を創造したいと考えています。


ECKHAUS LATTAにおける服以外の表現、例えばCAMPERとコラボレーションした最新フィルム『ISLAND』や、その前に発表された『ROACH』、またはレタスを床に散りばめた2015年春夏シーズンのランウェイや、バゲットで埋め尽くされた2015年秋冬シーズンのプレゼンテーション、更には沢山のヴィンテージの服を会場に吊り下げた昨年のベルリンでのパーティなど、そこには常に独特のムードや人々の思考を刺激する奇妙さが存在しているように思います。それらは一見シュールなようで、どこか正直でリアルな表現のようにも感じます。そのような独特のムードはどこからやってくるのだと思いますか?

そのように感じてもらえることは大変光栄なことですが、これらの表現に関しては敢えて自分達の口から定義や説明をしないでおきたいと思っています。その方がより自由で、より面白いのではないかと思います。


2017年春夏シーズンのショーで席に着いた時、まず目に入ってきたのがステージ上のデヴ・ハインズでした。彼は以前にもショーのBGMを担当されていますが、彼の音楽はECKHAUS LATTAの世界観とどのようにシンクロするのでしょうか?

DJリチャードやコリン・セルフといった他の友人であるアーティスト達と同様に、デヴの音楽が大好きです。本当によく聴いているのですが 、時折、彼の音楽が自分達の服の中に自然と溶け込んでいるようにさえ感じます。ですので、彼にショー音楽を担当してもらうことはとてもオーガニックなことだったのです。


デヴ・ハインズは以前、ECKHAUS LATTAのショーモデルとしてランウェイを歩いたこともありますよね。そのように、お二人はアーティストやキッズ達と、プロのモデルをミックスしたユニークなキャスティングをすることでも知られていますが、ショーにおけるモデルの審査基準は何なのでしょうか?

明確な審査基準は一切無く、より直感的なものです。キャスティングに関しては、ウォルター・ピアースと共にMIDLANDというエージェンシーを始めたレイチェル・チャンドラーにお願いしています。彼らはストリートキャスティングなどを通じて、型破りな美しさを持った人々を見付け出す能力を持っていて、一緒にショーを作り上げることが出来、非常に嬉しく思っています。


アレクサ・カロリンスキーやアレックス・ダ・コルテとった数多くのアーティストともコラボレーションを果たしています。クリエイティヴな人々と繋がり、一緒に何かを作り上げていくことの魅力は何でしょうか?

コラボレーションには常に行っていますが、全て個人的な繋がりから自然と発生するものばかりです。私達二人だけでは出来ないところまで、クリエイティヴな文脈が派生していくことが常に大きな魅力ですね。


2017年春夏シーズンではLAを拠点に活動するマルチメディアアーティストのブレンダン・ファウラーが手掛けるレーベル、ELECTION REFORM!と共同制作したルック3体が発表されていました。先日、ブレンダンと東京でお会いしたのですが、素晴らしいエナジーを持った方だと感じました。今回のコラボレーションでは両者の美学がパーフェクトにブレンドされた完成度の高い仕上がりであったと思いますが、どのようにしてこのプロジェクトは始まったのでしょうか?

ブレンダンはLAで仲の良い友人の一人で、選挙に対して独特のアプローチをしていることも勿論知っていましたので、純粋に一緒に何かをすべきだと思ったのです。共同で制作したTシャツやパンツの仕上がりにはとても満足していますが、その一方で選挙(2016年アメリカ合衆国大統領選挙)の結果には非常に残念です。


選挙前の10月、最終討論会の様子を皆で視聴するというイベントをLAのストアでブレンダンと開催されていましたよね。昨年6月のBREXITに続いて、前例が無い程、業界の人達が今回の選挙の話題をしていたことが日本からも見て取れました。非常に残念な結果となってしまった今、アメリカの将来をどう考えていますか?

私達は皆、未だにその選挙結果に恐れている段階です。トランプはまだオフィスに就いたばかりですし、これから実際に何が起こるのか分からないからです。そのような未知に対する恐怖が渦巻いているのが現状ですね。選挙結果が異なり、「これから何が起こるのか楽しみだ」ということになれば良かったのに……。


昨年は公私共に沢山のニュースがあった一年であったと思います。2017年になった今、次の2017-18年秋冬シーズン、そして今年の予定を少し教えて下さい。

現段階ではまだ報告できることは無いのですが、幾つか進行中のプロジェクトがあります。それらを共有することで、世の中に対して皆で立ち上がることが出来ればと思っています!


お二人のファンだけでなく、まだ良く知らない人々へもその魅力が伝わるように、ECKHAUS LATTAとは何か、一言で表現してみてもらえますか?

こういったことはあまり得意ではないのですが……(笑)。やってみます。「ECKHAUS LATTAは、あなた自身です」。


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2017年春夏コレクションより。


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