HIROKI NAKAMURA

中村ヒロキ 2/3
ISSUE 1
INTERVIEW TEXT JUNSUKE YAMASAKI
中村ヒロキ
VISVIM / WMV クリエイティブディレクター


さらけ出されるパーソナリティ


服作りの過程で古着のリサーチをされるかと思うのですが、誰かが着ていたヴィンテージジャケットがカッコ良かったというようなことよりも、この民族の人たちはこういう生き方をしてるからカッコ良い、というような思考回路でその古着に興味を持たれるのでしょうか?

それを調べていくことが一つのプロセスなんです。例えば「このオレンジのファブリックはなぜ可愛いのか?」というように考えていきます。ただ、あまり頭で考えないようにしているんです。「誰々が着てた」「あれは売れていた」「あのアルバムの表紙で使われていた」とかそういうことは考えません。(頭部に手を当てて)ここで考えないで、(胸に手を当てて)ここで考えようとするのが僕の訓練。それができてきた上で何かに惹かれたり、カッコ良いなと感じる衝動があるんですが、それは理屈ではありません。ただ最初に感じた衝動を、その後に理屈で分解していくようにしています。なぜ「Oh!」と感じたのか、そのインプレッションをブレイクダウンしていく。


最近、そんな心に響いたリサーチはありましたでしょうか?

たくさんあるんですけど……、例えば少し前に台湾に行ったとき、タイヤル族の人たちが着ていたジャケットが、HUDSON’S BAYのブランケットを壊して、赤いウールの部分だけをもう一回糸にして付け直して使っていたんです。僕もHUDSON’S BAYのブランケットはいくつか持っていて、そのブランケットの赤と同じ赤い糸を解いて、ディテールで使っていたんですよね。僕の想像ですけど、タイヤル族の誰かが「この赤、いいよね」っていって、糸にしてディテールに使ったんだろうなと。そういうことがインスピレーション源になるんです。そこから色々なことを考えますね。


思考を巡らすときはひとりになって考えることが多いですか?

車や飛行機に乗っているとき、夜寝る前とか朝に一人で考えるときもありますし、奥さんに話を聞いてもらうときもあります。パリの展示会用に作り上げていくときは、作りたいピースや強烈な個性みたいなものがあり、そこからイマジネーションを膨らませてコレクションにしていくこともありますし、特定の職人さんのテクニックをベースにして全体のコレクションを作っていくときもあります。ただ、今回(2015-16年秋冬コレクション)はなかなかパリの展示会のディレクションが見えてこなくて、プロダクトが出来上がってくる中、月日だけが流れてしまい、全然まとまらないまま12月まできてしまったんです。そんな中、奥さんに相談して、彼女が過去数ヵ月に撮りためていた写真を見せてもらったところ、「そうだ、こういうことだったんだな!」と思い、これらの写真を使って制作プロセスをシェアすることに決めたんです。


今までは大きな造作物などが鎮座したプレゼンテーションだったのですが、写真を壁に並べただけの展示はものすごく新しいものでした。パーソナルな表現方法でしたし、今までの中でも最も中村さんらしく、とても“HONEST”だと感じました。

そうなんです、自分のパーソナルな部分をさらけ出すことによって商品にパーソナリティをつけられないか、と考えました。写真がすべてパーソナルなものだと気付いて、それらを商品とともにプレゼンテーションの場所で見せられたら、商品にもキャラクターや奥行きが出てくるんじゃないかと思い付きました。VISVIMのスタッフや関係者が出てくるような人間くさい写真を使うことで、カッコつけないありのままのものを見せてみました。さらにすべての写真に対してコメントもつけました。今回のパリで感じたのが、ショールームに来てくれた人たちがすごく暖かかったんですよ。こちら側がオープンになると、あちら側もオープンになるんですよね。つまり、僕らがカッコつけていたら距離を置かれてしまうんです。今回はそれらの写真を見て、僕らのこと、ブランドのことももっとよくわかっていただけたのかなと。すべてではないですが、自分をさらけ出すということは大切かなと思いましたね。