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TETSUYA KOMURO
アーティスト小室哲哉の未来。
ISSUE 2
PHOTOGRAPHY YASUNARI KIKUMA
INTERVIEW TEXT JUNSUKE YAMASAKI
「今から、小室さん、あの小室哲哉さんのスタジオにちょっと行きませんか?」。
仕事仲間でもあり、友人でもある人物からの突然の誘いで彼専用のレコーディングスタジオに到着したのが夜11時くらいだっただろうか。当然ながら、到着までの間に彼の生み出してきた楽曲やアーティストなど、様々なことに考えを巡らせてしまっていた。幸か不幸か、タッチの差ですでに別件のためにスタジオを出てしまっており、彼と会うことはなかった。しかし、そこから約4時間、8月にリリースされたGLOBEの『REMODE 1』のサンプル曲を聴かせてもらうことができた。本人不在という緊張感の低い環境も手伝って、ゆっくりとそれらに耳を傾けることができたのだった。
このように形容してしまうとネガティヴに受け取られてしまうかもしれないが、『REMODE 1』を聴いた率直な感想は、「2015年に撮影された、上質なヴィンテージウェアを用いたファッションストーリー」。つまり、ヴィンテージウェアというのは古臭いものの代名詞ではなく、タイムレスに輝く服であり、GLOBEの曲も正に同じ存在なのだと感じたのだ。確かに、音楽業界のトレンドや、彼が引き起こした事件などから、小室哲哉が生み出してきた音楽の数々は、世間の人たちから少々疎遠になってしまっていたことは否めない。しかし、こういうことなのである。「久々に引っ張り出してきてみたけどさ、この服、今着てもすごくいいじゃないか!」。
このインタビュー以前に何回かお会いする機会があったこともあり、その際に彼の描く「アーティスト小室哲哉の未来予想図」については一通り聞いてしまっていた。未発表の事案もあるため、いずれにしてもここでは紹介できないのだが。しかし、彼のスタジオで行われた本インタビューでは、彼の携帯に届くLINEメッセージの受信音と空調音以外ない、静寂に包まれた環境で、改めて彼に質問を投げ掛ける機会に恵まれた。そこにはアーティストとしての小室哲哉の芯の強さ、音楽に賭ける強靭な意志、そして彼を裏切ることのなかったファンたちへの愛について聞くことができたのだ。
10代の頃から耳にしていた小室哲哉ミュージック。
彼にまつわる種々雑多な芸能ニュース。
失礼ながらもKEIKOさんの声を真似て熱唱してしまう『FACES PLACES』。
偶然にも出会うことになった小室哲哉本人、そして本インタビュー取材。
今後、小室哲哉はどのようなアーティストになっていくのだろうか?
音楽で飯を食っていこう、と決意されたきっかけは何だったのでしょうか?
中学二年生の音楽の時間に「縦笛の作曲をやろう」ということになったんですが、あまりやる気のない臨時の先生だったので「できる人だけでいいから」なんて言って。45分くらい時間をもらって、短い曲を無記名で提出したんです。先生がバーッと見てから、「音楽で食べていくというか、作曲をすることになるかもしれない人がいるから」と言って、僕の楽譜を黒板に書いて、みんなで合奏してから授業を終わることになったんです。そのときに音楽のパワーというか伝達力というか……、僕はわかるわけですよ、自分のメロディが黒板に書かれたわけですから。クラスのみんなも僕とはわからないまま、僕の曲を演奏するわけです。今現代のソーシャルメディアの時代じゃないですけど、譜面という“データ”だけでそういうことが起きたんです。そのときに、褒められて嬉しかったというのもあるんですけど、それよりも僕と先生、そして誰の曲かがわからないみんながわかり合えたという現象が、ちょっとした恐怖現象のように感じて(笑)。「これはスゴいことだな」と、そのときはぼんやりと思っていましたね。
人が連動していく、人がつながっていく装置という意味で、小室さんの音楽はツイッターのようなものだとも感じています。さらに、そこにはアーティスティックな感情や表現が宿っていますよね。
昔から譜面みたいなものはありましたし、その時代からアートをデータや記号で置き換えるということは行われていたんですよね。譜面というのはおもしろくて、アルファベットでも漢字でも、何でもないじゃないですか。他には使えない音楽のための記号なので。もっと遡れば、宮廷音楽のパトロンの人たちが、今でいうプレイリスターなのかなと。舞踏会みたいなものがあって、王子様や王様とかが呼ばれて来て、その人たちが「良かった!」なんて言えば、それが“拡散”みたいなことだと思うので、中世のヨーロッパですでに、今の基本となるシステムはできていたんじゃないかって思いますね。
音楽に接するとき、音楽自体の意味とかを深く考えることなく、まずは頭の中、身体の中に入っていって、「リズムがいいな」なんという風に記憶していっているような気がします。作り手の小室さん自身は、どこまで咀嚼して音楽を食べてもらいたいと思っているのでしょうか?
BPMが120のテープだと2秒とかなんですよね。なので何となくのフレーズであれば、4小節くらいで何とか1フレーズ作れるので、8~10秒あれば言葉でも人を振り向かせるというか、「ん!?」と思わせることができるものなんです。それができたら、そこからのコネクトっていうのが意外とできていくんじゃないのかなと思っています。僕の場合はそれがすべてなので。フレーズがおもしろかったり、あとはフックになるリフみたいなフレーズがあったり。超ウルトライントロクイズみたいですけど、あそこを一発のフックして引っ掛かってくれたら嬉しいですね。それか、どんどんドアを開けていってくれる人もいるので、「行っても行ってもまだドアがあるぞ!」っていうところは作っておかないと。門構えはすごいけど、「え、もうこれでおしまい?」みたいなのだと……(笑)。「結構部屋は手狭なんだね」みたいな感じに思わせてしまったら申し訳ないので。隠し部屋というか、「あ、ここを開けたらすごいお宝があった!」みたいなところまでは、か相当……。アスリートではないので、汗をかくという表現は違うんですが、ムチャクチャ頭が汗をかくといいますか、汗をかいて絞り出しますよね。そこだけはフッと湧いてくるようなものではないです。
聴き手に回ったとき、隠し部屋が多い曲を作っている音楽家というのはいらっしゃいますか?
わかりやすいかもしれませんけど、やっぱりベートーヴェンはそういうのがあると思いますね。なぜかっていうと、正直に言ってしまえば、やっぱり聴力が失われたっていうのは音楽家としては致命的ですよね。僕は機会があって、ベートーヴェンが最後の聴力を失ったときの部屋を見に行ったことがあるんです。そこの窓から教会がよく見えるんですよ。なので鐘が時報みたいに鳴るんですよね。でも「鐘が動いているけど、鳴ってないじゃないか?」と。ベートーヴェンはそこから自分の聴力が確実になくなっていることがわかった、というストーリーがその部屋に書いてあったんですよ。彼はそういう経験をしていますから、僕らにはわからない視覚というか、感覚で譜面を書いていましたからね。感覚でデータを作ってしまうということですから。なので、至る所にスゴいと思う部分はありますよね。あと、ビートルズとかの時代になってくると、やっぱりメディアというものが出来上がっていて、人生の半分はもうメディアとの戦いみたいなところもあったと思うんです。
音楽を作るということも、やはり今と昔では違うんでしょうか?
そうですね。ピュアに生き続けて、本当にやりたいことをクリエイトしようとしても、特に今の日本の音楽界では「プロとしてやるんだったらルールを守ってね」みたいなところに行き着いてしまうんです。かなりルールが厳しかったりするので、(クリエイションの幅が)少し狭まっているというか。例えばアニメーターとかゲームクリエイターの人たちの方が、妄想の世界、脳の中の世界観を如実に表せるのかもしれません。当然ながらルールがあることで、秩序が守られていて、世界でもギリギリの安定があるとは思うので、彼らもヴァイオレンスやグロテスクなものは作れないといったルールがあるはずですけど。
やりたいけどやれない音楽はありますか?
間違いなくありますね。フラワームーヴメント、ヒッピームーヴメントの頃は、音楽が戦争を止めさせてしまうくらいの力があったと思うんですよね。特にウッドストック・フェスティバルとかはベトナム戦争をやってる最中の音楽フェスで、あの頃はそういうパワーがあったというか。今はできないですよね、やっぱり長いものに巻かれなきゃいけないっていうところがあると思うので。
少し話は変わりますが、小室さんにとって「ファン」とはどのような存在かをお聞かせください。
本当にありがたい。一言で言ったら本当にそれしかないんですよね。
中学二年生の授業で一体感を生んだクラスメートたちと、ファンとでは全く異なりますよね。
確かにその通りです、全く別なんですよね。すごく寛容だし、一番ダメなところを応援してくれて、良いときはそっと静観してくれる。何だかアーティストに対しての押し引きまでわかってくれているみたいで(笑)。
事件があったとき、僕はみんなが小室さんのファンだったんだなと思ったんです。彼らは単なる小室音楽のヘビーユーザーではなかったんですよね。
僕は自分の楽曲が子供たちだと思っているんですけど、つくづく自分が作った子供たちに救われているんだなと。僕がここでこうやってお話しさせてもらってるのも、出来の良い子たちががんばってくれて、みんなに伝えてくれたお陰だと思っているので。それに、自暴自棄にならないように、自虐的にならないようにしてくれているのはファンのお陰だと思っているんですよね。海外のアーティストとかで自虐的になってしまって、ドラッグなどで自分をいじめ倒す人も多いと思うんですけど、彼らはファンを見てこなかったんじゃないのかなって。ファンの人たちと対峙できていなかったんだと思うんですよね。対峙している人はちゃんと復活していますし。ファンの人たちが待ってくれてると思えたら、やっぱり自然とがんばっちゃいますよね。あとは褒めてもらえると、とてつもないエネルギーになるんです。けなされっ放しよりも、やっぱり褒めてもらった力の方が強いなと(笑)。音楽の場合、打ちのめされるとなかなか難しいと思うんですよね。そこはアスリートの人たちと少し違うのかもしれません。音楽は皆さんのエモーションなので。そういったものは数値には出てきませんから。
GLOBE『REMODE 1』(AVEX GLOBE)
8月にリリースされた『REMODE 1』についてお聞かせください。制作に至ったきっかけは何だったのでしょうか?
ここ3年くらいで色々とトライしてきたんですけど、難しかったり、より悪くなってしまう部分が多くなってしまっていたんです。無理矢理やっても仕方がないので、とにかく無理をせずにやれることを考えて、最初は僕一人でやれることを考えていたんですけど、幸いなことにGLOBEというのはバンド感が強い3人で、マークが地道にDJの活動をしてくれていたんです。彼はDJはメディアだと悟ったらしいんですよね。「どれだけ良いプレイリストを、その場でみんなに聴かせてあげることができるか?」。そうしていく中で、僕のメロディメーカーみたいな部分へのリスペクトもより強くなってくれたみたいで。そうして彼もサポートして、一緒にやってくれることになっていきましたね。『REMODE 1』は僕がほとんどメインですけど、この続きで『REMODE 2』も出そうと思っています。蔵出しじゃないですけど、未発表のものもあったりするので。それに僕らは「KEIKOは骨折していて、病院で入院してるんだよね」「治ったらまた三人でやるんだ」くらいな感覚でいるので、新曲もどんどん作っていって、後々彼女が歌えるようになったら歌えばいいと思っているんです。とにかくやり続けることが大事だなって思っているんですよね。あらゆるジャンルの色々な音楽をマルチタスク的にできるっていうことも、やっぱり自分の能力としてはみんなに見てもらいながら、当分の間はGLOBEを真ん中の軸に置いていければなと。そこで当然「KEIKOの声が聴きたい!」っていう声があるとは思うんですけど、それは僕たちも待っていますし、「みんなで待とうよ!」と。そこは僕らもファン目線でいこうかなって思ったりしてますね。あとは、KEIKOの歌を聴いて歌手を目指し、実際にブレイクしているアーティストの人もたくさんいるみたいなんです。20年の間でそういう経過を辿っている人がいるので、トリビュートみたいなものも作っていくと思います。この前、FNS歌謡祭で三人のアーティストに一曲ずつ歌ってもらったんですよね。そこにはマークもいたので、歌い手にとってみれば自分自身がヒロインになれる、すごく気持ちのいい立ち位置だったと思うんです。そこで歌うアーティストたちが、安室さんや華原さんのようなヒロインになれる、そういうお役に立てればと思って僕らはやっていたんですけどね。なので、また同じような企画があっていいかなと。
そういう意味では、小室さんご自身はヒロインメーカーの“ヒーロー”でもあったわけですよね。
そうですね、ヒロインメーカーというつもりではいましたね。どうやったらシンデレラみたいなストーリーにさせてあげられるか? あの頃はそういったことを常に考えていましたよね。
最後に、今後の音楽界についての質問をさせてください。受け手の人たちは音楽は無料で聴けるものという感覚が強くなってきたと思うんですが、小室さんは何か解決策はお持ちでしょうか?
僕はもちろん前向きに考えていて、アーティストを守るという意味ではAPPLE MUSICのCONNECTが一番先をいっていると思っています。それに、動画だったりチャットだったり、とにかく関連するすべてのことを導いてあげられる入口がサブスクでいいと思うんです。あとはプレイリスターの人にどんどんレコメンドしていってもらうことですね。すべての職業にも通ずると思いますけど、いずれにしても「あいつ、何か引っ掛かるな」とならないとダメだと思うんです。話術だったり、接し方だったり、そういうこともタレントだと思うので。僕はたまたまそれが音=サウンドだったと思っていますけど。プラス、ちょっとでも僕の音楽に引っ掛かってくれた人への「ありがとう」という感情ですよね。この歳になってこの気持ちがわかってきて、そこだけは完全に理解したつもりでいます。ヒーロー像って、荒々しい仕事をしていても、最後は優しいじゃないですか(笑)。人間味溢れるところがヒーローだという気もするので。
TETSUYA KOMURO
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