私はまだ小さかったため全く記憶にないのだが、80年代から90年代前半は創造的な黄金期だったという話を耳にすることが多い。いつも話題に上るのは、COMME DES GARÇONSによってもたらされた服とは何かということに関する問い掛けや表現方法、発明された生産上の独自の加工法であり、またそこに刺激を受けたマルタン・マルジェラがもたらしたウィットのある創作と試みや、ウィーンでひっそりと活動していたヘルムート・ラングの80年代から90年代前半にかけてパリで起こしたメンズウェアとウィメンズウェア双方にもたらした潮流といったところだろうか。
数十年の時代を通しで眺めてみると、その時々において強い価値観とデザインの提示を通して注目を集め、業界、ないしは社会に記録的な突風を巻き起こしてきた人物や組織の名前は数多く目にする。しかし、その持続性を伴い産業の仕組みや仕事の考え方といったバックエンドの部分までに大きな影響を与えたという意味で、現代の潮流を決定付けてきた人物や組織の名前はそうそう沢山上がらない。そういった文脈では一代で築き上げられたCOMME DES GARÇONSは忘れてはならない数少ない例の一つだろう。また、同じく一代で、そして40年で巨大なラグジュアリーブランドをゼロから作り、今も現役で多角的な活動を続けているジョルジオ・アルマーニ、或いは自身の力を使って大資本の動きに影響を与え続けるアナ・ウィンターもその数少ない例の一つとして評価する人もいるかもしれない。しかし、忘れてはならない人物がもう一人いる。KERINGと並び、今では業界のラグジュアリーブランドを多数傘下に収めるLVMHの会長ベルナール・アルノーである。