GUCCI IN HARLEM

FREEーHARLEM
ISSUE 8
PHOTOGRAPHY & TEXT JUNSUKE YAMASAKI





















ダッパー・ダン。伝説的テイラー

「ハーレムは危険な区域だから行かない方が良い」。幼少期にニューヨークに渡航することが多かったのだが、そんな風評をどこからか脳内に植え付けられたのが今から20~30年くらい前のことだっただろうか。それに加え、普段から新しい街に足を踏み入れることに物凄く億劫かつ臆病であることもあり、ニューヨークに行ったとしても、メトロポリタン美術館よりも北に赴くことはほぼ無かった。

しかし、GUCCIがハーレムを舞台にした壮大なプロジェクトを企画したことをきっかけに、今年7月、同地を訪れる機会に恵まれた。赤茶けたレンガを積み上げて出来た建物の数々、大都市を瑞々しく彩る夏色の街路樹、多種多様な衣服を纏った老若男女。時差ボケ中の目をこすり、ニューヨークらしいそれらの光景を目にしながら、数十分かけて辿り着いたハーレムの地には平穏な空気感が漂っている。そして、同地の移り変わりを数十年に渡って見続けてきたハーレムの生き字引達が、貴重なエピソードを添えながら沢山の重要なスポットをガイドしてくれた。数えきれないほどの偉大なる音楽家達を輩出してきたアポロ・シアターや、ジャズクラブバーのミントンズ・プレイハウス、バラク・オバマ前アメリカ大統領をはじめとした著名人も数多く訪れるというシルヴィアズ・レストラン、さらにマヤ・アンジェロウ、ラングストン・ヒューズが住んでいた自宅内部など、約二日間を通してハーレム近代史を叩き込まれた貴重な旅となった。

そして、GUCCIがコラボレーションコレクションを展開しているダッパー・ダンのアトリエにも立ち寄ることが出来た。ハーレムが生んだ伝説的テイラーの予約制アトリエでは、GUCCIとコラボレートしたきらびやかなファブリックやボタン、サンプルとなる既製のピースが展示され、訪れたカスタマー達のリクエストに応じてオーダーメイドのウェアを作ることが出来る。80年代にGUCCIをはじめとしたラグジュアリーブランドのロゴやパターンを許可無く用いたアイテムを作り続け、訴訟沙汰をくぐり抜けながら、ローカルのセレブリティやアーティストなどから支持を集めていたダッパー・ダンに、GUCCIクリエイティヴ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ側から企画を持ち掛けて実現したという本プロジェクト。約30年以上の時を経て、今回は無許可ではなく、GUCCIとオフィシャルでコラボレートすることが出来、彼自身にとってもこれ以上ない喜ばしい出来事になったという。

常日頃から派手なスーツやカラフルな服を身に纏い、顔面の三分の一くらいを覆い隠す大きめのサングラスをかけ、アトリエ前の道端で地元の人達と他愛もない会話を楽しみながら、豪快な笑顔を振りまくダッパー・ダン。穏やかでピースフルなハーレムのストリートの情景を、より心地良い、住みやすい憩いの場所へと昇華させてきたのが彼のような人達なのだろう。ハーレムの街だけでなく、彼がGUCCIと創り上げた唯一無二のアトリエ、そしてスペシャルなファッションピースの数々も実際に感じてみてもらいたい。そこにはハーレムの歴史と文化、ダッパー・ダンの感性、GUCCIのレガシーが詰め込まれているだけでなく、ファッション・ヒストリーを遡っても前例の無い、真新しい価値観が潜んでいるはずだ。


DAPPER DAN ATELIER

241 LENOX AVENUE, NEW YORK



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