KYARY PAMYU PAMYU

2016年、「カワイイ」はどのように変容していくのだろうか?
ISSUE 3
INTERVIEW TEXT JUNSUKE YAMASAKI
様々なミュージシャンたちが様々なファッションスタイルをごく自然に生み出してきたのが20世紀後半の出来事だったように思う。時代とリンクし、時代に向けたメッセージと共に、そのスタイルは自然と人々に支持され、真似され、生活の中に溶け込んでいき、後世にも受け継がれてきた。しかし、この21世紀初頭において、新しいスタイルが生まれることはほぼ不可能になっている気がしている。あらゆる装いが過去に存在したファッションスタイルをトランスフォームしたものばかりで、完全に「新しい」と形容できるスタイルを目にすることはほぼあり得ない。

そんな中、新しいスタイルを生み出したといえば、ニコラ(・フォルミケッティ)がスタイリングを手掛けていた当時のレディー・ガガではないだろうか。音楽史にも、ファッション史にも残る“スタイル”であったことは紛れもない事実だと思う。誰もお肉を“着よう”とは思わないだろうし、歩行困難な靴で“踊ろう”とは思わない。ガガもニコラも、そんな無理難題やタブーに真っ向からぶつかっていくことで新しいスタイルをクリエイトし、ファン達の大いなる支持を獲得していったのだ。

では、きゃりーぱみゅぱみゅは新しいファッションスタイルを生み出しているといえるのだろうか? もちろん答えは割れるとは思うが、僕の答えは「YES」だ。竹下通りや“裏原”界隈で発生したカラフルなファッションをベースに、それをステージパフォーマンスの領域にまで昇華させ、更に日本全国のお茶の間にまで広めてみせたのだ。ガガにしろ、きゃりーにしろ、そのファッションはカート・コバーンのグランジスタイルのように日常生活における“オシャレ服”として決して真似出来るものではないし、一般人がそのファッションを纏うことは困難だが、そのヴィジュアルを目の当たりにし、受け入れ、咀嚼し、楽しむことはもちろん可能だ。

そんな彼女の「カワイイ」スタイルはどのようにして生まれ、作り上げられていったのだろうか? その裏側にはどんな秘訣が潜んでいるのか? ファッションだけでなく、音楽活動から日々の“呟き”まで、彼女のクリエイティヴィティの源に迫ってみた。


先日、デビュー5周年を記念した新プロジェクトの発表がありましたが、なぜLINE LIVE(LINEによるライヴ中継アプリ)で行おうと思ったのですか?

LINE LIVEって今、観ている方がメチャクチャ多いらしくて、特に私のファンの方々って中学生、高校生が多いので、一番リアルにみんなに届き易いツールだと思ったんです。それに(デビュー)5周年の発表だったので、オフィシャルサイトで発表するよりも、何か一ネタ面白いことをしたいなと思って「緊急入院」という記者会見を開かせてもらいました。でも、リアルに友達3人くらいから「入院しているの?」っていうメールが来ましたけど(笑)。結構ギリギリな感じでやりましたね。


何故、病院を舞台にしたテーマを選んだのですか?

スリルさと、「どうなっちゃうんだろう!?」みたいな、みんなの期待を背負っての病院だったと思います。


アルバム等でも同じだと思うのですが、色々なコンセプトを出されていますよね。どういう風にチームと生み出していくのですか?

私がこういう風にしたいって提案することもありますし、「こういうことをやりたいと思うんだけど、どう?」って誰かが案を出してくれることもありますし、結構悪ふざけみたいな感じで案を出し合ってる感じはあります(笑)。「緊急入院したら面白いんじゃない?」「あ、いいね、それ!」って。そうやってふざけて案を出して、それがそのまま決まることもありますね。


本誌の今回のメインテーマが「新しい」というものなのですが、「新しい」という言葉の意味や定義があるとすれば、それはどういうものだと考えますか?

何ですかね……、今までやったことのないことに挑戦するというのは、私の中でも新しいと思いますね。でも、新しいことをやるのって凄い勇気が要りますし、無難にいきたいなという気持ちもあるんですけど……。


今までで一番勇気が必要だった、“挑戦”したといえるようなプロジェクトは何でしたか?

それをいってしまえば「きゃりーぱみゅぱみゅ」自体が新し過ぎたと思います(笑)。自分が18歳の頃にデビューした時の『PONPONPON』という曲があるのですが、あのミュージックビデオを今観ると「今の私じゃ出来ないな」と思うことをやっていて、当時デビューしたてで何も分からないからこそ出来た作品で、心臓の映像が出てきたり、口から目玉を出したりとか、大分カオスなことをやっていたなと思います。元々カワイイものが好きだったんですが、日本はアニメやアイドル等、カワイイもので溢れていたので、そこに自分らしさ、好きなものをプラスしたいなと思った時に、当時はグロいものとかが好きだったので、そういうものを取り入れたかったんです。


「きゃりーぱみゅぱみゅ」になる勇気も必要だったと思うのですが、何故「きゃりーぱみゅぱみゅ」になろうと思ったのですか?

正直言うと、5年間も活動するとは本当に思ってなかったです。事務所の社長さんと中田ヤスタカ(CAPSULE)さんで、新たに女の子をデビューさせる企画を考えていて、その話を頂いた時に、元々私は中田ヤスタカさんのリスナーだったので「イエーイ! ラッキー!」と思ったんですけど。でもそれも1曲のみとか、半年間のみ活動するだけかと思っていたので、こんなに5年間もファンの方々とか色々な方々に支えてもらっていて……、ふと感動します(笑)。


「カワイイ」の概念、そして「新しいカワイイ」があるとすれば、それは何だと思いますか?

「カワイイ」の概念は正直凄い難しくて、私も理解出来ていないのですが、私は元々原宿のストリート出身なので、原宿っぽい、おもちゃっぽいアイテムとか、ごちゃごちゃの組み合わせとか、「それってオシャレなのかな?」って疑問に思うものがカワイイと思います。「新しいカワイイ」は、やっぱり今だとアニメが凄い強い気がしますね。海外の方と話していても、初音ミクが好きとか、何とかっていうゲームのアイドルが好きとか、「カワイイ」がアニメ寄りになってきている気もします。あとはゆるキャラとか?


ご自身はアニメとかは観ますか?

あんまり観ないですね。でも絵やアニメを見てカワイイと思いますし、「日本人って器用だな」って思う映像が多い気がします。


ご自身で「きゃりーぱみゅぱみゅ」をカワイイと思いますか?

分からないですね……、どうなんだろう(笑)。でも今、もし私が小学生とかだったら多分好きです。何故なら自分なので。自分が好きなことをやっているので、普通に好きですね。


きゃりーぱみゅぱみゅは一般的にはカワイイと捉えられていないものを、カワイイものに変化させる力を持っていると思うんです。心臓が出るとか、目が飛び出るとか、そういうものをどうやってカワイイに持っていっているのでしょうか?

何かを作っていく上で、いつでも少女らしさと二次元っぽさ、キャラクター感を強く出しているかもしれないですね。PVやライヴでも何かになりきって衣装を変えたりするので、そういった意味では子供達からするとセーラームーンとか、変身するヒーローみたいなものに少し近いのかもしれないです、ヴィジュアルは。コスプレとかも、小さい子がお母さんに作ってもらってその衣装を着て(ライヴに)来たりしてくれるので、女の子の憧れみたいな風になれたらいいなと思っています。


ファッションについて、ファッションそのものをどういうものだと捉えていますか?

自分を一番に表現出来るアイテムだと思いますね。「私ってこういう人!」って。ファッションを見ればその人が分かるというか、「この人は何系の人」とか。その人の性格もファッションに表れていると思います。


プライベートと人前に出る時で服装は違うと思うのですが、どういう風に棲み分けしていますか?

元々ファッションが凄い好きで、高校を卒業したら服飾系の学校に行こうと思っていて、願書まで出していたんですが、このお仕事をするようになってからはファッションの好きな部分を衣装で表現しています。いつもスタイリストさんとデザインやお洋服を考えているのですが、「こんな服があったらいいな」「こんな柄があったらカワイイな」というのを提案しています。プライベートでは、あんまり派手過ぎると目立ってしまうので、街に馴染む服を着ていますね(笑)。今日も私服なんですけど、基本的に黒い色が多くて、最近テレビに出演する時は少し派手な私服を買ってそれを着たりとかもしているので、楽しんで使い分けています。


服飾系の学校に行った後は、デザイナーやスタイリストになりたいと思っていたのですか?

ファッションデザインをしたいと思っていました。特に下着が好きで、下着屋さん行き過ぎだろっていうくらい行っていて、下着のデザインに興味がありますね。下着って、あの小ささの中に全てを詰めなければいけないという難しさと、下着を選んでいて「ここのデザインがなかったら買ってたな」っていうデザインが多いので、自分が好きな下着を作りたいですね。


衣装制作を進めていくにあたって、どんなポイントが新しいと思って作っていきますか?

衣装を制作していく時には定義があるんですけど、少女らしさの中にパフスリーヴを取り入れたり、スカートの中にパニエを入れてヴォリュームを出したり、靴は厚底にします。この3つのキーワードがほぼ全ての衣装に当てはまるのですが、前回の「CRAZY PARTY NIGHT 2015」というツアーを行った時は、コンセプトが「大人のナイトクラブ」だったので、肩を出してスッキリとしたシルエットのキラキラの星のワンピドレスみたいなものを着たり、背中が開いた服を着たり、今まではそんなに露出をしてこなかったので、そこは自分の中で新しいことを一歩できたと思いました。


確かにあまり露出はしないですよね。でも、タイに行った時に水着を着た写真をアップされていたと思うのですが、4万くらい「いいね」が付いていましたよね。

そうなんです。あまり露出をしないのですが、出したくないという訳ではないんですけどね。白雪姫みたいなバランスが可愛くて好きなんです。


スタイリストの飯嶋久美子さんと一緒に衣装制作をしていると思うのですが、最終的に衣装が出来上がるまでのプロセスを詳しく教えて下さい。

テーブルに座って「どんな衣装にする?」って、まずは飯嶋さんに私の顔写真の紙を渡されて、お互いに絵を描きます。いつも話す時に最初に箇条書きにして、今回は大人にするとか、黒いガーターベルトを着けたいとか、ポイントを先に書いて、そこから絵にしていきますね。私は凄い絵が下手なので、飯嶋さんが最終的に綺麗に描いてくれます。


例えば、「イケてないものを作ろう」というテーマは今まで無かったのでしょうか?

その企画によりますけど、常にイケてるものを作っていきたいし、凄いカッコイイ衣装にしたいと思っています。でも「イケてない」ということでいうと、『インベーダーインベーダー』の時に「ボロボロの継ぎ接ぎの衣装にしたい!」といきなり意味の分からないことを私が言ったので、ボロボロという言葉はあまりイケてないと思うのですが、そこのところを飯嶋さんが凄いカワイイ生地を継ぎ接ぎで縫ってくれたので、イケてる服になりましたね。


「可愛くないようにしよう」ということもあるのですか?

ありますけど、カワイイ風にしない時は、カッコイイ方向になりますね。曲が可愛過ぎるとパンツスタイルでいこうとか、フリフリは嫌とか、子供っぽくなり過ぎないようにしたいとか、そういうバランスは考えますね。意外と曲と衣装がマッチしているようでしていないシリーズ、幾つかあると思います。


音が先にくるのか、衣装が先にくるのか、どうやって両者をリンクさせていきますか?

いつもは先にレコーディングをするケースが多いので、音が先にきます。そこからPVや歌番組に出演するにあたってのファッションを考えて、振り付けを考えて、という流れですね。


「踊れるような服にしよう」というようにはあまり考えないのですか?

今まで結構服を重視し過ぎて、頭が重過ぎるとか、『ミュージックステーション』で座れないとか(笑)。『CANDY CANDY』という曲を発表した時にはスカートがウレタンという生地で、座れなかったので衣装を変えましたね(笑)。歌う時に付け足して、座っている時は外していました。後は、マイクを持つ時にモサモサしちゃって、本番直前に着て、縫ってもらったりしたこともありました。でも段々と経験していく上で、こっちは付けない方がいいんだとか、スカートはこういうのがいいんだとか、分かってきましたね。


ファッションを作る時と音楽を作る時で、似ているポイント、異なるポイントを教えて下さい。また、新しいことをやられるにあたって、その中で同じポイントや違うポイントはありますか?

同じポイントは誰もやったことが無いことをやろう、という点ですね。音楽もやっぱり誰も出来ないし、私じゃないと成立しないことを、そしてそれをファッションでもやっていきたいと思っています。違う所は、音楽では中田ヤスタカさんとお話しをしてから生まれることも多いのですが、ファッションに関しては飯嶋さんと意見を出すことが多いですね。私は中田ヤスタカさんが作る音楽が好きなので、音楽に対して口出しはあまりしないです。こだわりはファッションの方が多いですね。


誰もやっていないことをやろうとする時、「この人はこういうことをやっているから、やらないようにしよう」という消去法なのか、例えば、今目の前にあるコップを見て閃いて、何かを突然作ろうと思うのか、どちらの方が多いですか?

例えば「コップで衣装を作ろう!」と思っても、調べたら作られていたというパターンもあります。なのでちゃんと調べますし、あまり誰かを傷付けたくもないので。以前、PV撮影用に衣装を探していて、血がドロドロしているネックレスをネットで見て、それが凄く気に入って探したんですけど、見付からなかったので作っちゃおうということになったんです。でも、もしかしたらその人が凄い思いで作ったネックレスかもしれないし……。勝手に作って傷付けたりするのは嫌なので、その後も一生懸命(スタッフに)探してもらって、結局はその人と直接やり取りが出来て使わせて頂けたんです。なので、パクリとかは結構過剰に気を付けてますね。被らないように一応調べます。


本来はファッションデザイナー達もそういうことをやらなきゃかもしれないですよね。その考えは素晴らしいですね。

音楽もファッションも歴史が凄く長いので、絶対に似てるものとか似てる音って出てきちゃうと思うんですけど、ネット上の人達は意見が凄い厳しいんですよね。折角みんなで良いものを作ったのに、「あの衣装は何とかのパクリだ」とか言われたら、そっちばかりに注目が行ってしまって、ちゃんと向き合って見てくれなくなっちゃうので気を付けたいところですね。


TWITTERでの言葉の生み出し方が常日頃から「新しい」と感じて見ているのですが、新語とも形容できるようなそれらの言葉を生み出すプロセスについて教えて下さい。

TWITTERは本当に自分の心境ですね。元々ブログを書いていたのですが、今は思ったことを少ない文字で世界にも発信できてしまうので、「この曲最高だった!」とか、「これ美味しかった!」とか、普通のことを書いています。別に新語とかでは無いと思います。最近も「深夜にラーメン食べちったな」とか(笑)。そういうことばかり書いていますね。


あまり意識はしてないということですか?

意識はしてないですね。ファンの子で「きゃりーちゃんは苺とマシュマロしか食べない」と思っている女の子がいて(笑)。そう思っているファンの子は、人間味のあるツイートをすると、ちょっとイメージと違うなって思う方が多くて。逆に、完成されたきゃりーぱみゅぱみゅという存在だと思っている人が、ふとTWITTERを見たらめちゃくちゃ友達っぽいことをツイートしているので、それでファンになってくれる方も多かったりします。フォロワーも最近400万人を突破したので……。怖いですけどね、一つ一つ呟くことが。こんなに多くの人が見ているなら、もう少し重みのあるツイートをした方がいいのではとも思います(笑)。


中国のアーティスト、アイ・ウェイウェイは彼自身のツイート自体もアート活動の一部になっているのですが、きゃりーさんご自身はただ心境をツイートしているだけで、それ自体をアートとは捉えていないでしょうか?

アートだと思っていたら、もうちょっと詩みたいなことを書くと思います。「春の風~」とか(笑)。アートというか、それがリアルな生き方だと思っています。私の世代はみんなTWITTERやっていますしね。


どんなタイミングでツイートしようと思うのですか?

タイミングでいうと、一人でいる時に結構ツイートしちゃいます。暇な時とか。友達と一日遊んでいる時はあんまりネットを見ないので。でも「共有したい」という気持ちが強いので、「この映画が凄い良かった」とか、「この音楽が良かったから、みんなにも聴いてもらえたら」とか、純粋に良いと思ったことをツイートするのが多いかもしれないです。


ご自身のアーティスト像や表現方法など、次に考えている何か新しいプロジェクトについて教えて下さい。

今年は5周年ということで、LINE LIVEでも発表したのですが、5つの面白いことをやっていこうという中で、一番楽しみにしているのは様々なアーティストとのコラボという企画です。本当にざっくりしていて何も決まっていないのですが、アーティストとのコラボって音楽なのかファッションなのかデザイナーなのか、凄い幅が広いなと思っていて。この5年間、色々なことをやってきましたけど、あんまりコラボってしたことが無かったし、正直そんなにハマって無かったと思うんですよね。誰かとお仕ことしても「凄い良かったね!」ということも少なかったと思うので、作品としてやって良かったと思えるようなコラボレーションをしてみたいと思います。個人的には、超一流のデザイナーさんというよりは、若手の方とか、コアなことをやっている人の方が面白くなるんじゃないのかなと思っていますね。


KYARY PAMYU PAMYU 1

12THシングル『最&高』初回限定盤(2016年4月20日発売/ワーナーミュージック・ジャパン)


KYARY PAMYU PAMYU 2

12THシングル『最&高』通常盤(2016年4月20日発売/ワーナーミュージック・ジャパン)


KYARY PAMYU PAMYU 3

初ベストアルバム『KPP BEST』初回限定盤(2016年5月25日発売/ワーナーミュージック・ジャパン)


KYARY PAMYU PAMYU 4

初ベストアルバム『KPP BEST』通常盤(2016年5月25日発売/ワーナーミュージック・ジャパン)


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