ティルマンスの作品は、美しく、時に啓発的に時代を写真に収めてきた。政治、経済、テクノロジー、アート、ジェンダーといった時代のあらゆる側面を、写真というメディアを通して一つの作品の中に結び付ける。一見、凡庸かつ無価値に思えるような断片も、彼の手に掛かると、時代の重要な構成要素へと発展を遂げる。どの作品も生み出された時代を象徴する、いわば時代のポートレイト的な役割を担い、ティルマンスは自らが時代の代弁者となって、「時の流れ」という無形のものに形を与えてきた。『Wolfgang Tillmans』(1995年/TASCHEN)では、ユートピア的時代としての90年代をありありと描写し、「Truth Study Center」のときは「真実を研究する機関」というタイトルの通り、真実の独占が当たり前のように横行している2000年代への懐疑を投げ掛けた。「Lighter」では、写実的イメージで氾濫する00年代から写真表現を解放するために、カラー写真の純粋な物理的プロセスのみを用いた“カメラを使わない”抽象写真を考案し、「Neue Welt」の場合は、あらゆる世界の記録が写真によってなされた2010年代において、あえて自らの世界旅行の様子をデジタル写真に収めた作品を発表した。
00年代以降、技術の驚異的な進歩と並行して起こっていた政治経済の変遷の中、彼は多くの不可思議な人たちによる主張を新聞で目にするようになる。イラクの大量破壊兵器の所在を主張するアメリカの大統領や、HIVはエイズの原因ではないと主張する南アフリカの保険相をはじめとする、「真実」を知ると主張するたくさんの人々の存在を知った。彼は新聞やインターネットから関心あるテーマの資料を集め、テーブルの上に自分の写真と並べてコラージュした編集作業に力を入れた作品に取り掛かり始める。「真実を研究する機関」というタイトルの通り「Truth Study Center」の一連のテーブルを使った作品は、真実の独占が当たり前のように横行している00年代の状況への挑戦であり、ファウンドマテリアルに提示された立場の増幅器として、彼自身がどのような立場を支持しているかを間接的に伝えた。